試乗記

【比較試乗】「メルセデスベンツ Aクラス」ベスト“Aクラス”を探せ!

「ハイ!メルセデス」で話題となった新型Aクラスも発売から早1年。いまやディーゼルエンジンモデルや3ボックス、ハイパフォーマンスなAMGといった豊富なラインナップが出揃った。そこで気になるのが、ベストバイはどのモデルなのか? ということ。それを探るべくさまざまな角度から徹底検証してみた。

Aクラスはキビキビ、Bクラスはしっとり

現行のAクラスは4代目で、3代目からBクラスとプラットフォームを共有している。初代や2代目のAクラスは、“サンドイッチフロア”と呼ばれる専用のプラットフォームを持ち、サンドイッチの“具”の部分を蓄電池や燃料電池の収納スペースに充てるなど、将来を見据えた先進的なクルマだった。しかし時代のほうがいっこうに追い付かず、2代目までのAクラスは結局“具”のないサンドイッチのままで終わってしまった。

サンドイッチフロアによる高い全高と短い全長がAクラス独特のボディフォルムだったが、3代目からは“普通”のハッチバック形状となり、でもこれが世界中で売れたものだから、当初のAクラスのスタイリングはすっかり忘却の彼方へ追いやられ、いまではAクラスと言えば誰もがハッチバックを思い浮かべるようになった。

B180(左)、A180 Style

A180とB180のボディサイスを比べて見ると、2730mmのホイールベースは同値だが、Aクラスのほうが10mm短く5mm幅広く130mm低い。全高の違いがもっともわかりやすく、2台を目の前にした印象も「Bクラスは背の高いAクラス」である。この印象は、運転席に座るとさらに助長される。両足を前に投げ出すような姿勢で低く座るAクラスに対して、Bクラスはヒップポイントが高く、両足の膝の角度がAクラスよりも90度に近いいわゆる“アップライト”な着座姿勢である。

A180/Bクラスと比べると開口部がラウンドしているため閉塞感はある。とはいえ先代のAクラスに比べると後席への乗降性は向上している。

A180

室内の左右方向は両車ともほとんど変わりないのに、天地方向が拡大されると縦も横も広がって居住空間がひとまわり大きくなったような錯覚に陥ってしまう。ラゲッジスペースはAクラスが370-1210L、Bクラスが455-1540Lで、Bクラスのほうが広いのだけれど、左右や奥行きはほとんど同じなので、天地方向の違いが容量の差に現れているのだろう。ちなみにBクラスの全高は1550mmだから、機械式駐車場にも入庫可能である。最低地上高もBクラスのほうが15mm高い。

B180/先代モデルでも定評のあった大人4人が快適に過ごすことができる広い室内空間をさらに拡大、快適性の向上を追求している。

B180

今回は両車の仕様もオプションもタイヤの銘柄/サイズもまったく同じだったので、比較するには好条件が揃っていた。乗り味の違いは端的に言えば、Aクラスはキビキビ、Bクラスはしっとり、である。背が低く重心も低くてばね上の動きも少ないAクラスはスポーティに片足を突っ込んだような感じ。いっぽう、Aクラスより50kg重く重心もやや高いBクラスは、重量の増加分が乗り心地の向上に寄与し、ばね上の動きもゆったりとしている。
ほとんどひとりないしはふたり乗車で、たまには山道なんかを走ってみたい人にはAクラス、ふたり乗り以上が多く、乗降性がよくて荷物を積む機会も頻繁にある人にはBクラスがお薦めである。

価格で選ぶか? 動力性能と燃費をとるか?

A200d(左奥)、A180 Style(右手前)

ハッチバック(メルセデスAMGを除く)のエンジンはガソリンとディーゼルがそれぞれ直列4気筒ターボの1種類ずつのみで、排気量はガソリンが1331cc、ディーゼルが1949cc。組み合わされるトランスミッションはガソリンが7速DCT、ディーゼルが8速DCT。そしてパワースペックはガソリンが136ps/200Nm、ディーゼルが150ps/320Nmとなっている。最大トルクの発生回転はどちらも1400rpmがスタートで、ガソリンは4000rpmまで、ディーゼルは3200rpmまで続く。

Aクラスは、新世代ワイド&ローのプロポーションにメルセデス・ベンツの先進技術を注ぎ込んだスポーツコンパクトモデル。これまでSクラスやEクラスなど上級モデルに搭載されていた多くの機能も取り入れている。

同じ1400rpmでも、そこに到達するまでの時間はガソリンのほうが早いから、スタートダッシュはガソリンのほうがいいが、後半の伸びはガソリンの1.6倍の最大トルクを発生するディーゼルのほうがいい。どちらもトランスミッションとのマッチングがイマイチで、スロットルペダルの動きに対してスムーズに追従しない場合がある。加えてペダルの踏力も軽めなので、右足での細かいコントロールはちょっとやりにくい。

