外浦街道(No.058)
ゆるやかな時の流れに身を任せ、海辺の風景を味わう。
城下町・金沢を起点に能登の海岸線を時計回りに走って行くと、羽咋(はくい)の町をすぎたあたりから、行き交うクルマの数が急に少なくなる。ここから先、半島をぐるっと一周して七尾市に至るまで、途中にある大きな町といえば人口3万人あまりの輪島市くらいのもの。さらに国道249号を外れ、海岸線を忠実にトレースする県道に入ったりすると、対向車とは滅多に出会わない。まるで美しい入り江をめぐる海辺の道を独り占めしているような気分になってくる。
能登路という言葉に華やいだイメージをもつ人は、たぶん少ないだろう。大きなレジャー施設はなく、能登半島有料道路(現在は県道の「のと里山海道」として無料開放)ができるまでは、交通の不便さを表現するのに『陸の孤島』というフレーズも使われていた。
ただし、実際にここを走っていると、同じ半島でも下北のような、いかにも最果ての気配はまるでない。海も山もおだやかで、家並みには落ち着きがあり、人々の話す京都訛りの言葉もどことなく上品な響きがある。
こうした能登半島の不思議な印象は、古代における大陸との交流、北前船の寄港地としての繁栄といった、長い歴史のなかで積み重ねてきた役割の大きさにあるのかもしれない。
先を急がず、のんびり走り続ければ、この外浦を巡る道の魅力はもっと鮮明に見えてくるに違いない。