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アウディは2026年2月19日、次世代のハイパフォーマンスモデルとなる新型「アウディRS 5」を世界初公開した。これはA5シリーズの頂点に位置するモデルであり、同時にアウディスポーツの歴史において初となるプラグインハイブリッド(PHEV)システムを搭載した意欲作だ。システム最高出力470kW(639ps)という圧倒的なパワーと、日常でのゼロエミッション走行を両立させるこのモデルは、単なる環境対応車ではない。量産車世界初となる「ダイナミックトルクコントロール」を備えたquattro(クワトロ)システムの採用により、内燃機関モデルでは到達し得なかったハンドリング性能を実現しているからだ。セダンとアバントの2つのボディタイプで展開されるこの新型RS 5は、伝統の「RS」の名を冠するに相応しい、技術的革新の結晶といえる。
【画像97枚】「セダン」の躍動か、「アバント」の機能美か。アウディスポーツ初のPHEV、RS 5の両ボディタイプを比較する
V6ツインターボ+電動モーター。639psがもたらす「隙のない」加速
新型RS 5の開発における最大のトピックは、電動化技術をパフォーマンスの増強にフル活用したパワートレインにある。その核となるのは、大幅な改良が施された2.9L V6ツインターボエンジンだ。このエンジンは、吸気バルブを早めに閉じるミラーサイクル燃焼の採用や、可変ジオメトリーターボチャージャー(VTG)の導入により、単体でも375kW(510ps)の高出力を発揮する。これに組み合わされるのが、ハイブリッド化された8速ティプトロニックトランスミッションに統合された出力130kW(177ps)の電気モーターである。
特筆すべきは、この電気モーターがエンジンの過渡特性を補完する役割を担っている点だ。発進時や再加速時において、電気モーター特有の瞬発力が即座にトルクを立ち上げ、V6エンジンのブースト圧が整うまでのわずかな隙間を埋める。システム統合最高出力は470kW(639ps)、最大トルクは825Nmに達し、0-100km/h加速はわずか3.6秒で完了する。
また、バッテリー容量は総電力量25.9kWh(正味22kWh)を確保しており、EVモードでの航続距離は最大84km(市街地では最大87km)を実現。これにより、日常の移動は静粛なEVとして、週末は野性味あふれるスポーツカーとして、二つの性格を完璧に使い分けることが可能となっている。バッテリーはインテリジェントな熱管理システムにより、スポーツ走行時には最適な20℃に保たれ、常に最大のパフォーマンスを発揮できる状態が維持される。
世界初「電動機械式トルクベクタリング」。quattroは物理法則を超えたか
新型RS 5の真価は、その強大なパワーを路面に伝える駆動システムにある。アウディは今回、リアトランスアクスルに「ダイナミックトルクコントロール」を組み込んだ新しいquattroシステムを開発した。これは量産車として世界初となる「電気機械式トルクベクタリング」を採用したものであり、従来の機械式デファレンシャルとは一線を画す構造を持つ。
リアアクスルには、駆動用のモーターとは別に、トルク配分を制御するための独立したアクチュエーター、オーバードライブギア、そしてオープンディファレンシャルが搭載されている。2つの電気モーターが連携し、走行状況に応じて左右の後輪間でトルクを自在に、かつ瞬時に配分する。その反応速度は驚異的で、わずか15ミリ秒以内に最大2000Nmものトルク差を発生させることができる。
コーナリング時には、アウト側のホイールに積極的に駆動力を配分することで、車両を旋回させるヨーモーメントを発生させ、アンダーステアを劇的に低減する。逆に、高速道路でのレーンチェンジなどでは安定方向への制御が介入する。この制御は5ミリ秒ごと(200Hz)に計算され、ドライバーの操作や路面状況に対して遅滞なく反応する。アウディはこのシステムを「ドライビングの楽しさと安全性を指揮する見えないマエストロ」と表現しており、物理的な限界付近での挙動安定性とコントロール性を飛躍的に高めている。
さらに、前後アクスル間のトルク配分を司るセンターディファレンシャルも新世代のものとなり、プリロード(予圧)が与えられている。これにより、スロットルオフ時のターンイン動作がより俊敏になり、再加速時のトルク伝達ラグも解消された。
2.4トンの車重を飼いならす。専用サスと「RSトルクリア」の野性
