国内試乗

走りの質感が大幅に進化!「BMW新型5シリーズ530i&M550i」試乗記

M550iのハイパフォーマンスぶりには理性が抑えられなくなるかも!?

“BMWを代表する”と言っても過言ではない5シリーズが2020年9月にマイナーチェンジを実施し、先ごろ日本上陸を果たした。同じドイツの競合と人気を二分する存在ゆえに、期待する人も多いはずだ。

しかし、実のところ筆者はこのG30型と呼ばれる5シリーズ(前期型)に対して、けっして良い印象をもっていなかった。デビュー当初、ポルトガルのリスボンで行われた新型5シリーズの国際試乗会に招かれた際、頭の中には何度も「?」が浮かんだのを覚えている。本来なら褒めちぎりたいところだったが、正直に言わせてもらうとシャシーは全体的に煮詰められていないうえ、話題となった運転支援システムの精度もライバルと比較すると今ひとつ、さらに期待していた自動レーンチェンジの作動もあやしい出来だったから、心の中では「またもやビーエムの悪いクセが……」とボヤいてしまった。

キドニーグリルは幅と高さを増し、現代的なライトグラフィックと組み合わされた新型5シリーズ。スタイリッシュで精悍なルックスは印象的だ。

と、ネガティブな印象から入ってしまったのは、今回こそ期待を裏切らないからだ。見た目はキドニーグリルをわずかにワイド化させ、ヘッドライトのデザインも変更、リア周りもコンビネーションライトを立体的に仕上げるなどして、エレガントさを強めたとBMWは主張するが、本命は中身。後期型で劇的に良くなるのは“最近”のBMWにしては珍しいことだが、逆に言えば試し甲斐があるというものだ。今度はちゃんと“駆けぬける歓び”になっているのかと、ちょっと意地悪モードで試乗を開始した。

スポーティな走行性能とプレミアムセダンに相応しい快適な乗り心地を両立。さらに高速道路での渋滞時において、ハンズ・オフ機能付き渋滞運転支援機能が全モデルに標準装備された。

はじめに乗ったのは、「530i Luxury」。前期型から受け継がれた2L直列4気筒DOHCターボエンジンは252ps&350Nmを発揮、これに8速ATを組み合わせる。5シリーズのラインアップの中で見れば、ほぼド真ん中の選択肢となるが、ある意味ではこれこそ本質を判断するにはちょうどいいグレードだった。

530iには最高出力252ps、最大トルク350Nmを発生末する2L直4ターボユニットを搭載。

走り始めてからまず思うのは、シャシー性能の向上。いや、正確に言うなら、これこそ適正値とも言える仕上がりで、時おり曖昧に感じられた直進安定性がこの後期型では改善され、明らかに中立付近の正確性が増している。しかもコーナリング時のインフォメーション性も向上しているおかげで、全体的なドライブフィールは好印象。前期型と比べると、やや足まわりは硬くなったように感じられることも少なくなかったが、これは主に装着タイヤの違いと判断していいだろう。

530iの試乗車にはエレガントなデザインの18インチアルミホイールが装着。組み合わされるタイヤは245/45R18サイズのピレリPゼロだ。

これだけシャシー性能がシャキッとしたのは、お決まりの“熟成”と言ってあげたいところだが、これはむしろ神経質になるくらい改善しないといけない理由があったのも明白。それが今やBMWの特徴ともなった3眼カメラ&レーダーの装備だ。後期型で標準化される最新の運転支援システムは、もちろん最新版。アクティブ・クルーズ・コントロールやレーン・コントロール・アシストの精度を上げるためにも元から直進安定性やトレース性を高くする必要があったのは間違いない。だから劇的に違い、以前のように不安にさせることなど皆無。言い過ぎかもしれないが、少なくとも筆者にはそう感じられるほど、安心感が増している。

インテリアはスイッチパネルを全てハイグロスブラックとすることで高品質感を高め、レザーシートを標準装備(523iを除く)。

直4ターボエンジンの加速やフィーリングも文句なし。至ってフツーとも言えるが、これはこれで扱いやすく、WLTCモードで12.5km/Lというから燃費もさほど悪くない。Luxuryというグレード名に相応しい乗り心地も芯がしっかりしたうえで快適。いつでもどこでも乗り回せる付き合いやすいミドルクラスサルーンと言えるだろ。大きな特徴はないかもしれないが、むしろこれを望むユーザーも少なくないはずだ。

そして、次に試乗した「M550i xDrive」は、同じ5シリーズとは思えないほどの刺激で楽しませてくれた。無論、頭に“M”がつくことでキャラクターこそ察してはいたが、まさかここまでとは想像もしていなかった。

エンジンは4.4L V型8気筒DOHCツインターボ。最高出力は530ps、最大トルク750Nmという数値を見ればタダモノではないことは明らかだ。とはいえ、この上にはM5があるから生粋のMではない。やみくもにパフォーマンスだけを狙った超高性能サルーンでもなければ、ふつうに使うような4ドアセダンには収まらないという絶妙なところが注目点となる。

