場をわきまえることなく鼻息の荒いAMG
一方のメルセデスAMG GT63S 4マチックは、パナメーラ4-Eハイブリッドに背を向けるかのようにすべてが過激である。そもそも後者はパナメーラ・シリーズの中では日常性を意識したグレードであるのに対して、前者は4枚のドアを隠れ蓑にしているだけで、シリーズを代表する武闘派である。フラットな視点で優劣をつける立場にはないが、それでもやはり、その獰猛ぶりには思わず腰を抜かしかける。
0→100km/hは3.2秒だから、不用意なフルスロットルでは胃がムカムカしてくる。V型8気筒4Lツインターボが本気になれば、最高出力は639psに達するというから怖ろしい。最大トルクの900Nmも比較的高回転域でピークを迎えるようで、回転の上昇に比例してドカンと異次元の世界が開ける。
ハンドリングも同様で、ステアリングの応答はキレキレ。ステアリングからタイヤまでのプロセスには、金属のシャフトや電気モーター、あるいはゴムのブッシュが介在しているはずなのに、手首をわずかに捻った瞬間、まるでタイヤに直結されているかのように首筋に横Gを意識するのである。
驚いたのは、高速域でも軽快なフットワークを失わないことである。リアのアクスルステアリングは、100km/h以下では同位相に、それ以上では安定性を高めるはずなのに、どれほど速度を上げても鈍重な高速移動用4ドアクーペになろうとはしない。いつでもどこでもピキピキなのである。アクティブスポイラーがせり上がってもそれなのだから、空いた口が塞がらない。徹底徹尾、とことん武闘派でいようとするのである。
猛暑のなかで乗り比べた2台は、まるで一度も顔を合わせたことのない武将同士のようにキャラクターが背を向けていた。内に秘めた狂暴性を包み込む冷徹なパナメーラ4-Eハイブリッドに対して、場をわきまえることなく鼻息の荒いAMG GT63S 4マチックの構図が興味深い。唯一共通しているのは、個性の所在が明確であり、歯切れがいいことだけである。