オンラインで行われた最初の予約注文が瞬く間の完売となり、続けて行なわれた追加分の予約もすぐに埋まってしまったという、話題のシトロエン・ベルランゴ。最大のライバルは、ルノー・カングーで決まりだ。ここでは、フレンチMPVの魅力や人気の秘密を考察していこう。
初代カングーがヒットのきっかけ
何もフランスだけがこの手のクルマを作ってるわけじゃないが、フランス産がやっぱり魅力的に感じられるのは、この手のクルマの楽しそうなイメージを、フランス産が引っ張ってきたからだろう。古くは2CVやキャトル、少し新しくなってシュペール・サンクといった馴染み深い小型大衆車のリアセクションを、大きな荷物箱に置き換えた小さな貨物車達。広々した車内空間は、商売をやってるお父さんが家族と一緒に何より重要なヴァカンスへ出掛けるのにも、かなり好都合だったに違いない。現地ではフルゴネット(=荷室型小型貨物車)と呼ばれるボンネットバンは、今では大衆車のコンポーネンツを専用設計の車体と組み合わせたさらにユーティリティの優れたクルマへと発展を遂げ、商用モデルは日々パリの街中を駆け巡り、乗用モデルは楽しい休日を過ごす人達のために活躍している。
そうした新しいフェーズに入ったフルゴネット・タイプの市場を世界的に牽引してきたのも実はフランス産で、ルノーが1997年に発表した初代カングーが誰もが驚く大ヒット作になったのは史実。大きくて便利な空間を活かすだけでなく、両側にスライドドアを持たせて利便性を、それぞれが独立した後席を設えて居住性を、装備類を充実させて快適性を、と最初から徹底して乗用車であることを追求したモデルを作り、大いに喜ばれたのだ。今やそれがこの手のクルマのスタンダード、である。
カングーが日本において意外なムーブメントを巻き起こしたのもご承知のとおり。フツーのミニバンには乗りたくないけど広い車室内は欲しいという人は、誰もが想像するより多かったのだ。この手のクルマのイベントそのものが珍しいのに、第11回を迎えた昨年の“カングー・ジャンボリー”には、思い思いの楽しみ方で彩られた1714台ものカングーが集結する盛況ぶり。驚異的というしかない。
現行のカングーは2007年に発表の2世代目。モデル末期に近いわけだが、あらためて乗ってみても愛される理由が感じ取れる。嫌味のない、どこか朗らかな気分にさせてくれるスタイリング。使い勝手のよさと快適に過ごせることに意識とコストを割いた室内空間。外にも内にも高級感はないが、本当の居心地のよさはそんなところにあるわけじゃない、ということが接しているうちに身体で解る。
走らせてみても、抜群に心地いい。ルノーの伝統といえる味わい深いフラットライドは、ちょっとした高級セダン並みといえるぐらい快適だ。しかも、である。カングーはドライバーをただの運転手になんてさせない、走らせる楽しさがあるのだ。魔法の脚はその柔らかさを保ちながら、ワインディングロード辺りではちょっとしたスポーティカーを追い回せるぐらいのコーナリングスピードと、積極的にステアリング操作と荷重変化に意識を向けたくなるハンドリングの楽しさをももたらしてくれるのだ。使い勝手はミニバン、家族と一緒のときには快適なセダン、ひとりで走ればスポーツカー。まるで1台3役。こんなクルマ、どこを探しても他にはない。今後もきっと生まれない。望みがあるとするなら次のカングー、だろう。