洒落者ぶりがシトロエンらしい
そのカングーのライバルと見なされているのが、この秋辺りからカタログモデルが販売されることになるシトロエン・ベルランゴだ。日本には初導入となるモデルだが、初代はカングーより少し早い1996年にデビューしていて、現行モデルは2018年に初公開された第3世代にあたる。さすがにカングーを横目で見てきただけあって、収納の豊富さやユニークさは結構なものだし、リアはカングーの観音開きに対してハッチ式ながらガラスの部分だけを開けることができるなど、工夫もなされている。
CITROEN BERLINGO DEBUT EDITION/PSAグループの新世代プラットフォームEMP2を採用する。カングーと比べると全長が約125mm長いなど全方位に大きい。
見た目のイメージは、ずいぶん異なってる。モダン・シトロエンならではのくっきりと独特な個性と、穏やかなカングーを並べて是非を問う人はいないだろう。室内は同様に高級感こそあまりないが、デザインが細かなところまで気配りがなされ、洒落者ぶりを見せてるのは“らしい”ところだ。後席は3人分がそれぞれ独立した分割可倒式になるなど、シートアレンジが多彩なのはアドバンテージだろうが、それぞれのシートの座り心地のよさは互角といえる。
CITROEN BERLINGO DEBUT EDITION
ただ、実はガチなライバルとはいえないんじゃないか? と感じている。なぜならベルランゴの方が車体がひとまわり大きいし、50~60万円ほど高価でもあるのだ。
CITROEN BERLINGO DEBUT EDITION/シトロエンとしては初搭載となる最新世代の1.5Lクリーンディーゼルエンジン。エンジン特性を引き出す8速ATと組み合わせられる。
何よりも、乗り味から感じられる世界観が全く違う。高速道路ではドッシリ安定し、曲がりくねった道でも正確に曲がってくれて、意外や操縦性も悪くないのだが、そういう走りを楽しみたいという気にはあまりならない。できるけどやらない、みたいな余裕というか何というか。何しろしなやかさと滑らかさとフラットさではカングーの上を往く、“乗り心地がいい”というよりも“乗り心地が気持ちいい”といいたくなるシトロエンならではの絶妙なフィールは唯一無二のようなもので、並みの高級セダンを凌駕するレベルの快適さ、のような例えをするのもどうかと感じるぐらいの癒やしを与えてくれるのだ。それを全身で感受しながらおっとり穏やかに走っているだけで、幸せな気分になってくる。これも他メーカーからは絶対に生まれない類だろう。
CITROEN BERLINGO DEBUT EDITION/運転席は見切りもよく取り回しもしやすい。
どちらがいい? ではない。どちらもいいのだ。2台のフランス産フルゴネットは、どっちが好き? でしか一方を選べないのである。