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もはや「覗き込む」メーターは不要? BMW 新型「iX3」が採用した“魔法のディスプレイ”「パノラミックiDrive」と、“視線移動”を最小化する安全設計

BMW iX3UIUX開発責任者に聞く、「パノラミックiDrive」の革新

ジャパンモビリティショー2025(JMS 2025)でアジア初公開された、初の新型ノイエ・クラッセ・モデルであるBMW「iX3」。この最新EVは多岐にわたる分野で技術的な飛躍を果たしており、今後登場する全てのBMWモデルは、採用する駆動システムにかかわらず、ノイエ・クラッセがもたらす技術を受けることになる。

iX3で初搭載された新型ユーザーインターフェース「パノラミックiDrive」は、今後の新しいBMWモデルに搭載される。ル・ボラン編集部では、BMW パノラミックiDriveエキスパートのローレンツ・マケシン(Lorenz Makeschin)氏に単独インタビューを行い、その革新の技術に迫ってみた。

【画像24枚】“魔法のディスプレイ” が「投映」する未来 。BMW iX3「パノラミックiDrive」の革新的コクピットを全方位から見る

“魔法のディスプレイ”「パノラミックiDrive——3つの革新的特徴

ル・ボラン:まずは、ローレンツさんのお仕事を教えてください。

ローレンツ・マケシン氏(以下敬称略):パノラミックiDriveの開発担当のエキスパートです。私の部署は、UI(ユーザーインターフェース)/UX(ユーザーエクスペリエンス)周りの全てを担当していまして、私はBMWだけではなくてMINI、ロールス・ロイスも担当している責任者です。もちろん、クルマの中だけではなくて、アプリも担当しています。

ル・ボラン:iX3の一番の見どころは、なんといってもパノラミックiDriveだと思います。一番こだわったポイント、一番苦労したポイントについてお聞かせいただけますか。

マケシン氏:このパノラミック・ビュー・ディスプレイですけれども、こちらが最新のテクノロジーになっています。このパノラミックiDriveに関しては3つの大きな特徴があります。

まず1つ目が、実際にはこのディスプレイは真っ黒で見えない状態になっています。オンにすると初めて見ることができる、魔法のディスプレイということです。

そして2つ目が、実はこのディスプレイは、ディスプレイ自体を見ているのではなくて、ディスプレイに投映されたものを見ています。それが1.2m離れたところから投映されています。実際に運転すると、自分の目は道路にフォーカスしたまま、特に見下ろすことなくその情報を見ることができるのです。

そして3つ目は、2点目と関連していますが、そのように自然な形で道路を見ながら情報を見ることができるので、見下ろす必要がない、ということです。つまり視線移動が少なくて済むため、より安全なドライブが可能になるということです。

物理スイッチは「悪」なのか? ユーザーデータが導くBMWの「ハイブリッド戦略」

ル・ボラン:物理スイッチが大幅に集約されていますね。何を残して何を省くか、どのように取捨選択しているのでしょうか。

マケシン氏:たとえば内燃機関(ICE)のモデルであったり、プラグインハイブリッドであれば、もちろんスタート&ストップスイッチが必要なので、それは今後も残ります。ただ、EVに関しては、「あれ、押したのかな? してないのかな?」という混乱を招いてしまうこともありますし、本当に必要性があるのかどうかを考えて、iX3に関してはブレーキを踏むことによってオンになるようになっています。

ル・ボラン:基本的にはできれば物理スイッチは極力なくす方向で開発は進められているのですね。今ハザードスイッチや、音量スイッチ、シフトノブなどは残されていますが、本当だったらこうしたものを全てパネルの中に収めたいくらいですか?

マケシン氏:戦略的にあえてハードキーのスイッチを数を減らそうということでは、決してありません。ユーザーの方がどういう状況でどういうシーンで使われるのか、どの機能をどういった形で使われているのか、というところに着目して、それに合わせて最適化しようというのが戦略です。

ル・ボラン:ユーザーの方が、いちばん使いやすい方法を考えてくださっているんですね。

マケシン氏:実際にこれまで販売したクルマのデータを、個人を特定しない形で蓄積しています。どのハードウェアのスイッチを使っているのか、どのタッチスクリーンを使ってるのか。それに合わせて、ユーザーの方に合うように最適化しているのです。ですので、ボリュームコントロールですとか、電話、音楽の再生、メディアコントロール……といった、ハードウェアのキーは今も多く使われているので、残しています。今後もユーザーの使い方に合わせて最適化する、ハイブリッドな仕組みというのが戦略です。

なぜステアリングは「この形」になったのか? デザインの制約から解放されたアイコニックな造形

ル・ボラン:ステアリングの形状も大きく変わりましたが、従来のステアリングと一番違うのはどんなところでしょうか。

マケシン氏:パノラミックビジョンのテクノロジーにより、非常にアイコニックな形のステアリングホイールに仕上がっています。通常のクルマですと、インストルメントクラスター情報を、ステアリングホイールの開口部から、そこを通して見るようなデザインになってるのが通常型のステアリングホイールでした。

パノラミックビジョンに関しては、情報が(ステアリングの)上に見えるのでその必要がありません。結果的に、今までのステアリングホイールのようなデザイン上の制限がないので、スポークに関して非常に自由で、本当にユニークなデザインになっているというのが特徴です。

それに加えて、このステアリングホイールから手を離すことなく、色々なものが操作できる、マルチファンクションコントロールというキーもたくさん残っています。例えばADASですとか、それからメディアプレーヤーですとか、手をステアリングホイールから離すことなくコントロールして、手元や視線を下の方に動かすことなくコントロールでき、それがパノラミックビジョンで見えるのです。

なぜ横長のカーブドディスプレイをやめたのか?

