レーシングテクノロジーを駆使した高性能モデル、M8が発売開始となった。国内の導入グレードは、ベースモデルと高性能版「コンペティション」のふたつで、今回はクーペとグランクーペのコンペティションモデルを試してみた。気になる600ps超えのパワーユニット+4輪駆動システムの実力とは? 早速、公道に連れ出して確かめてみよう。
M8に秘められたジェントルな一面
8シリーズが発散するエレガンスは、歴代のBMWでは最高レベルに達し香り立つかのようでさえある。ところが、その走りは530psを発揮するエンジンを積むM850iでさえピュアスポーツと呼べるほど刺激的だった。そのため、Mモデルの頂点に位置づけられるM8はロードゴーイングレーサーの次元に達するのかと想像していたのだ。2018年にはM8ベースのレーシングマシンであるGTEがWEC (世界耐久選手権) などで実践デビューしていただけになおさらだった。
ところが、想像はいい意味で覆されたのである。たとえば、エンジン始動時は試乗車となったコンペティションに標準装備されるMスポーツ・エキゾースト・システムのバルブ制御を作動させなければ、フォンという感じで軽く吼えるだけだ。住宅地での早朝の始動で周囲に気遣いが必要になるほどのボリュームではない。走らせても、M8はジェントルな一面をかいま見せる。8速Mステップトロニック・トランスミッションは専用開発のATなので通常の変速マナーは洗練度が高い。しかも、周囲の流れに合わせるだけなら早めのタイミングでシフトアップを繰り返1000rpm台を維持するだけでこと足りる。

搭載されるエンジンはS63型の4.4L V8で、その最高出力は標準モデルで600ps&750Nmに達する。さらにコンペティションはECU設定が異なり625psにアップ。 0→100km/h加速は3.2秒に達する。
それでいて、アクセルを踏むというより右足つま先の力加減を変える程度で充実したトルクが確保できる。4.4LのV型8気筒エンジンは、他メーカーに先駆けて2009年にVバンク内側にターボチャージャーを配置するいわゆるホットインサンド方式を採用。しかも、2基のターボチャージャーはそれぞれ2系統のタービン入口を備え、各バンクから交互に排気エネルギーが導かれるクロス ・ バンク ・ フローを実現している。

インパネ回りのデザインとレイアウトは基本的にクーペ/グランクーペともに共通。新システムとして、センターコンソールに「M MODE」ボタンが追加されている。ドライバーアシストやコネクティビティなども最新デバイスを装備する。
この独自配置はBMWが特許を持つため、他メーカーではVバンク内側にターボチャージャーを配置する効果を最大限に活用できない。この効果は絶大であり、エンジン回転数が低く排気エネルギーが小さい領域でも高効率な過給が可能となり、力強さの圧倒的な余裕が確かめられる。
エンジンの制御をスポーツプラスにすると、応答性が鋭すぎてアクセル操作に対してトルクがカタマリになって飛び出してくるほどだ。路面の荒れでもアクセル操作に影響が及んでトルク変動が発生し、ギクシャクすることになりかねない。そのため、スポーツプラスはサーキット専用の制御モードと考えた方がいい。
エンジンサウンドの演出はBMWが得意とするところ
ジェントルな走りでは物足りないと感じたら、エンジン制御をスポーツにすればいい。過剰にならない範囲でアクセル操作に対する応答性が速やかになり、中回転域にかけてトルクが盛り上がる。最大トルクの750Nmを発揮するのは1800rpmからだが、体感的にはそのあたりから加速が勢いづいてくるのだ。
Mスポーツ・エキゾースト・システムのバルブ制御も連携し、サウンドの輪郭がクッキリしてくる。だが、爆発力の大きさを印象づける鼓動を刻むもののボリュームが増すわけではない。さらに、アクセルを踏み続けると鼓動の密度が増し連続音となる。こうしたドラマチックともいえるサウンドの演出は、Mモデルに限らずBMWが得意とするところだ。
そして、カァーンという感じの高周波サウンドを響かせながらレブリミットの7200rpmに到達。7000rpmでパワーは頭打ちになるが、加速の勢いは持続したままなのでエンジンの吹け上がりにタコメーターの針が追いついていないのかもしれない。
こうしたエンジン特性は、体感としても伝わってくる。コーナーの立ち上がりでアクセルを踏み込むと、とくにクーペの場合は腰のすぐ後に後輪があるだけに体ごと前に押し出されるようなトラクションを実感しやすい。M8は、前後トルク配分を連続可変制御するMxドライブを組み合わせる。十分なトラクションが得られる場面ではフロントへのトルク配分は最小限となるので、4WDでもFR感覚の走りが楽しめる。
まさにエキサイティング、コーナーでMの本領を発揮
ダンパーの減衰力を連続可変制御するアダプティブMサスペンションは、コンフォートにしたままでもアクセルを踏み込むと同時にリアが沈むといったボディのムダな動きが抑えられている。ホイールベースがクーペよりも200mm長いグランクーペは、よりフラットな姿勢が保たれる。
ただ、ホイールベースの長さはステアリング操作に対する応答性に影響する。クーペは、コーナー進入時にステアリングを切り始めた瞬間から思わず“ウオッ?”と声を発してしまうほど長いノーズがクイッと向きを変える。そのまま切り込んでもダイレクトな反応を示し、グイグイと曲がっていく。まさに、ハンドリングはエキサイティングなのだ。
グランクーペは、クイッという切れ味が実感できるもののグイグイ曲がるようなダイレクト感は期待できない。だが、それも挙動を言葉で表現した場合の微妙な差であり応答性にもの足りなさを感じることはない。むしろ、前後重量配分ではグランクーペの方が1ポイント違いながら好バランスなのでコーナリング中に4輪が路面をガッシリつかむ実感があり、スタビリティの高さにも結びつく。

