南陽一浩の「フレンチ閑々」

ルノーが中長期戦略と改革案を発表! 未来のアルピーヌはピュアEV×3車種に【フレンチ閑々】

昨年7月にカルロス・ゴーン後のルノーの舵取り役として就任したルカ・デ・メオ新社長が1月14日、ルノー・グループの新戦略を発表した。その名も「RENAULUTION(ルノリューシオン)」。当然、révolution(革命)とルノー、加えてsolution(解決策)をかけた言葉遊びでもあるが、彼の国で大文字Rで始まる革命は1789年のそれのことであり、フランス的かつ歴史的な出来事がこれから始まるという、野心的な意味合いもある。凝縮度の高いキャッチーな言葉で伝えるのはリーダーの役目だが、鮮やかな巧さだ。その求心力の象徴として、ルカ・デ・メオ社長の傍らには、100%電気自動車の「ルノー・サンク・プロトタイプ」が置かれていた。

新戦略は、ボリュームの追求から価値創出へ、グループ全体の方向性を再転換させることで、3つのフェイズが並行して進行する。ひとつ目は2023年までの「再生」フェイズで、収益の改善と流動性の確保。ふたつ目は「刷新」で、2025年までラインナップのリニューアルと強化を通じてグループ傘下の各ブランドの収益に繋げる。もうひとつは「革命」で、2025年からグループのビジネスモデルは技術とエネルギーとモビリティへ転換され、ルノー・グループはニューモビリティのバリュー・チェーンにおける先駆的リーダーになるという。より具体的には、2022年以降も開発や生産の効率改善と固定コストや世界規模での変動コストの抑制し、小型EVにおける欧州でのリーダーシップと現状の強味をグループとして活かすこと、日産と三菱とのアライアンスに基づいてプロダクトや新業態、テクノロジーの魅力を増大させること、モビリティやエネルギー、データ関連のサービスを加速させること、4つのビジネス・ユニットを区分して各ブランドが顧客と市場について責任を持つことで収益を改善すること、が挙げられている。

財務上の目標として、2023年にグループの最終利益率は3%以上、30億ユーロ(約3800億円)のキャッシュフローを2期で生み出し、R&D関連の投資と支出を、現状の売上高の10%から8%に抑えるという。2025年には最終利益率は5%、4期通算で60億ユーロへキャッシュフローを倍増させ、使用資本利益率で2019年比で15%の改善を図る。かくして「ルノリューシオン」は2050年までのカーボン・ニュートラルを目指す欧州で、ルノー・グループが継続的な利益体質になることを約束するという。

ルカ・デ・メオ社長は、ルノリューシオンが単なる建て直しプランではなく、企業のビジネスモデル自体が深いところから変わることを意味すると、強調する。テクノロジーを用いる自動車会社から、自動車を用いたテクノロジー企業への転換であり、2030年までに収益の20%以上はデータサービスやエネルギー関連の取引によるものになるという。これらの目標に至るため、実際のラインナップや体制に関する改革案にも、触れられている。

競争力とコスト管理の効率を高めるため、開発期間と市場投入を速める。そのためグループ全体の生産台数ボリュームの80%を、現状の6種類あるプラットフォームから3種類に、パワートレインを8ファミリーから4ファミリーに絞るという。既存プラットフォームによるニューモデルは3年以内に投入され、2019年時点で400万台規模あった生産体制は2025年には310万台規模にリサイズされる。とはいえ先述の通り、4つの独立したビジネス・ユニットに各ブランドが仕分けされ、2025年までに24車種が投入され、うち半分がC/Dセグメントで、10車種以上がEVとなる。4つの内訳は、

1.ルノーは「ヌーヴェル・ヴァーグ」。エネルギーやテクノロジー関連サービスで自動車やモビリティにおける現代性と確信を体現する。Cセグメント攻勢によるセグメント間ミックスを主導し、欧州におけるポジションの強化、ラテンアメリカやロシアでの収益拡大を目指す。EV生産の一大拠点を設け、水素燃料車のジョイントヴェンチャー、欧州におけるグリーン化に沿ったプロダクト・ミックス。欧州で投入される車種の半分はEVで、ユーロ通貨ベースでICE以上の収益率を目指す。ハイブリッド市場にも35%のミックス率で挑むこと。この他、ビッグデータとサイバーセキュリティに資するソフトウェア開発を進め、循環型モデルのリーダーとしてフラン工場を再構築する。

