サーキット試乗

【サーキット試乗】「ホンダ・シビック・タイプR」さらなる進化を遂げたホンダ渾身のスポーツカー

ホンダは新型シビック・タイプRに「サーキット性能の進化」を目指した改良を施したという。専用チューニングを施した「リミテッドエディション」は全世界限定1000台限定のうち日本国内には200台導入されたが、すでに完売とか。早速その仕上がりを鈴鹿サーキットでチェックしてみた。

思い通りに走れる超辛口のFFスポーツ

久しぶりにヒリヒリするクルマに試乗した。穏やかで起伏の少ない乗りやすいクルマが多くなっている中、それと正反対に先端を尖らせ、エッジを立て、そして研ぎ澄ました危うさを持ったクルマだ。

シビック・タイプRをベースに、足回りの強化と軽量化が施された「リミテッドエディション」。同モデルにもホンダの安全運転支援技術「ホンダセンシング」が搭載される。

高回転域をせわしなく行き来する大音量のエンジンサウンドと、荒い呼吸がやけに大きく耳の奥に響いている。けれどもそのずっと奥、頭の中心にシンと静まり返った静かなところがあって、そこでクルマの動きを感じながら操縦している自分がいる。

Dカットタイプの専用ステアリングホイールやレブインジケーターなどに独自のコンテンツを盛り込んだ専用メーターを採用し、コクピットをスポーティに演出する。

まるでタイプRに取り込まれてしまったかのように、クルマの一部と化してより速く、よりアグレッシブにクルマを前に進めていく。比喩でなく、速く走ることを求めて、持てる性能を徹底的に研ぎ澄ました先にあるのが新型ホンダ・シビック・タイプRリミテッドエディションだ。

強力なコーナリングGでもドライバーをしっかり保持するタイプR専用シートを装備。

新型は刺激的で、速く、思い通りに走れるFFスポーツ。それもリミテッドエディションの一面だが、その下にもう一つの貌がある。それが23kgの軽量化だ。20インチ鍛造アルミホイールは、わずか10.79kg/本しかない。そして組み合わされるタイヤはハイグリップのミシュラン・パイロットスポーツCUP2。このタイヤに合わせてリセッティングされたアダプティブダンパーシステムと、強化されたブッシュ類を採用する。

こうしたチューニングはすべて「速く走るため」の一点に集約されている。限界領域に追い込むほど鋭さとシビアさが前面に出てくるのだ。
FF市版車での鈴鹿サーキット最速を達成し、タイミングが許せばニュルブルクリンク・ノルドシュライフェ市販車FF最速までも取ろうと目論んでいたのは伊達でも酔狂でもないホンダの本気といえる。

BBS社との共同開発になる専用20インチ鍛造アルミホイールを装備する。さらに、サーキットで優れたパフォーマンスを発揮するハイグリップタイヤ「ミシュラン・パイロットスポーツCUP2」を採用。ブレーキはブレンボ社製2ピースディスクブレーキとなる。

例えば、鈴鹿サーキットのヘアピンからスプーンカーブへのアプローチでは、180km/hからヨーを残しながらブレーキに足をかけようものなら、あっさりとリアがブレークしスピンモードに陥ってしまう。精度の高い操作を行えばそれにきっちり応えてくれるが、未熟であったり、雑な操作を行なうとその途端、タイプRはそれまでの従順さを消して、ドライバーに牙をむく。その一歩手前までは素晴らしく従順で素直。心地よい切れ味の操縦性を見せてくれる。何より強力なグリップ性能を誇るミシュラン・パイロットスポーツCUP2と、それに合わせてチューニングされたアダプティブダンパーは、硬く引き締められているはずなのに、路面にヒタッ! と吸い付くようにタイヤを接地させ、オン・ザ・レール感覚の旋回を味わわせてくれる。

パワーユニットはタイプRと同様の2L直列4気筒ガソリンVTECターボエンジンで、最高出力320ps、最大トルク400Nmを発揮する。トランスミッションは6速MTだ。

2コーナー立ち上がりでアクセルを踏み込むとヘリカルLSDが高いトラクション性能を発揮し、コーナーの出口に引っ張り出されるかのような感覚で立ち上がっていける。続くS字では、ステアリング操作に対する応答の鋭さが実感できる。ホイールの軽量化で、フットワークは別物のように軽くなっている。また、ステアリングの操作量や転舵速度に正確に応答してくれるのだ。

高価な部品がつけられているからスゴいのではなく、高価な部品が作り出す精度の高さを使って、速さを求めて徹底的に研ぎ澄ましているのがこのクルマなのだ。その潔さをとても好ましいと思う。超辛口のFFスポーツカーだ。

ルボラン2021年2月号より転載

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