8シリーズ同様、ルーフはエアロダイナミクスと軽量化に貢献するカーボン強化プラスチック(CFRP)を採用。試乗車のフロントとリアのエアインテーク、エアブリーザーのサイドギルなどはオプションのカーボン製となる。
路面をガッシリつかむといっても、乗り心地までゴツく感じることはない。サスペンションはスムーズに動き、制御がコンフォートならしなやかささえ実感できる。クーペは、制御をスポーツにすると路面によっては目に見えないような荒れの影響でヒョコヒョコとボディがわずかに縦揺れすることもあるが、グランクーペならそれも気にならず落ち着いた乗り味となる。それは、後席でも同じだ。
だが、路面のザラつきをタイヤが拾うと、グランクーペの後席ではゴーッではなくボーッという感に聞こえる低周波ロードノイズが耳に届くことがある。それでも、ボリュームは抑制され響くこともないので不快感とは無縁でいられる。クーペは、キャビンの空間がグランクーペよりも狭いだけに前席でもロードノイズが少しばかり響きやすいが、ジェントルな一面を損なわずに済む程度だ。
M8はジェントルな一面を備えるため、クーペはエレガンスが際立つスペシャルティカーとして、グランクーペはフル4シーターカーなのでラグジュアリーサルーンとして乗りこなせる。それでも、エキサイティングな本質は隠しようがない。場面を問わず、積極的な走りに誘いかけてくる。オーナーになるなら、ときに誘惑から逃れる自制心も必要になりそうだ。
【Specification】BMW M8クーペ・コンペティション
■車両本体価格(税込)=24,440,000円
■全長×全幅×全高=4870×1905×1360mm
■ホイールベース=2825mm
■トレッド=前1625、後1630mm
■車両重量=1910kg
■エンジン型式/種類=S63B44B/V8DOHC32V+ツインターボ
■内径×行程=89.0×88.3mm
■総排気量=4394cc
■圧縮比=10.0
■最高出力=625ps(460kW)/6000rpm
■最大トルク=750Nm(76.5kg-m)/1800-5860rpm
■燃料タンク容量=68L(プレミアム)
■トランスミッション形式=8速AT
■サスペンション形式= 前Wウイッシュボーン/コイル、後マルチリンク/コイル
■ブレーキ=前後Vディスク
■タイヤ(ホイール)=前275/35ZR20(9.5J)、後285/35ZR20(10.5J)
【Specification】BMW M8グランクーペ・コンペティション
■車両本体価格(税込)=24,080,000円
■全長×全幅×全高=5105×1945×1420mm
■ホイールベース=3025mm
■トレッド=前1625、後1660mm
■車両重量=2000kg
■エンジン型式/種類=S63B44B/V8DOHC32V+ツインターボ
■内径×行程=89.0×88.3mm
■総排気=4394cc
■圧縮比=10.0
■最高出力=625ps(460kW)/6000rpm
■最大トルク=750Nm(76.5kg-m)/1800-5860rpm
■燃料タンク容量=68L(プレミアム)
■燃費(WLTC)=8.8km/L
■トランスミッション形式=8速AT
■サスペンション形=前Wウイッシュボーン/コイル、後マルチリンク/コイル
■ブレーキ=前後Vディスク
■タイヤ(ホイール)=前 275/35ZR20(9.5J)、後285/35ZR20(10.5J)
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