2.ダチア-ラーダは「すべて。シンプルに」。ダチアはダチアであり続ける一方、ラーダの新しいタッチが加わり、頑丈で信頼性の高いプロダクトをコスト意識の高いユーザー向けにアクセスしやすい価格で提供し続ける。2025年までに7車種を投入、うち2車種がCセグメント。アイコン的モデルの復活。GPLの活用やダチアのハイブリッド化でCO2排出を下げる。

3.モビライズ、「自動車を超えて」。自動車ユーザーからもたらされるデータ、モビリティ、エネルギーに基づくサービス全般を行う新部門。2030年までにグループの20%の売上を担う。

4.アルピーヌ。アルピーヌ・ブランドの下にルノー・スポーツカーとルノー・スポール・レーシングを統合し、新会社としてエクスクルーシブかつ革新的なスポーツカーに集中する。ルノー・グループそしてアライアンスの規模と能力を利して、そしてCMF-BとCMF-EVプラットフォーム、および購買や流通、金融サービスまでグローバルなネットワークを活用することで、競争力とコストを最適化する。体制を刷新して参戦するF1を活動の中心とする。またロータスとともに新世代EVスポーツカーを開発。モータースポーツ活動への投資を含め、2025年までに収益黒字化を目指す。

以上はルノー本体による発表だが、アルピーヌについては同時に、ロータスとのEVスポーツカーの共同開発に関して覚書を交わしたことが発表されている。現在、日産が参戦しているフォーミュラEに関しても、アルピーヌ/ロータスによる可能性が取り沙汰されるが、いずれフィージビリティごと検討中の段階。むしろアルピーヌが明言していることは、「100%電化によるアルピーヌ(で構成された)のガレージ」という、ベルリネット以外の車種へのラインナップの拡大だ。ルノー日産三菱アライアンスのCMF-B EVに基づくBセグメントの純EVスポーツ・コンパクトと、同じくアライアンス起原のCMF-EVプラットフォームに基づくCセグメントのスポーティなEVクロスオーバー、そしてロータスと開発される予定の100%EVの後継車種である。

今回の発表でルカ・デ・メオ社長の隣にあったのは「ルノー・サンク・プロトタイプ」であり、アルピーヌというよりルノーである以上、ルノー・アルピーヌの過去もあったとはいえアルピーヌ版は、往時のサンク・ターボI、IIよろしく、より過激になる可能性もある。以前はPSAに在籍し、シトロエンそしてプジョーのデザイン・ディレクターとして現行208なども手がけ、昨夏からルノーのデザイン・ディレクターに転身したジル・ヴィダルによれば、「ルノー・サンク・プロトタイプは、我々のレガシーたる1台のカルトなモデルに想を得ています。このモデルは純粋に現代性を、自らの時代に根ざした1台のクルマとして体現します。つまり都会的で、エレクトリックで、人を惹きつける魅力があることです」と説明している。

とはいえ、これまで3社だったものが1社に統合された以上、アルピーヌの舞台裏はなかなか喧しい。メルセデスAMGから移籍し、ここ1年あまりアルピーヌ・カーズの代表取締役を務めてきたパトリック・マリノフはプロダクトのトップとして残るものの、新たなビジネス・ユニットのトップには当初、2016年までルノーF1チームの指揮を執っていたシリル・アビトブールが据えられた。が、オフィスよりパドックの人物である彼はルノー・グループを辞し、代わりにルノー>グーグル>再びルノーという経歴を歩み、2016年以降に後任のF1監督を務めてきたローラン・ロッシが数日前に就任する慌ただしさだった。そしてウワサになっていた通り、モトGPでスズキ・ワークスを率いてきたダヴィデ・ブリヴィオが、アルピーヌF1チームの監督に就任するという公式発表が今日になって飛び込んできた。アルピーヌ・カーズ代表だったマリノフは、ロッシの指揮下に組み入れられるが、F1ありきの市販車という、以前のフェラーリのような体制ともいえる。難儀な船出となったが、要注目だ。

この記事を書いた人

南陽一浩

1971年生まれ、静岡県出身、慶應義塾大学卒。ネコ・パブリッシング勤務を経てフリーランスのライターに。2001年より渡仏し、パリを拠点に自動車・時計・男性ファッション・旅行等の分野において、おもに日仏の男性誌や専門誌へ寄稿し、企業や美術館のリサーチやコーディネイト通訳も手がける。2014年に帰国して活動の場を東京に移し、雑誌全般とウェブ媒体に試乗記やコラム、紀行文等を寄稿中。2020年よりAJAJの新米会員。

南陽一浩

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