2020年9月に本国で発表が行われた、メルセデス・ベンツの新型「Sクラス」。最先端技術を惜しげも無く投入し、先進安全運転支援機能もさらに進化。優雅で繊細なタッチのエクステリア、最新のラグジュアリーを定義するインテリアなど、その全貌を説明するにはかなりの紙幅を割かねばならないほど、圧倒的な情報量を持つモデルチェンジとなった。
日本でも、2021年1月28日から発売を開始しており、受注の出足も好評と伝えられている。
https://carsmeet.jp/2021/01/28/183252/
メルセデス・ベンツのフラッグシップとして長い歴史を刻んできたSクラスも、新型で7代目を数えるに至った。そこで今回は、W116型から現在に至る全世代を、駆け足でおさらいしたい。なお、メルセデス・ベンツの上級モデルは1950年代から存在しており、Sクラスを通称で呼んでいた世代もあったが、今回の記事では、初代Sクラスを1972年登場の「W116型」とした。これは、メーカー自らがW116型を「Sクラス」と呼称したことによる。
メッキを多用した重厚なエクステリアが特徴の、初代【W116型】
初代Sクラス(W116型)は、それまでのメルセデス・ベンツの旗艦だった「W108/W109型」の印象や流れを受け継ぎながらも、矩形のヘッドライト、大型化したテールライトなどで近代化した外観を持って登場した。車体は一回り大きくなってロングホイールベース版では全長5mを超え、多用されたメッキの効果もあり重厚な雰囲気があった。頑強なボディ、パッドで覆ったダッシュボード、大きなドアミラーを備え、ABSを世界で初採用するなど、当時としては最先端の安全設計が盛り込まれていた。内装は、メルセデス・ベンツの旗艦にふさわしい豪華な装備を持っていたが、意匠は派手ではなく、品の良い高級感を漂わせていた。
Sクラスの地位を確立し、日本でもヒットした2代目【W126型】
1979年には2代目の「W126型」にスイッチした。2代目Sクラスは、初代のクラシックさを残しつつ80年代的モダンを兼ね備えた内外装デザインを持つ。機能が形状を決定した部位が多く、装飾過多という言葉とは無縁だった。決して華美ではない「大きな実用車」というメルセデス・ベンツ乗用車の本質を体現しており、今なお多くのファンを引きつけている。
1970年代末になると、クルマには環境や燃費に関する対策が求められていたため、2代目Sクラスでは空力性能の向上や軽量化に力が注がれていた。安全性や品質感もさらに高まり、初代が培ったSクラスのバリューを一層強くすることに成功。日本を含め世界中の富裕層や政治家、王族などが愛用した。Sクラスの代名詞的な存在でもあり、事実、歴代でいちばん売れた世代だった。
1981年には、大型パーソナルクーペの「SEC」が追加された。1971年登場の3代目「SL」(R107型)の4人乗りクーペ「SLC」のポジションを継いだモデルで、Sクラスのホイールベースを短縮した上に構築されたボディには、ピラーレス構造のサイドウインドゥ、スリーポインテッド・スターをセンターに大きく置いたグリルなど、特徴的なスタイルが与えられていた。
車体を大型化し、存在感を増した3代目【W140型】
3代目Sクラス(W140型)は1991年に登場し、2代目Sクラスは12年ほどのモデルライフを終えた。2代目のクラシカルな印象から一変して、余計なプレスラインを消し去った外観は、90年代の高級車にふさわしい近代的な姿となった。ボディはさらに大きくなり、全長は標準ホイールベース版でも5mを超えていた。1.5mほどある全高も、迫力あるイメージと存在感を与えている。巨大になったキャビンにより、居住性も向上していた。静粛性をアップするために二重窓構造を採用するなど、フラッグシップにふさわしい装備も増えており、高級車としての完成度は高かった。しかしその結果、車重も大幅に増加し、2t以上に達していた。
