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【大矢アキオの イタリアでcosì così でいこう!】【動画】こんなレンタカーはいかが? 初代「フィアット500」と3輪車「アペ・カレッシーノ」で気分はリアル・イタリア人

フィアット500が堂々14台!

電気自動車(EV)の「フィアット500e」は、2021年のイタリア国内EV登録台数で第1位になることが確実視されている。それにともない、1957年にデビューしたいわゆる「ヌオーヴァ500(以下500)」の人気も、にわかに高まりを見せている。

その500を14台も保有するレンタカー会社がイタリア中部トスカーナのカステッリーナ・イン・キャンティにある。

「ノレッジョ・キャンティ500」は、オーナーのガブリエレ・チャバッティーニさん(1981年生まれ)が2013年に創業した。Noleggioとはイタリア語でレンタカーの意味。またChiantiの名前から想像できるとおり、キャンティ・クラシコ・ワインの故郷である。

事務所の壁画からして、普通のレンタカーサービスと違うムード満点。

ガブリエレさんは、免許取得後初めてのクルマが「初代オーナーから譲り受けたフィアット500ジャンニーニだった」という筋金入りの500ファンである。実はイタリア各地には、500をレンタルする業者は数々存在する。ただし多くは、結婚式などイベントやセレモニー用途である。

1966年から72年式まで14台の500をストックしている。

いっぽうでガブリエレさんが営む店は、500のドライブ体験を主としている。原則として、お客さんが運転する。サポートも万全だ。陸送車は常時待機。「もちろん代車も500」を実現できるのは、たくさん保有するガブリエレさんの会社ならではの強みだ。

代えがたいライブ感

今回の動画では、500を楽しみにやって乗るお客さんに、日頃どのような形で貸し出し前レクチャーを行っているのかを再現してもらった。

500のエンジンルームを覗くと、ここまでシンプルな機構とプリミティヴな構造でもクルマは走れるのだという感動が沸いてくる。日本の書店で買える実験キットシリーズ「大人の科学」にあっても良い感じだ。

その日、ガブリエレさんが用意してくれたのは、1972年式500R。

今日のクルマと違い、イグニッションやライト、ワイパーをはじめとする操作系に機能を示す文字やアイコンはまったくない。それぞれを記憶する必要がある。ライトを点灯するつもりで、ワイパーを動かしてしまったり、始動するつもりでチョークレバーを引いてしまう。

ピアッジョ社の3輪車「アペ・カレッシーノ」は2台を保有。

だが一旦覚えてしまうと、いっぱしのイタリア人になったような気分になる。そればかりか「万一悪党と乱闘になったとき、相手の500を奪って逃走できる」などという意味不明な自信が漲ってくる。

ガブリエレさんに自身の故郷であるカステッリーナ・イン・キャンティを撮影のためドライブしてもらったあと、筆者も少し運転させてもらう。彼による注意のとおり制動力はかなり弱めだ。自らの文章表現力の限界を示すようで恐縮だが、思わず「ああーっ」と声を上げたくなる場面が何度かあった。

ガブリエレさんは、500好きが嵩じてこの仕事を開業してしまった。

それでも、ほのかなガソリンの臭いととともに、お菓子屋さんから漂う甘い香り、バールに集う客が談笑する声、そして頭上いっぱいに広がる中世建築といったものが次から次へとミキシングされ筆者の五感を刺激してゆく。イタリア人が古い500を手放さない理由は、単に維持費が安かったり駐車スペースに困らないからだけではなく、こうした特有のライブ感であることを認識した。

再起を託して

実は筆者が初めてガブリエレさんを訪ねたのは、彼がビジネスを始めた2013年だった。偶然、つまり通りがかりだった。創業の理由は、単なる500への愛からだけではなかった。「それまで家業として従事していた建材業が、深刻な不振に見舞われたこともきっかけだった」と本人は振り返る。

離れのヤードには、これからレストアに掛かる500も。廃車を丹念に探しては入手している。

途方に暮れた末思いついたのが、500のレンタカーだった。「500は第二次大戦後イタリア再生の原動力となりました。そこで私も500を再起のチャンスにしようと決意したのです」

あれから8年。観光客へのレンタルだけでなく、ツアーオペレーターの先導による、数台の500を連ねたドライブツアーも企画。好評を得ているという。フィレンツェ、ピサといった近隣の空港デリバリーもオプションで提供を開始した。飛行機を降りてターミナルの外に出た瞬間、500が待っているのはそれなりに感動するサービスだろう。

そのうちの1台。目下室内は廃墟ツアー状態だが、いつか顧客を迎える日が来るのだろう。

また、今回の動画に収録したとおり「ベスパ」スクーターの製造元であるピアッジオ社による3輪貨客兼用車「アペ・カレッシーノ」も提供している。こちらも500に負けず劣らずトラッドなイタリア感満点だ。

「フィアット500は、戦後イタリアを変えたクルマです」。母ジュリアーナさん(右)も熱く語る。

各国の旅行会社と提携しながら、ワイナリーをはじめとするさまざまなプライベート・ツアーにも着手している。好きを仕事にしたガブリエレさんの夢は大きく開花していた。最後にクルマに話を戻せば、遅くても楽しい500に堪能したあとの筆者は帰路、自分のクルマのスピードを落とし、後続車に抜かれてもまったく気にしなくなっていた。意外なメンタル効果である。

【Noleggio Chianti 500】
Via 4 Novembre, 35 Castellina in Chianti (Siena) ITALIA
https://www.noleggiochianti500.com
フィアット500 : 200ユーロ/1日
アペ・カレッシーノ : 120ユーロ/1日
(いずれも2日目以降割引あり。自賠責保険込。車両補償別)

文と写真 大矢アキオ Akio Lorenzo OYA
動画 大矢アキオAkio Lorenzo OYA/大矢麻里 Mari OYA

この記事を書いた人

大矢アキオ

イタリア文化コメンテーター。音大でヴァイオリンを学び、大学院で芸術学を修める。1996年からシエナ在住。語学テキストやデザイン誌等に執筆活動を展開。NHK「ラジオ深夜便」の現地リポーターも今日まで21年にわたり務めている。著書・訳書多数。近著は『メトロとトランでパリめぐり』(コスミック出版)。

大矢アキオ

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