対話型インフォテインメントシステム MBUX(メルセデス・ベンツ・ユーザー・エクスペリエンス)。その最大の特長のひとつが、人工知能による学習機能で、特定のユーザーに適応する個別対応能力を備えていることだ。クラウド上のソフトウェアモデルによって新しい流行語を覚えたり、時代による言葉の用法の変化を学習するほか、オーナーとなり使っていくうちに、ユーザーが次に何をしたいかを予測して提案してくれたりもするのだ。自然対話式音声認識機能を備えたボイスコントロールでは、「ハイ、メルセデス」と呼びかけると「何を行ないますか?」とクルマが聞いてくる。「お腹が空いた」というと、近くの飲食店のリストがディスプレイに表示され、番号を話すとナビが案内してくれる。使い方によってどう育てていくかはアナタ次第です。

燃費はもちろんディーゼルのほうがよく、今回は正確な計測ができなかったけれど、日常的な使い方でおそらく20km/L前後はいくだろうと想像できる。ガソリンはエンジンだけを見れば可もなく不可もないが、このディーゼルとの比較となると、動力性能や燃費で物足りないかもしれない。車両本体価格が30万円安い(A180なら72万円)のはアドバンテージになると思うけれど。

スポーティな走りか、安定感のある乗り味か

A250 4MATIC Sedan(左)、A200d(右)

ハッチバックは2ボックス、セダンは3ボックスとよく言われるけれど、それは空間の使い方を示している。ハッチバックはエンジンルームがひとつの箱で、荷室と一体になったキャビンをもうひとつの箱に見立てて2ボックス、セダンはエンジン/キャビン/荷室がそれぞれ独立した空間になっているので3ボックスと呼ばれる。
ボディ剛性や快適性で有利なのは断然3ボックスである。リアシート後方にクロスメンバーが入っている分、当然のことながら2ボックスよりもリアのボディ剛性は高く、リアシートのバックレストが壁となり、荷室からの騒音も遮断できるので2ボックスよりも高い静粛性が確保できるからだ。


駆動形式など他の条件を同じとした場合、一般的にはフロントの剛性を上げると操縦性が、リアの剛性を上げると安定性が増すと言われている。Aクラスのハッチバックとセダンを乗り比べると、セダンのほうが安定感のある乗り味になっている。ただし、今回のセダンは4輪駆動で、ハッチバックより150kgも重いため、乗り味の印象には重量の影響も大いにある。それでも旋回中やステアリングを左右に切り返した際に、後輪の接地感が高いことは実感できる。

Aクラスハッチバック/ラゲッジルーム容量は先代モデルよりも29L大きい370L、ラゲッジルームフロア長も11.5cm拡大。40:20:40分割可倒式リアシートのバックレストを倒せば最大で1210Lを確保する。

Aクラスハッチバック

Bクラス/容量は通常時の455L-最大1540Lまで確保。大きく開くテールゲート、積み下ろしのしやすいフロア高、荷物に合わせて床面の高さも変えられるラゲッジフロアを採用。

Bクラス

Aクラスはステアリングの切り始めの反応がいいものの、全体的に安定方向のハンドリング特性を有している。セダンはこの初期応答性がやや穏やかになっているが、Aピラーから前の部分は基本的にハッチバックもセダンも共通なので、これはセダンのリアの剛性が上がったことによる副次的産物だろう。

Aクラスセダン/通常時でも420Lを確保。スクエアな形状、大きな開口部によって優れた使い勝手を実現。40:20:40の分割可倒式でバックレストを倒せば、荷物の形状に合わせたアレンジが可能。

Aクラスセダン

ハッチバックを「スタイルも走りも若々しいクルマ」とするならば、セダンは「スタイルも走りも穏健なクルマ」と言える。

CLA/通常時はセダンより若干広い460Lを確保。トランクリッドが簡単に開けられるフットトランクオープナーを標準装備するなど、使い勝手に関してはセダンと同等の装備となる。

CLA

4ドアセダンか、4ドアクーペか

AクラスセダンとCLAはいずれも3ボックスの4ドアセダンであるものの、決定的な違いはスタイリング(とボディ構造)にある。

CLA 250 4MATIC(左)、A250 4MATIC Sedan(右)

2台を並べて見比べてみると、CLAの全高のほうが低く見えるが、1430mmの全高は両車とも同じ。セダンよりも30mm幅広く35mm長い寸法により、CLAのほうが低く構えた格好に映るのだろう。A/Cピラーが寝かされているデザインもまた、それにひと役買っているかもしれない。ピラーが寝ていると当然のことながら乗降性は悪くなる。特にリアシートへのアクセスは大変で、首から上だけでなく、上半身をかがめないと入り込めない。どうにかリアシートに着座してもCピラーやルーフが頭部に触れてしまい閉塞感は否めない。事実上、CLAは2+2のクルマだと個人的には思っている(メルセデスもCLAを“4ドアクーペ”と呼んでいる)。

