このところダイハツのSUVがアツい。昨年秋には「ロッキー」が、そして2020年6月からは「タフト」の発売が始まった。思いの外希少な「1LクラスコンパクトSUV」として投入されたロッキー、ハスラーが席巻する「軽SUV」市場への対抗馬「タフト」は、どちらも話題のニューモデルである。そして40代以上のユーザーには、その名前が懐かしく感じられるはず。両車ともに、かつてダイハツが販売していた4WDだったからだ。でも売られていたのはかなり前のことなので、「あったね、ロッキーとタフト。でも、どんなクルマだったかしら?」という素朴な疑問を持つ人も多いに違いない。
そこで今回の「ニューモデル情報通」では、”先代” のロッキーとタフトをお送りする。そして超有名イタリアンカロッツェリアが手がけた「アレ」についても、記事末に載せたので最後までご覧いただきたい。
ロッキーは都市型RVとして1990年に登場
どちらかというと荒れた道より舗装路での使用を主とし、都市部でも似合うクロスオーバーSUVは、今やクルマ選びのデフォルトになった。その嚆矢は1994年の「トヨタ RAV4」とされる。RAV4が新しかったのは、モノコックボディのFF車なのに、形状をそれまでの「オフロード車」「RV」「クロスカントリー車(クロカン)」のようなスタイルに合わせたことだった(当時、SUVというコトバは使われていなかった)。でも、その前にも「都会派」を標榜した「ライトクロカン」があった。それが、1988年に登場した「スズキ・エスクード」と、追って1990年に投入された「ダイハツ・ロッキー」である。
どちらも都市部での使用を前提としていたが、ラダーフレームにリアリジッドアクスルという、現在なら「本格的な4輪駆動車」と称される構造を持ちつつ、車内外を乗用車的なデザインや仕上げとして快適性を増していた。この考え自体は、1983年の「三菱・パジェロ」がすでに編み出していたものだったが、エスクードやロッキーは、それよりもひと回りコンパクトな1.6Lクラスで、さらにライトな感覚で乗れるRVという斬新なキャラクターが与えられていた。
ロッキーは若者向けのクルマとしてのカジュアルなイメージも訴求された。その一方でソフトトップが設定されていたり、ハードトップ仕様では後席の屋根が後付けのレジン製だったりするあたりは、まだまだハードな乗り物だったRVらしさが残っており、現代のFFベースSUVとは隔世の感がある。もちろん駆動方式は4WDだったが、センターデフロック付きフルタイム4WDと、副変速機付きのパートタイム4WDが用意されていたのは興味深い。前者にはASB(アンチスピンブレーキ)も備えていた。初代ロッキーは1993年にマイナーチェンジを実施したのち、1997年に生産を終え、その後は「テリオス」が継いだ。
それから22年ぶりに復活した新しいロッキーは、上から下までSUVラインナップが揃うような昨今なのに、「ありそうでなかった」1LクラスのコンパクトSUVとして再生した。そのため名前以外に初代との直接的なつながりはないが、ダイハツのSUVとして懐かしい名前が戻ってきたことは、素直に喜ばしい。
なお、新型ロッキーはトヨタにもOEM供給が行われ、「ライズ」として販売される。同社のSUVラインナップでは、この上のクラスが大きくなった「RAV4」とスタイリッシュな「C-HR」になってしまうこともあり、小さくて乗りやすく、性能・室内の広さなどに過不足がないライズ&ロッキーの売れ行きは絶好調だ。たしかに、1L級SUVのライバルは「スズキ・クロスビー」くらいしかないので、その理由はよくわかる。
初代タフトはさらに男らしい「本格的すぎる4WD」だった
軽自動車の世界でもSUV人気は高く、「スズキ・ハスラー」は大成功のまま2代目を迎えている。ダイハツも、「キャスト」にSUVモデル「アクティバ」を出したものの売れ行きは芳しくなく、ハスラーのようなわかりやすいSUVスタイルを持つモデルが待たれていた。そこでダイハツは満を辞して軽SUVを発売したのだが、車名はなんと「タフト」! これまた懐かしい名前である。
