初代SLKが30周年。2026年、メルセデスの名車たちが栄光の「Hナンバー」対象へ
愛車が製造から30年を迎えるということは、オーナーにとって単なる通過点ではない。ドイツ本国において、それは愛車が公的に「自動車文化遺産」として認められることを意味するからだ。ドイツには、製造から30年以上経過し、かつオリジナルに近い良好な状態を保っている車両に対し、「Hナンバー(H-Kennzeichen)」という特別なナンバープレートを付与する制度がある。これを取得することで、自動車税の減免や、排ガス規制による環境ゾーンへの乗り入れ規制において優遇措置が適用されるなど、国を挙げてクラシックカーを保護する体制が整っているのである。そして来たる2026年、メルセデス・ベンツの歴史を変えた「あの」革命的なロードスターをはじめとする1996年デビュー組が、ついにこの栄誉あるリストに加わることとなった。
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ロードスターの概念を変えた初代SLK
2026年に30周年の節目を迎えるモデルの中で、最も注目すべき存在は初代SLK(R170)だろう。1996年4月のトリノ・モーターショーで市販モデルが公開されるやいなや、このコンパクト・ロードスターは世界中でセンセーションを巻き起こした。
その最大の理由は、スチール製の「バリオルーフ」にある。ボタン一つ、わずか25秒でクーペからロードスターへと変身するこの電動開閉式ハードトップは、当時のオープンカーの常識を覆す革命的な機構だった。
それまでのソフトトップ(幌)が抱えていた耐候性や防犯性への不安を一挙に解決し、オープンエアモータリングをより身近で、かつ快適なものへと昇華させたのである。発売当初から生産能力を超える注文が殺到したこの名車も、ついに正真正銘のクラシックカーとしての地位を確立しようとしている。
1996年、豊作の同期生たち
SLKだけではない。1996年はメルセデス・ベンツにとって、ラインナップの拡充と新境地への挑戦が結実した年でもあった。ステーションワゴン(Tモデル)においては、5月に初代Cクラス(S202)のワゴンが登場し、美しいスタイリングと実用性の高さで人気を博した。
続く6月にはEクラス・ワゴン(S210)もデビューし、こちらはクラス最大級の広大なラゲッジスペースでセグメントのベンチマークとなった。
さらに、商用車ヴィトーをベースに乗用ミニバンとして仕立てられた初代「Vクラス(W638)」が登場したのもこの年だ。広々とした室内と多彩なシートアレンジを提案し、MPV市場への本格参入を果たした記念すべきモデルである。
ハイパフォーマンスの分野では、347PSを誇るV8エンジンを搭載した「E 50 AMG」が登場し、スポーツカー顔負けの動力性能を見せつけた。また、伝統のGクラスには「G 300 ターボディーゼル」が追加され、オフロード性能とオンロードでの快適性の両立が図られている。これら多種多様なモデルたちが、一斉にHナンバーの資格を得ることになる。
メーカーによる万全のバックアップ
30年前のクルマを維持する上で最大の懸念となる部品供給だが、メルセデス・ベンツに関してはその心配は無用と言えるかもしれない。「メルセデス・ベンツ・ヘリテージ」部門は、これらヤングタイマーからクラシックへと移行するモデルたちを強力にサポートしており、約16万点もの純正スペアパーツを用意しているという。
世界中の正規ディーラーを通じて必要な部品が入手可能という体制は、さすが自動車の発明者たるブランドの矜持である。2026年、ドイツの街中でHナンバーを掲げた銀色のSLKや、質実剛健なワゴンたちを見かける機会が増えることを楽しみにしたい。
【ル・ボラン編集部より】
「バリオルーフ」の登場は、耐候性と開放感というオープンカーの二律背反を鮮やかに解決した、まさに自動車史の分水嶺であった。R170がHナンバーを得て「文化遺産」となる事実は、その革新性が一時の流行ではなく、普遍的な価値を宿していたことの証左にほかならない。モデルとしての系譜は「SLC」で幕を閉じたが、日常性を犠牲にせず走る歓びを追求するその哲学は、今の電動化時代にこそ再評価されるべきものだ。30年を経ても色褪せない「最善」の設計思想に、改めて敬意を表したい。

















