「走行距離ゼロ」へ究極の復元
ポルシェのカスタマイズ部門「ゾンダーヴンシュ・マヌファクトゥーア(Sonderwunsch Manufaktur)」はは2025年12月、プエルトリコ出身のオーナー、ビクター・ゴメス氏の特別な願いを具現化した、特別なプロジェクトを公開した。このプロジェクトは、ゴメス氏が20年間所有してきた2005年モデルの「カレラGT」を技術的に新車同様の状態へ復元し、伝説的な「ザルツブルク・デザイン」を施すという、ファクトリー・リコミッション(再注文)である。
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細部まで入念なデザインを施して
ザルツブルク・デザインとは、1970年のル・マン24時間レースでポルシェに初の総合優勝をもたらした「917」の象徴的なリバリーに由来する。当時、ザルツブルク市南部のディーラー「ポルシェ・アルペンシュトラーセ」が準備した917ショートテールの、ゼッケン23番を冠する赤と白のカラーリングがそれである。この伝説的モデルが刻んだ歴史を、現代のスーパースポーツの車体上に蘇らせることが今回のテーマとなったのだ。
製作にあたっては、まず車両を完全に解体し、5.7L V10エンジンなどの主要な技術コンポーネントを根本からオーバーホールしたほか、全てのカーボンパーツの再コーティングが実施された。
エクステリアのデザインは非常な困難を極めた。当然ながら、カレラGTと917では車体の寸法や形状が大きく異なるので、そのカラーリングを簡単に移し替える訳にはいかないためである。デザイナーのグラント・ラーソンを中心としたチームは、まずスケッチとレンダリングを作成し、実車にテープを貼ってラインのダイナミックな流れを入念に確認した上で、塗装用のテンプレートを製作した。
元はシルバーだったこのカレラGTは、ガードレッドとホワイトのカラーリングが手塗りで施され、ゼッケン23とともに、オーナーが故郷の道で走行を楽しむことを想定して、ペイントプロテクションフィルムでしっかりと保護されている。
外装の細部では、ルーフ、A/Bピラー、ドアミラーキャップ、フロントのエアダクト、リアディフューザーなどにマットブラックのカーボンが採用され、赤と白の塗装と鮮やかな対比を見せている。エンジンカバーのグリルはマットブラックのアルマイト処理が施され、オリジナルの5スポーク・デザインを維持したブラック塗装のホイールには、カラーのポルシェクレストがあしらわれた。
インテリアもゴメス氏のこだわりによって全面的にリファインされた。ダッシュボード、ドアパネル、ステアリングホイール、センターコンソール、さらにはフロントの荷室トリムまで、手触りの良いガードレッドのアルカンターラをふんだんに使用。
一方でシートシェルや計器類のカバーにはマットカーボンを配し、シートのセンター部分やヘッドレストには、「918スパイダー」でも採用されているFIA公認モータースポーツ・テキスタイル(非燃性のブラック生地)を用いることで、現代的な機能美と安全性が融合されている。
カレラGTの栄光が再び輝くとき
「ファクトリー・リコミッション」は、単なるレストアの枠を超え、ポルシェ社内のエキスパートが顧客と密接に協力して、車両を実質的に「走行距離ゼロの状態」へと戻す独占的なプログラムである。プロジェクトを確認するためドイツを数回訪れたゴメス氏は、次のようにその喜びを語った。
「ゾンダーヴンシュのエキスパートたちは、大きな情熱と細部へのこだわりを持って取り組んでくれました。今、私の手元には、走行距離0km・新車同様のコンディションで、かつ内外装ともに私の個人的なアイデアが反映されたカレラGTが存在しています」
2003年の発売当時、最高速度330km/hを誇る世界最速級の市販車であったカレラGTは、カーボンファイバー製シャシーとル・マン参戦用エンジンをルーツに持つ、現代の名車とも言うべきモデルである。今回のリコミッションにより、450kW(612ps)を発揮する1380kgの軽量な車体は、ポルシェの輝かしい栄光の歴史を纏い、再びその輝きを取り戻したと言ってよいだろう。
【ル・ボラン編集部より】
自然吸気V10をMTで操るカレラGTは、まさにアナログ・スーパーカーの到達点だ。それを「走行距離ゼロ」へ巻き戻す行為は、単なる延命ではなく、ポルシェのスポーツカー哲学を現代に再定義する試みと言える。伝説の「ザルツブルク」カラーを纏ったその姿には、ル・マンの栄光と機械式時計のような精緻さが同居する。電動化が進む今だからこそ、あえて過去の傑作に「新車」としての生命を吹き込む。この贅沢な遊びこそ、自動車趣味の深淵そのものと言えるだろう。
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