新型RS 5のラインナップは、「RS 5セダン」と「RS 5アバント」の2種類で構成される。両モデルとも基本的なパワートレインのスペックは共通だが、ボディ形状の違いにより車両重量はわずかに異なる。セダンは2355kg、アバントは2370kgと発表されており、PHEVシステムの搭載により重量は増加しているものの、前述のトルクベクタリング技術と低重心化により、その重さを感じさせない軽快な回頭性を実現している。
サスペンションには、伸び側と縮み側の減衰力を独立して制御できる「ツインバルブダンパー」を備えたRSスポーツサスペンションを採用。これにより、路面の凹凸をしなやかに吸収する快適性と、ロールを抑え込んだ極めてスポーティな挙動を両立させている。
ブレーキシステムも強化されており、標準でフロント420mm径のスチールディスクを装備。オプションのRSセラミックブレーキを選択すれば、フロントディスク径は440mmに拡大され、さらにリヤにもセラミックディスクが採用される。これはセグメント初の試みであり、バネ下重量の軽減と耐フェード性の向上に大きく寄与する。
最高速度は通常仕様で制限されるが、オプションの「Audi Sportパッケージ」を選択することで285km/hまで引き上げられる。このパッケージには、さらなるパフォーマンスを求めるドライバーのために、リヤへのトルク配分を極端に増やし、クローズドコースでのドリフト走行を許容する「RSトルクリア」モードも含まれている。
Ur-quattroの系譜。空力と冷却が磨き上げた「機能美」の極致
エクステリアデザインは、RSモデルの伝統に則り、非常にアグレッシブかつ機能的だ。ボディはベースモデルのA5と比較して、前後ともに約4cmずつ(全幅で約8〜9cm)拡幅されており、伝説的な「Audi Ur-quattro(オリジナルクワトロ、1980-1991年)」を彷彿とさせる筋肉質なブリスターフェンダーが力強いスタンスを形成している。
フロントマスクは、立体的な造形のハニカムグリルを持つシングルフレームが支配し、その左右にはホイールハウス内の気流を整えるエアカーテンが設けられている。これらは単なる装飾ではなく、冷却効率と空力性能を追求した結果生まれた形状だ。リアセクションには、マット仕上げのオーバルテールパイプを備えたRSスポーツエキゾーストシステムと、垂直フィンを持つ大型ディフューザーが装備され、空力性能の向上とともに視覚的な低重心感を強調している。
ライティング技術も進化しており、ダーク仕上げのマトリクスLEDヘッドライトには、チェッカーフラッグを模したデジタルデイタイムランニングライトのシグネチャーが採用された。リヤの第2世代デジタルOLEDテールライトは、後続車に対して警告を表示するコミュニケーションライト機能も備えており、デザインと安全性を高度に融合させている。
インテリアは、「デジタルステージ」と呼ばれるドライバー主体の空間設計がなされている。11.9インチのバーチャルコックピットと14.5インチのMMIタッチディスプレイが一体となった「アウディMMIパノラマディスプレイ」に加え、助手席側には10.9インチのパッセンジャーディスプレイも標準装備される。PHEVならではの機能として、バッテリー温度やエネルギーフローのリアルタイム表示が可能となっており、ドライバーは車両の状態を常に詳細に把握できる。
ドイツ本国での価格は、RS 5セダンが10万6200ユーロ(約1938万円)から、RS 5 Avantが10万7850ユーロ(約1968万円)からとアナウンスされている。欧州での受注開始は2026年第1四半期、納車は同年夏を予定している。電動化という時代の要請に応えつつ、ドライビングプレジャーをかつてない高みへと押し上げた新型アウディRS 5。その走りは、まさに次世代のハイパフォーマンスカーのベンチマークとなるだろう。
【ル・ボラン編集部より】
アウディスポーツが踏み出したPHEVという新たな境地。2.3トンを超える車重に、スペック上では一瞬の懸念がよぎる。しかし、量産車初となる電動機械式トルクベクタリングこそが、この重量を「重さ」ではなく「濃密な接地感」へと昇華させる鍵となるはずだ。往年のUr-quattroの系譜を感じさせるブリスターフェンダーに、最新の電動化技術が宿る。物理法則すら手玉に取るその走りは、内燃機関の終焉ではなく、アウディ流グランドツーリングの再定義と言えるだろう。
【画像97枚】「セダン」の躍動か、「アバント」の機能美か。アウディスポーツ初のPHEV、RS 5の両ボディタイプを比較する



