
清水和夫のダイナミック・セイフティ・テスト(Dynamic SafEty Test)
Number84(SEASON.8):Eクラスと互角以上の勝負を披露したV90がメルセデスの優位を脅かす!?
メルセデス・ベンツ E220d ステーションワゴン vs ボルボ V90 T6 AWD インスクリプション
SUVに主役の座を奪われてしまったステーションワゴン。だが最近はその世界も多様化し、目が離せなくなってきた。背が高いSUV的なモデルから、驚異的な速さを与えられたスポーティモデルまで多彩な世界観を持っている。その中で今回はアッパーミドルクラの両雄、メルセデス・ベンツEクラスとボルボV90をピックアップ。高い安全性を誇る2台をテストした。
プレミアムセグメント屈指の趣味と実益を兼ね備えたEクラス
メルセデスのEクラス・ステーションワゴンは、プレミアムセグメント屈指の趣味と実益を兼ね備えたモデルだ。SUV全盛期の今、ワゴンの存在意義をどう見出すか。Eクラスのチーフデザイナー、ロバート・レズニックは、ドイツデザインの哲学である「バウハウス」の教えを忠実にデザインしたと語っている。これは徹底した機能美を追求したということである。
しかし、実際に乗ってみると、深い人間研究がEクラスの背景にあると感じた。例えばステアリングホイールを握ったら親指の形がピタッと合っていたり、掌がグリップするところは滑らないような形状(ポチポチが付いている)に加工されていたり、ヘッドライトスイッチはオフしにくいように設計されている。人間のミスや特性をよく知り尽くしたクルマ作りに改めて感心した。唯一、Aピラー付近の視界が悪かったのは気になったが、近い将来ミラーレスになれば、この部分の視認性も一気に高まるはずだ。こうしたインターフェイスの充実を重要視している点が、とてもメルセデスらしい。
またリアの足まわりにはエアサスを採用し、荷物を積んでも車高が変わらないオートレベリング機能を搭載。実際に走ると、静かなディーゼルユニットに感動するが、ハンドリングは少しスポーティなので走る楽しさも感じられた。リアまわりの剛性を高めるために、床下はワゴン専用のボディ補強パーツも付加されている。荷室にはディーゼルのNOx触媒用に尿素タンクが備えられ、スペース的にスペアタイヤを格納できないためランフラットタイヤを履く。
Eクラスにライバル出現、全方位で急成長したV90
ボルボは完全にV90をプレミアムセグメントにシフトする戦略を採った。今回テストした限り、ダイナミクスでは非の打ち所がないほど先進的なプラットフォームを持っていることが判明。エンジンが横置きにも関わらず、フロントタイヤがグッと前側に配置されており、タイヤの位置だけを見ると、まるでFR車のようなパッケージングが特徴的だ。
エンジンルームを覗き込むと、2L直4エンジンが横たわっている。しかし、ギアボックスとデフの配置を工夫し、しかもエンジンの揺れを最小限に抑え、細かい振動がキャビンに伝わらないように工夫している。そのためにアルミニウム製のトルクロッドでエンジンが支えられているのだ。
メルセデスと比べて劣るのは、ハーシュネスが硬いこと。そのため、昔のボルボが有していた「しなやかなアシ」はなくなった。また、高速周回路を走っている時にタイヤまわりから振動が感じられるのも気になった。タイヤの偏摩耗が原因として推測できるが、テスト車両固有の問題かもしれない。
DSTの対象外だが、高度な運転支援も充実しているメルセデスとボルボ。自動運転の領域でも技術競争を繰り広げている。いずれにしても、プレミアムの王様たるメルセデスの牙城を崩すべくチャレンジするボルボには敬服する。
安全性とファンな走行性能、コンセプトの違いが現れた
安全技術では切磋琢磨してきた両者だが、それぞれの新しいコンセプトが目を惹く。
ボルボは90系から新しいプラットフォームを投入。パワートレインは2Lターボだが、低回転域はスーパーチャージャーで過給する二段構えで、動力性能では大きく上回る。ダイナミクスは甲乙つけがたいが、タイヤのウェット性能の差でメルセデスは失点した。
しかし、メルセデスの衝突に備えるプレセーフは万全で、新しく備わったプレセーフ・サウンドはとても興味深い。時代は衝突安全から予防安全にシフトするものの、事故から乗員の傷害を少なくするテクノロジーも見逃せない。
RESULT
圧倒的な存在だったEクラスを凌いだV90の秘めたる実力
●ボルボV90 T6 AWD インスクリプション:19.5/20点
●メルセデス・ベンツ E220d ステーションワゴン:18.5/20点