清水和夫のダイナミック・セイフティ・テスト(Dynamic Safety Test)
Number81(SEASON.8):操る楽しさ再確認したEセグ・ドライバーズカーの決定戦
BMW・540i Mスポーツ vs ジャガー・XF ポートフォリオ
お父さんたちの憧れのセダンはメルセデス・ベンツEクラスと相場が決まっていたが、最近はメルセデスの良きライバルであるBMW5シリーズやジャガーXFも注目されている。アッパーミドルとはいえ、ボディサイズが大きくなったので、ダイナミクス性能が気になるところだ。走りでは一家言あるBMWとジャガーの最新セダンの実力に迫る。
乗り心地と走りのジャガー・XF
「アルミボディなのに軽くないね?」とジャガーの技術者に聞くと、「軽くできた分の質量をリアアクスル周辺に使っている。剛性アップと重量配分のため」、というのが彼らの答えだった。XFの重量配分は5シリーズよりも50対50に近いし、リアアクスルにたっぷりと質量を与えた形跡がある。ダイナミクスではメリットがあるが、1.8トンを超える重量にはブレーキの負荷がかかり、デメリットもあるだろう。ということで、XFは非の打ち所がないドライバーズセダンだと思っていたが、意外なことにブレーキ性能に難があった。初期の効きが少し弱く、フェード現象も見られた。
そうはいってもXFは魅力的なセダンだ。しなやかなサスペンションによる乗り心地は往年のジャガーXJを彷彿とさせるし、高速走行ではサスペンションのダンピングがグッと高まり、見事な安定性を示してくれる。この乗り心地と高速安定性の両立は、昔のジャガーではできなかったことだ。横Gが大きいワインディングを走ると、ステアリングに適度な重さを感じ骨太の走り味が楽しめる。舵の効きは5シリーズほどシャープではないが、ツイードのジャケットを着ていても軽快に走れそうだ。
官能のBMW・5シリーズ
一方の5シリーズはどうか。XFのV6とは異なり、ストレート6の官能的なエンジンが印象的だ。シャシー性能も魅力的だが、それを上回るほどエキサイティングなエンジンフィールはドライバーを感動させる。5シリーズを手に入れるならぜひ直6を選びたいところだ。高速走行の乗り心地もダンピングが効いた感じで、舵の効きもダイレクト感があって非常にフラットだ。130km/hぐらいの速度で緩いRの走行時にスロットルをちょっと戻して前輪荷重にすると、スーッとリアがリバースする挙動がある。ゆっくりと操舵しているので、DSCは介入しない。その先で、リアがオーバーステアになっても、挙動変化がゆっくりなので操作しやすい。安定性よりも操縦性がBMWの武器なのだ。
この官能的なエンジンとシャープなハンドリングは想定内。逆に良くない新発見はウェットグリップがやや足りないタイヤを履いていたこと。見ればタイヤはメルセデスと共通の製品。その証拠として、タイヤにはBMWの☆(星)マークとメルセデス承認マークであるMOの文字が刻まれている。
排ガスと燃費規制、騒音規制などますまず厳しくなる環境規制を前にして、実はBMWとメルセデスは、ランフラットタイヤの共通化を進めている。もちろんそれは悪いことではないが、タイヤのウェット性能が犠牲になっていることに不安を感じてしまう。
タイヤの共通化の先にあるのは、シャシーやプラットフォームの共通化、あるいはその先に内燃エンジンの共通化もありうる。EVや自動運転、あるいはライドシェアが次世代モビリティだとするなら、伝統的なメーカーはどうサバイバルしていくのだろうか。
走る楽しさを持つ反面、環境派はどう理解するか
アッパーミドルクラスでは、メルセデス包囲網として、ジャガーとBMWがその存在を脅かすはずだ。伝統的なジャガーとアバンギャルドなBMWは異なる個性を持っているので、甲乙つけがたいブランドだと思った。スペックは似ていても、V6とストレート6、スーパーチャージャーとターボなど、異なる個性を持っている。
DSC(ESC)の制御もドライバーをある程度信じて設計しているので、制御が走る楽しさをスポイルすることはなかった。だが、この2台はディーゼルでもなく、ハイブリッドでもない、ただのガソリン車だ。環境派のユーザーに受け入れられるかどうかは不安だ。
RESULT
Eセグ・ドライバーズカーとして、甲乙つけがたい接戦
●ジャガー XF ポートフォリオ:16.0/20点
●BMW 540i M スポーツ:17.0/20点