ル・ボラン:今までのカーブドディスプレイとは変わって、新しいセンターディスプレイは直線ですね。

マケシン氏:これまでのカーブドディスプレイは横長のディスプレイだったので、その人間工学的に操作性を高めるために、曲げていたのですけれども、今のものに関してはその必要がなくなったので、そのような仕様にはしていません。それに加えて今回のiX3では、もう一つ、このドライバーに非常に近いところに、チルトされているディスプレイがあります。なので、それを別にカーブにする必要はなくて、非常に操作性がいいということも、もう一つの特徴です。

「今後の全BMWモデルに搭載」——MINI、ロールス・ロイスはどうなる?

ル・ボラン:パノラミックiDriveは今後のモデルにどんどん採用されていくのですか。

マケシン氏:はい。このパノラミックiDriveは非常に画期的なテクノロジーだと思っていますし、利便性が高いだけではなくて、安全性にも非常に優れています。実際にクルマに乗って体感していただければと思うのですけれども、本当にこのドライビング体験の欠かせない一部であると考えていますので、今後の全てのBMWの新しいモデルに、このパノラミックiDriveを搭載していく計画です。

ル・ボラン:では今後はロールス・ロイスやMINIにも採用されますか?

マケシン氏:あ、その質問は来ると思っていました(笑)。ご存知の通り、ロールス・ロイスは、伝統を重視しているブランドですので、もちろんディスプレイというところもその伝統と大きく関わってきますのでちょっと戦略は異なります。ですが、共通の基盤システムは採用しているので、例えばMINIであれば、丸いラウンド型に変えることができますし、ブランドによってその見た目を変えることはできます。

ドライバーだけでなく「乗車している全ての人」が見られるディスプレイ

マケシン氏:実際にパノラミックiDriveの実機があるので、その前でもう少しご説明しましょう。まず左右に大きく110cm広がる、このパノラミック・ビュー・ディスプレイに関しては、ドライバーだけではなくて、乗車している全ての方が見られるディスプレイになっています。これはヨーロッパ市場用なので左ハンドルですが、日本であれば右ハンドルになります。このセンターディスプレイのスリットも逆になります。

そして先ほどお話したとおり、ステアリングの間を通して見るのではなく、この上から見ることができます。左側にADASシステムのコントロールのボタン、インフォテインメント&ディスプレイの操作のボタンが右側に付いています。

パノラミックビジョンには、真正面には走行に必要な情報がデフォルトで配置されて動かせませんが、その横に今ウィジェットが6個出てますよね。設定で何を表示するのかを変えることができます。例えば時間、携帯電話のステータス、バッテリーの温度、日付など、自分でカスタムできます。もちろん全部消すこともできますよ。

ル・ボラン:なるほど。今どのくらいのウィジェットがあるんですか。

マケシン氏:自分でドラッグ&ドロップして選んでいただけるものが16あります。そして毎年のようにリモートソフトウェア更新をかけていくので、その度に新しいウィジェットが追加されて、常に進化を続けていく形になっていくと思います。

日本市場に特化したアプリも提供予定。進化するアプリストア

マケシン氏:このボタンを押すことによって、ビューを変更することができます。例えばマップビュー。で、それから目的地までの時間。

ル・ボラン:すごくローディングが早いですね。いや本当に視線移動が少なくてすみますね。

マケシン氏:まさにその通りです。視線を動かすことなく、道路に目を向けながらナビゲーションを見ることができます。ここでSpotifyとか音楽プレイヤーをコントロールしたり、エアコンをコントロールしたとしても、ナビゲーションはそのまま残っています。

また、実際のクルマであれば、あと後続距離がどれぐらいか、バッテリーの充電状況がどうなってるのか、などなどの情報も表示されます。また、パワーメーターやGフォースメーターなど、様々なビューをお選びいただくことができます。

スポーツモードを選びますと、ディスプレイの雰囲気が変わります。パワーメーター、Gフォースメーター。トルク、パワー、回転数、システム温度。これも実際にここのキーで操作することができますし、赤色のアンビエントライトに全てが変わります。

さらに、アプリストアがあるので、そこで様々なアプリをダウンロードすることができます。アプリストアには日本市場に特化したアプリも提供される予定です。

アジア初披露の地を日本に選んだ理由

ル・ボラン:いやあ、本当に実際に運転するのが楽しみになってきました。日本のユーザーに向けてメッセージをいただけますか。

マケシン氏:BMWグループにとって、日本のファンの皆さん、日本のユーザーの皆さんはとても重要です。ですので、このiX3のアジア市場での初お披露目も日本です。日本市場のために、このハードウェアももちろん、右ハンドルに合わせて仕様を変えています。日本のユーザーの皆さんに満足していただけるようなユーザーエクスペリエンスになるように、ハードウェアも変えています。ぜひご期待ください!

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ル・ボランでは、今後もBMW iX3の試乗記などを継続的にお届けしていく予定ですので、引き続き続報をお楽しみに!
■『ル・ボラン』2025年12月号「なぜドイツ車なのか?」はこちら

【画像24枚】“魔法のディスプレイ” が「投映」する未来 。BMW iX3「パノラミックiDrive」の革新的コクピットを全方位から見る

※この記事は、一部でAI(人工知能)を資料の翻訳・整理、および作文の補助として活用し、当編集部が独自の視点と経験に基づき加筆・修正したものです。最終的な編集責任は当編集部にあります。
LE VOLANT web編集部

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