このように大きく重くなった3代目Sクラスは、当時の環境重視の世相に反すると目され、販売台数は低迷した(ただし、日本では「迫力がある」としてよく売れた)。
威圧感を取り去り、コンパクトな印象になった4代目【W220型】
大きく重かったことで不評だった3代目の反省から、1998年登場の4代目ではボディを小さくするだけでなく、カドをとった柔らかいデザインを採用したことで、ぐっとコンパクトな印象を与えることに成功した。無骨だった内装もデザイン性が重視され、イメージを大きく変えている。
また、Sクラスといえば富裕層など「ショーファードリブン」に向けた車種という印象も強かったが、メルセデス・ベンツは派生高級版の「マイバッハ」を誕生させることを決定しており(1997年の東京モーターショーに、マイバッハのコンセプトカーを出展していた)、Sクラスをパーソナルカー寄りの設定にすることができた。
しかしその一方で、この頃のメルセデス・ベンツが、「最善か無か」=「妥協なきクルマ作りを行う」という企業姿勢を緩めていたことを受け、各部にコストダウンの手が入り、内装の品質低下が指摘された世代でもあった。とはいえ、メルセデス・ベンツの従来ユーザーではない新しい層にリーチできたのも事実で、販売は好調だった。
力強さを取り戻し、最先端技術を満載した5代目【W221型】
2005年にデビューした5代目Sクラス(W221型)では、先代の流麗さを残しつつ、大きなグリルや張り出したフェンダー、拡大されたボディによって、再び迫力あるSクラスの姿を取り戻している。BMWの「iDrive」を思わせるコマンドコントロールシステムを持つセンターコンソール、大きな画面をビルトインしたダッシュボードを備えたダッシュボードなど、外観以上にインテリアに大きな変革が与えられていた。LEDヘッドライトや自動追従型クルーズコントロールなど先進安全装備も豊富に搭載され、2009年にはハイブリッドモデルも追加。新しい時代の到来を予感させた。
優美で流麗なデザインと最先端装備を誇った6代目【W222型】
6代目Sクラス(W222型)の発売が開始されたのは、2013年。最高峰の安全性と快適性、大型サルーンらしからぬ操縦性など、これまでのSクラスが築き上げてきた伝統をさらに昇華しつつ、「革新的な知能運転」「究極の快適」「徹底した効率」をテーマに、力の入ったモデルチェンジが行われていた。リアタイヤに向かってなだらかに降りていく、優雅なエッジが走るエクステリアは、5代目Sクラスの迫力を押す印象から一変。優美な雰囲気を得ている。円形の空調吹き出し口が並び、グロス処理のパネルとつや消しのシルバーパーツが多用された内装は、これまでのSクラスとは異なる高級感をアピールする。
メカニズム面でも最先端で、先代に引き続きハイブリッドモデルを設定。2014年にプラグインハイブリッドモデルが登場したほか、2018年には「ISG(インテグレーテッド・スターター・ジェネレーター)」、48V電気システム、電動スーパーチャージャーを備えた「S450」と、日本市場のSクラスでは初となる、ディーゼルターボエンジン搭載車も追加されている。
常に時代の最先端をいく高級サルーン、Sクラス。最新の7代目も、「ついにこんな時代が来たのか」と思わせるような装備や内装を持って出現した。これからのSクラスの発展に、引き続き注視していきたい。
この記事を書いた人
1971年生まれ。東京都在住。小さい頃からカーデザイナーに憧れ、文系大学を卒業するもカーデザイン専門学校に再入学。自動車メーカー系レース部門の会社でカーデザイナー/モデラーとして勤務。その後数社でデザイナー/ディレクターとして働き、独立してイラストレーター/ライターとなった。現在自動車雑誌、男性誌などで多数連載を持つ。イラストは基本的にアナログで、デザイナー時代に愛用したコピックマーカーを用いる。自動車全般に膨大な知識を持つが、中でも大衆車、実用車、商用車を好み、フランス車には特に詳しい。