日本のBMWが入る東京・八重洲のビル地下駐車場でひと目見た瞬間、「いったい8シリーズの本命はどのモデルなんだ!?」とやや戸惑いを覚えた。基本となる2ドアクーペのスポーティでエレガントなフォルムは惚れ惚れするほどだが、この8シリーズ・グランクーペときたら、それに加えてフォーマルな香りすら醸し出す。BMWのトップモデルとして、7シリーズと双璧を成す存在といえる。
全長は5mオーバーの堂々たる体躯
以前は“6”のグランクーペと呼ばれていたこのモデルも、クーペが“8”に格上げされたのを機に“8”のグランクーペとして生まれ変わった。
6のグランクーペを初めて見たとき、素直に綺麗で格好いいと思った。当時のBMWのラインアップの中では1番好きだった。でも都内で乗り回すにはやっぱりボディサイズが気になって、「もう少し小さければいいのに」と無い物ねだりをしていたら、しばらくして4シリーズにもグランクーペが追加されると聞いて小躍りしたものの、実物を見たら6のような感動がなくピンとこなかった。
デザインに関して自分はセンスも知識も希薄だと思っているのであくまでも個人的な意見なのだけれど、6のグランクーペに見た伸びやかで流麗なスタイリングは、あれくらいの全長と全幅だったからこそ成立していたのであり、それを小さくデフォルメしてしまうと雰囲気がずいぶん変わってしまうんだなと感じた。
参考までに8シリーズの2ドアクーペとスペックを比較してみると、ボディはグランクーペのほうが230mm長く30mm幅広く60mm背が高い。車両重量は、クーペが前軸重1080kg:後軸重910kg、グランクーペが同1140kg:990kg(数値はすべて車検証値)。全長が5mを超えて車重も2トンを上回るグランクーペは、ビッグサイズのヘビー級とも言える。
それでも8のグランクーペは6と同様にバランス良く見目麗しいエクステリアで着飾っている。BMWらしいスポーティな骨格に官能的にも映るエッセンスを巧みにまぶしたデザイナーの力量は高い。試乗車はフローズン・ブルー・ストーンというボディカラーだったが、こういうマットな色も映える。
日本仕様の8シリーズ・グランクーペは計5種類が用意され、廉価モデルの840iグランクーペは8シリーズで初めてFRの駆動形式を採用した直列6気筒エンジン搭載モデルである。直列6気筒のディーゼルターボを積んだ840dも選べるが、今回の試乗車は最上位グレードのM850ixDriveである。
車両本体価格が1715万円もするし“M”が頭に付く仕様なので、通常ならオプションとなる装備のほとんどが標準で、試乗車のオプションもボディカラーやインテリアトリムやオーディオなどだけだった。操縦性にかかわる装備のMスポーツ・ディファレンシャル(=Eデフ)、アダプティブMサスペンション・プロフェッショナル、インテグレイテッド・アクティブ・ステアリング(後輪操舵)などを備えた個体である。