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エンツォ、最初のフェラーリから20年目の栄冠をもたらした「フェラーリ330P4」【GALLERIA AUTO MOBILIA】#008

様々な断片から自動車の広大な世界を管見するこのコーナー。今回は、フォードGTと戦ったフェラーリ330P4を取り上げる。エンツォにとって、1960年代の初頭は困難な問題に見舞われた時期だったが、若いマウロ・フォルギエリを抜擢してPシリーズを開発すると、フォードを迎え撃った。

フェラーリの運命を左右する判断が必要とされた時代

1961年の暮、ワールド・チャンピオンを獲得したF1グランプリの終了後に、エンツォ・フェラーリは深刻な問題に立ち向かっていた。彼と対立したスタッフたちが離反することになったのだ。経営幹部5名に加えてチーム監督ロモロ・タヴォーニ、技術者のキティとビッザリーニの8名が反旗を翻した。エンツォは動揺しただろうが、それよりも怒りの方が凄まじかっただろう。

1962年シーズンのために、エンツォは新しいチーム監督としてエウジェニオ・ドラゴーニを任命し、設計開発部門にはまだボローニャ大学を卒業したばかりで、キティの見習いをしていたマウロ・フォルギエリを抜擢した。その年は移行期だったが、開発がほとんど終わっていた250GTOがデビューして大活躍をし、ル・マンやセブリングでもキティの置き土産のような250TRや330TRが優勝を飾り、フェラーリの名声に陰りはなかった。

イタリアのスポーツ新聞ラ・ガゼッタ・デロ・スポルトの編集による雑誌『Ferrari racconta(フェラーリ物語)』の合本。さすがに昔から、日々、フェラーリの写真を撮ってきただけあって他の本では見たことがない、貴重な写真の連続だ。

翌1963年には若いマウロ・フォルギエリによって開発された250Pが投入され、エース・ドライバーとしてジョン・サーティースが迎え入れられている。もっとも250Pはキティが開発しており、ディーノ246SPのホイルベースを延長し、既存のTRと同タイプのV12エンジンを搭載したものだった。そういう意味では、すでに完成したシャシーとエンジンの組み合わせであり、最初から安定した性能が期待されたマシーンだった。デビュー・レースは3月23日のセブリング12時間。2台の250Pがエントリーして1-2フィニッシュを飾った。優勝したサーティースは、MVアグスタでの活躍によりイタリアでも人気が絶大で、エンツォのお気に入りになっていた。この年の耐久選手権では全4戦のうちル・マンを含む3勝を挙げ、チャンピオンを獲得。また、この年にはフォードによるフェラーリの買収交渉も行われた。やはりエンツォとしては、65歳という年齢や後継者のことも考えて迷ったのだろうか。経営は専門家に任せて、自身はレースのみに専念したいという思いもあったかもしれない。しかし、フォードからはメリットを得られないと判断したエンツォはフォードとの買収交渉を打ち切ったのだった。

イタリアのスポーツ新聞ラ・ガゼッタ・デロ・スポルトの編集による雑誌『Ferrari racconta(フェラーリ物語)』の合本。さすがに昔から、日々、フェラーリの写真を撮ってきただけあって他の本では見たことがない、貴重な写真の連続だ。

このように、1960年代の始まりはエンツォにとって、フェラーリの運命を左右する判断が必要とされた時代だったが、結果的にエンツォはフェラーリとともに独立した道を歩み続けることになったのだ。しかし、時には臆病なほど慎重だったエンツォの、冷徹であり熱烈、獰猛であり優しい、姑息であり大胆という複雑な人格は余人を近づけるものではなく、彼に忠誠心を持つ古参の社員は無口だったが、おべっか使いがエンツォにその場しのぎの間違った情報を伝える弊害は残ったようだ。

それはともあれ、1964年からはフォードの挑戦が始まった。この年は耐久レースがメーカー選手権として、一挙に11戦へと拡大されたが、フェラーリはそのうち9戦で優勝している。250Pはエンジンが拡大され、275Pや330Pへと進化した。

Text:岡田邦雄/Photo:青柳 明/カーマガジン460号(2016年10月号)より転載
CAR MAGAZINE編集部

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