Aクラスセダン/ともにインテリアは新型Aクラスの基本的デザインを踏襲し、モダンでアバンギャルドにまとめられる。ワイドスクリーンディスプレイがダッシュボードの上に置かれることで解放感を演出。5つの円形のエアアウトレットも共通で、ジェットエンジンのタービンを思わせるスポーティなデザインを採用。

Aクラスセダン

Aクラスセダン

もうひとつ、両車の大きな違いはドアを開けた時によく分かる。CLAはサイドウインドーが剥き出しのサッシュレスドアを採用しているからだ。セダンのようにサイドガラスをフレームが囲んだドアとガラスのみのドアとでは、閉めた時のボディ剛性に明らかな差が生じてしまう。今回の2台はエンジンも駆動形式もまったく同じだが、車両重量はCLAのほうが30kg重い。車検証で確認すると前軸重で10kg、後軸重で20kg、それぞれセダンよりも重くなっている。ボディが広く長くなっているのでその影響もあるだろうが、ボディ剛性の低下を抑えるための構造補強も図られていると推測できる。

CLA/コンパクトでありながら前後のオーバーハングを切り詰め、ホイールベースを長く取ることで室内長を確保。大人4人が快適に過ごすことができる広い室内空間を実現。CLAは先代に比べ、前席の室内幅は35mm、後席の室内幅は44mm、前席ヘッドルームも17mm拡大している。

CLA

CLA

全幅の広いCLAは前後のトレッドもフロントで35mm、リアで45mmそれぞれセダンよりも広い。全高が同じでもトレッドが広がれば重心はわずかながら下がる。CLAのほうがややスポーティなハンドリングに感じるのは、ワイドトレッドの恩恵もあるだろう。でも結局のところ、CLAはそのスタイリングで選ばれるに違いない。

CLA(左)、Aクラスセダン(右)/エレガントかつスポーティなクーペスタイルのCLAには、メルセデス・ベンツのクーペモデル共通のサッシュレスウィンドーを採用。

CLA(左)、Aクラスセダン(右)/CLAはなだらかな流線形のルーフラインが特徴のため後部座席に乗り込む際は、やはりAセダンよりもアクセスの悪さを意識せざるを得ない。

完全なる別モノのメルセデスのホットハッチ

A45とA35 は共に2Lの直4ターボを搭載しているものの、そのユニットは完全なる別物である。A35は基本的にA250と同じエンジン(M260)をベースに、専用の制御プログラムとエキゾーストシステムが採用されている。A45はAMGの工場でひとつひとつ手組みされる特製エンジンを搭載。ターボチャージャーとエキゾーストマニフォールドの排気系を後方、インテークなどの吸気系を前方に配置し、M260とは逆の吸排気レイアウトとしている。この他にも、トランスミッションやブレーキやドライブモードの設定数が異なるし、A45のリアには左右のトルク配分を可能にする電制デフが装備されている。

A45 S 4MATIC+(左)、A35 4MATIC(右)

A45のエンジンが発生する421ps/500Nmは2Lのユニットとしてはトップクラスの数値を誇るので、手に負えないほどにパワフルかと身構えたものの、4MATICやEデフなどの電制デバイスが出力やトルクやトラクションを絶妙にコントロールしてくれるおかげもあって、恐怖心を感じることなく安全に速く走れるようになっている。ドライブモードの“レース”はいわゆる“ドリフトモード”で、サーキットで振り回すことも前提らしい。個人的にはそこまで必要ないし、コンパクトなボディと強力なパワートレインでスポーティな走りのA35でも十分に満足できた。

A45 直4ターボ/1991cc/量産の2L4気筒エンジンとしては世界最高の421ps/最大トルク500Nmを発生する「M139」を搭載。ひとりのマイスターが手作業で組み立てる。燃費はWLTCモードで11.4km/L。

A35 直4ターボ/1991cc/最高出力306ps/最大トルク400Nmを発生する「M260」エンジンを搭載。AMG 4MATICとAMGスピードシフト7速DCTを組み合わせる。燃費はWLTCモードで12.2km/L。

A250 直4ターボ/1991cc/2L直4ターボエンジンの「M260」は、 最高出力224ps/最大トルク350Nmを発生。燃費はWLTCモードで12.9km/L。04MATICと組み合わせられハッチバックでは選べない。

A200d 直4ターボ/1949cc/優れた燃費性能を誇る「OM654q」エンジンを搭載。最高出力150ps/最大トルク320Nmを発生。燃費はWLTCモードで18.8km/L。セダンでは選べない。

A180 直4ターボ/1331cc/超小型、軽量、優れた動・静剛性が特徴の「M282」エンジンは最高出力136ps/最大トルク200Nmを発生。燃費はWLTCモードで15.4km/Lをマーク。

A35とA45の識別ポイント

A35/グリル、マフラー、リアスポイラー、4MATIC、ホイール

A45/グリル、マフラー、リアスポイラー、4MATIC、ホイール

フォト=郡 大二郎/D.Kori ルボラン2020年4月号より転載

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