最高出力530ps、最大トルク750Nmを誇る4,4L V8ターボユニットを搭載するM550i。2トン弱のボディながら軽快に走らせることが可能だ。

さすがはV8エンジン。それなりの迫力をアイドリング時から汲み取れる。ZF製の8速ATをDレンジに入れ、普段どおりにスタートすると、早速“加速G”のお見舞いを食らった。それもそのはず、わずか1800rpmから最大トルクを出力するから先の530iと同じように運転してはならない。しかも意地悪モード継続中だったこともあって、初っ端からスポーツモードにしていたから尚さらだろう。限られた時間だったにも関わらず、早々にその力量を思い知らされた。

やはり、アダプティブMサスペンションと後輪操舵システムを武器にするアクティブ・ステアリング、そして電子制御式アクティブ・ロール・スタビライザーの効果は絶大だ。さらにアクティブMディファレンシャルによる強力なトラクションコントロールとAWDシステムも加わるとあって、俊敏性は抜群! 極めてタイトなコーナーでもさほどボディサイズを感じないほど見事なターンを決めるどころかコーナー脱出時における加速も強烈だった。

オプションのINDIVIDUALフルレザーメリノが装着されたM550iのコクピット。ADASをはじめとした先進の運転支援システムも備わっている。

こうして、それなりに攻めてしまうと、もはやM5の存在が希薄になりそうだが、そこはやはりMパフォーマンス、ちょうどいい刺激と過激さに収めている。つまり、高い性能を制御系によって巧みに操ることで、ドライバーの技量を一段上の領域に誘うのがM550iの役目だと見た。当然、本気で攻めるならM5となるが、コイツは相当手強い。街乗りなど公道では手に余るし、日本の高速道路では到底満足できない。サーキットに行くならいいかもしれないが、どうせクローズドコースを走るならM5と同クラスで、より最適なモデルがあるからそちらを選ぶことをお勧めしたい。

M550iには5ツインスポークの19インチアルミホイールが装着。タイヤはピレリPゼロだ。

となるから、このM550i xDriveは、今のBMWの真髄を知るには、最善の選択となるだろう。しかし、油断は禁物。新東名のような直線が長く続くようなシーンでは、もはや自分の理性をコントロールできなくなる可能性がある。だから、もし貴方がこのM550iを手に入れたら決して高速道ではスポーツモード以上には入れないことを勧めたい。「え? じゃ、いつスポーツモードにすればいいんだよ」って? 誰もいないワインディングしかないでしょうね……。

スクエアで使い勝手の良いトランクルームは530Lの容量を確保。40:20:40の分割可倒式リアシートを倒せば、長尺モノの積載も可能となる。

車両のキーを持たずとも、iPhoneをドアハンドルにかざすことで、車両のロック解除/施錠、エンジンの始動も可能なBMWデジタルキーも標準装備。

【Specification】BMW 530iラグジュアリー[M550i xDrive]
■車両本体価格(税込)=8,440,000円[13,190,000円]
■全長×全幅×全高=4975/1870/1480mm[4975/1870/1465mm]
■ホイールベース=2975mm
■トレッド=前1600、後1625mm[前1600、後1595mm]
■車両重量=1690kg[1950kg]
■乗車定員=5名
■エンジン型式/種類=B48B20B/直4DOHC16V+ターボ[N63B44D/V8DOHC32V+ツインターボ]
■総排気量=1998cc[4394cc」
■最高出力=252ps(185kW)/5200rpm[530ps(390kW)/5500rpm]
■最大トルク=350Nm(35.7㎏-m)/1450-4800rpm[750Nm(76.5㎏-m)/1800-4600rpm]
■燃料タンク容量=68L(プレミアム)
■燃費(WLTC)=12.5km/L[8.3Km/L]
■トランスミッショッン形式=8速AT
■サスペンション形式=前Wウイッシュボーン/コイル、後Wウイッシュボーン/コイル
■ブレーキ=前後Vディスク
■タイヤ(ホイール)=前245/45R18(8J)、後245/45R18(8J)[前245/35R20(8J)後 275/30R20(9J)]

BMWジャパン公式サイト https://www.bmw.co.jp/ja/all-models/5-series/sedan/2020/bmw-5-series-sedan-highlights.html

フォト=宮門秀行/H.Miyakado

この記事を書いた人

野口優

1967年生まれ。東京都出身。小学生の頃に経験した70年代のスーパーカーブームをきっかけにクルマが好きになり、いつかは自動車雑誌に携わりたいと想い、1993年に輸入車専門誌の編集者としてキャリアをスタート。経験を重ねて1999年には三栄書房に転職、GENROQ編集部に勤務。2008年から同誌の編集長に就任し、2018年にはGENROQ Webを立ち上げた。その後、2020年に独立。フリーランスとしてモータージャーナリスト及びプロデューサーとして活動している。

野口優

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