タフトの登場は、ロッキーよりもさらに古い1974年のこと。当時の国産RVは、下が360cc軽自動車のスズキ・ジムニー、その上がいきなり三菱・ジープや日産・パトロール、そしてトヨタ・ランドクルーザーという車種構成で、ギャップが大きかった。タフトはまさにその「穴」に送り込まれたモデルだった。もちろん、時代的に四輪駆動車に快適性は求められておらず、タフトもラダーフレーム+リジッドアクスル、副変速機付きで悪路をものともしないタフな「本格的すぎる4WD」だったことは言うまでもない。
フルモデルチェンジでラガーに改名 そしてSUV軽としてタフトの名前が復活
時代は過ぎ、RVにも乗用車のような快適性が求められるようになった。そこでダイハツは、1984年にタフトを快適寄りにフルモデルチェンジする際、名称を「ラガー」に変更。パジェロ同様に乗用車的な装備を増強、オンロードでの乗り心地を向上させ、男の乗り物だったタフトの印象から脱却した。しかし基本的にはラダーフレームの四輪駆動車で、ボディ後半はレジントップという構造も踏襲した。エンジンは2.8Lディーゼルのみでスタートし、1984年からはディーゼルターボも追加している。ラガーはロッキーと同じく1997年まで製造された。なお、トヨタにも引き続きOEMを行い、ラガーは2代目ブリザードとして販売していた。
そして2020年、タフトの生産が1984年に終わって以来36年ぶりに懐かしい「タフト」の名前が復活した。前述の通りハスラーに対抗する軽クロスオーバーSUVで、ジムニーのようなラダーフレームは持たない。初代タフトの「TAFT」は「Tough & Almighty Four-wheel Touring vehicle」を意味しており、レジャーでも使える多目的車だったが、一方ではひたすらヘビーデューティなモデルでもあった。それに対し新しいタフトは「Tough & Almighty Fun Tool」の略に変化。快適で現代流のクルマに生まれ変わっている。
ベルトーネが手がけたロッキーとラガーがあった!
さて、少しマニアックな知識をお持ちの諸兄なら、ダイハツのRVといえばアレだよね、という言葉にピンと来るかもしれない。そう、アレとは、「ベルトーネ・フリークライマー」である。
ベルトーネといえば世界中のスーパーカーから大衆車まで数多くの名デザインを生み出した、イタリアの名門カロッツェリアだ。フリークライマーは、そのベルトーネがダイハツ・ラガー(欧州名ロッキー)をベースに作ったスペシャルな高級RVで、1989年に登場した。ラガーのフロントを丸目4灯のオリジナルデザインに変更したほか、なんとエンジンをBMWの直6に換装。2Lと2.7Lガソリン、2.45Lディーゼルターボを設定していた。日本にもターボディーゼルモデルがガレージ伊太利屋により輸入されていた。価格は1990年時点で388万円。当時、グリル中央に輝くベルトーネのbエンブレムに憧れたものだった。
ここまでは諸兄も知っているかもしれない。だが「フリークライマー2」はどうだろう。こちらは、ロッキー(欧州名フェローザ)のベルトーネ版なので、フリークライマーよりひと回り小さかった。基本的な構成はフリークライマーと同じで、マスクを丸目4灯に変えてエンジンをBMW製としているが、エンジンは1.6Lの直4に変更。大柄なオーバーフェンダーも目を引く。ベース車のロッキー同様、フルタイム4WDとパートタイム4WDを設定していた。製造は1992年から1993年ほどのわずかな期間のみだった。なお、フリークライマー2は日本に輸入されていない。
この記事を書いた人
1971年生まれ。東京都在住。小さい頃からカーデザイナーに憧れ、文系大学を卒業するもカーデザイン専門学校に再入学。自動車メーカー系レース部門の会社でカーデザイナー/モデラーとして勤務。その後数社でデザイナー/ディレクターとして働き、独立してイラストレーター/ライターとなった。現在自動車雑誌、男性誌などで多数連載を持つ。イラストは基本的にアナログで、デザイナー時代に愛用したコピックマーカーを用いる。自動車全般に膨大な知識を持つが、中でも大衆車、実用車、商用車を好み、フランス車には特に詳しい。