ユーザーから見れば「手の届きやすい価格帯から買える」「人気のSUV」であるマカン。ポルシェサイドから見れば、ポルシェの全販売台数の1/3を支える稼ぎ頭だ。つまり双方から見てマカンは重要なモデルであり、その真価には常に注目が集まる。ここでは日本導入済みのマカン3グレードを乗り比べ、個性や魅力を露わにした。
マカンの価値を際立たせるポルシェの流儀とは?
渡辺敏史氏による追加投入されたGTS(日本市場でも発表済み)の海外試乗リポート(2020年5月13日発行)が公開されている。したがって、ベスト・マカンといっても不十分な内容になりそうだが心配はいらない。より高性能なモデルだけを追加するのではなく、間も埋めてラインナップを整える戦略こそポルシェの流儀なのだ。
実際に、今回試乗するターボはラインナップの頂点に位置づけられる。2.9LのV型6気筒エンジンは、バンク内に2基のターボを備えるいわゆるホットインサイドを採用し、最高出力は440ps、最大トルクは550Nm。GTSは新たにターボと同じエンジンを搭載するがデチューン版であり380psと520Nmになる。つまり、今回はパフォーマンスの頂点から源点まで紹介できるわけだ。
そもそも、マカンが日本市場に投入されたのは2014年だ。ベースとなるのは従来型のアウディQ5だが、単なる着せ替え版ではない。できることはすべて実施する、やはり流儀に従いボディは骨格から強化され使用鋼材もポルシェ独自に最適化されている。しかも、継続的な進化を繰り返し2019年にはマイナーチェンジした現行型が上陸。フェイスリフトはもちろん、インテリアも一新され10.9インチのタッチスクリーンを採用している。
源点となる素のマカンでも、流儀が実感できる。走りの質感は、紛れもないポルシェだ。試乗車はダンパーを可変制御するポルシェアクティブサスペンションマネージメント(PASM)をオプションで装備していたので、モードがスポーツ+なら減衰力が高めの領域に維持され、乗り心地は硬めに感じる。だからポルシェらしいという意味ではなく、ガシッと引き締まっているのに不快感がない。
サスペンションが硬くなってもストロークに余計なフリクションがなく、アーム類を含むユニットを支えるボディは局部剛性が最適化され全体剛性も極めて高いからだ。そのため、サスペンションから伝わる振動をボディが抑制しつつ減衰できるということ。結果として得られる走りの上質感こそ、流儀がもたらしている。
モードがノーマルなら、ダンパーの減衰力が低めの領域に維持されるので荒れた路面でも乗り心地は快適。快適なのは、路面からの衝撃に対してだけではなくロードノイズも抑え込んでいるからだ。音量が低いだけに、ロードノイズに覆い隠されているはずのビョーッという感じで聞こえるパターンノイズがわずかに耳に届いたほど静粛性が高く快適さが際立つ。
ステアリングのユニットもボディが支え、局部剛性も最適化されている。単に高剛性化するのではなく、入力の伝わり方まで正確に計算しつくされているはずだ。いや、机上のシミュレーションだけではなくテストドライバーの感応評価と重ねあわせることでスムーズな切れ味を実現している。
しかも、2Lの直列4気筒ターボは他のモデルが積むV型6気筒エンジンよりも約100kg軽くなる。それだけに、ステアリング操作に対してノーズがスッと向きを変える。車両重量は1870kgとなるが、想像以上に軽快なハンドリングを楽しめるのだ。
直列4気筒エンジンではポルシェとして物足りないと思われそうだが、なかなかどうして。最高出力は252psに達するため、アクセルを踏み続ければSUVとして満足できる刺激が得られる。高回転域の伸びも鋭く、エンジン音が少しばかり硬質なことが気になるものの、レブリミットの6800rpmまで一気に吹け上がる。