BMWデザインの未来を担う統括責任者、アンダース・ワーミングが語る造形哲学
2026年4月23日、新しいBMW 7シリーズが全世界同時に発表されたのは既報のとおり。ここでは、東京でのワールドプレミアの場にドイツ本社から駆けつけた、開発部門でデザインチームを率いるアンダース・ワーミング氏に、新型7シリーズに採用された新たなデザインのポイント、そしてノイエ・クラッセと呼ぶテクノロジーのもと、今後BMWデザインはどこを目指し、どう向かっていくのかについて聞いてみた。
【画像29枚】伝統素材と最新デジタル技術の融合。クリスタルヘッドライトや至高のインテリア空間をギャラリーで見る
「スポーティすぎないジェントルさ」新型7シリーズが表現するラグジュアリー
デンマーク出身のアンダース・ワーミング氏は、イタリアやスイス、アメリカでカーデザインを学んだ後、1997年にBMWに入社。初めて自らが手掛けたプロダクトは初代Z4で、そう話しながら筆者のメモ用紙をサッと取り上げ、フリーハンドでZ4のデザインスケッチを描いてみせた。
その後はアドバンスドデザインや3、5、7シリーズのエクステリアデザインなどに携わった後、2011年にMINIのチーフデザイナーに就任。約6年後に独立してデザイン会社を経営した後、ロールス・ロイスのデザイナーとしてBMWに復帰。約2年前から現職に就き、BMWデザイン全体の舵取り役として辣腕を奮っている。
――まずは、新型7シリーズのデザインについてお聞かせください。今回のリデザインは、これまでのBMWデザインの集大成、ファイナルと受け取ればいいのでしょうか。あるいは「ノイエ・クラッセ」の序章、プロローグというメッセージなのでしょうか。
「新しい7シリーズのデザインは、BMWにとって新しいステートメントです。ノイエ・クラッセのテクノロジーをラグジュアリーの世界に取り入れたものになります。7シリーズはビジネスカーでもありますが、エレガンスやノーブルさが必要であり、スポーティすぎないジェントルなポジショニングが求められます。スポーティというのはM2やM3などMモデルの役割ですからね」
「つまり、ノイエ・クラッセのテクノロジーを初めてフラッグシップに取り入れたというのが、今回のデザインなのです。たとえば、キドニーグリルは従来の左右をワンフレームに収めた形状から、よりクリアでバーティカル(垂直的)なアピアランスとしています。ラグジュアリーやエレガンスを表現しなければならない7シリーズにとって、これはとても重要なことです」
――今回の新しいデザインで、一番お気に入りのポイントはどこですか。
「クリスタルを散りばめたフロントのヘッドライトですね。リアのコンビネーションランプもディテールにこだわり、細くシャープなデザインとして車両がよりワイドに見えるようにしています。インテリアでいうと、パノラミックビジョンは完全に新しいダッシュボードです。モデルサイクル半ばのアップデートにおいて、これほどの時間と労力、そして資金を投資したのはBMWとしても初めてのことです」
デジタル技術と伝統素材の共存。ハイエンドカーのインテリアに求められる要件
――そのインテリアですが、フロントにはインタラクションバーやパノラミックビジョンを新たに搭載し、リアにはシアタースクリーンも用意しています。そうした高度なデジタルテクノロジーと、カシミヤやクリスタルといった伝統的な高級マテリアルをひとつの空間で融合するにあたり、もっとも配慮した点は何でしょうか。
「まずはドライビング・エクスペリエンスから考え始めました。ドライバーがステアリングに手を置き、前方に視線を向ける。そこがスタート地点ですので、まずダッシュボードのレイアウトを最適化しました。これまで手元にあったディスプレイを、少し上部のパノラミックビジョンへと移したのです。ディスプレイが近すぎると、路面から画面に視線を切り替える際に目の負担になりますが、パノラミックビジョンのように遠くへ配置することで、目の焦点が合わせやすくなります。視線移動が少なくなり目にも優しいので、ドライビング・エクスペリエンスを高めると同時に、安全性も向上するわけです」
「また今回、初めてパッセンジャー・ディスプレイも搭載しました。助手席の人はフルディスプレイでNetflixなどを楽しめますが、ドライバーからは画面が見えないようになっています。助手席の人はお気に入りの映画を楽しめ、ドライバーはより運転に集中できます。マテリアルの融合については、レザーやカシミヤウール、アルカンターラ、カーボンファイバー、シルバーといった上質で伝統的な素材はすべて残しつつ、最新のテクノロジーを自然に共存させています。クラシックとモダンをどう融合させるか。これこそが、いまハイエンドカーのインテリアに求められる要件だと思います」
クルマをオーダーする瞬間から笑顔に。「カスタマージャーニー」の本質とは
――今回、ボディカラーにツートーンの選択肢が増えています。これは、やはりパーソナライズを重視するカスタマーからのニーズに応えたということでしょうか。
「その通りです。以前よりもさらにパーソナライズが求められるようになってきたのに応じて、ラグジュアリーな選択肢を大きく広げています。もちろんツートーンカラーの塗装をするのには時間がかかりますので、カスタマーには少しお待ちいただくことになります。しかし、ご自身の希望にぴったりのクルマを作り上げるために待つという時間も、カスタマージャーニーの一部として楽しんでいただきたいのです」
「もちろん、『いますぐに欲しい』という方にはブラック、ホワイト、シルバーといったスタンダードなカラーや素材をご用意していますが、『自分だけの特別なクルマに仕立てたい』という方には、まさにここ(FREUDE by BMWの商談ルーム)で、ご満足いただけるまでミーティングをします。世界に1台しかない、ユニークなクルマを確実にお届けするために」
――ワーミングさんがお気に入りのツートーンカラーはどの組み合わせですか。
「7シリーズであれば、ブルーとシルバーの組み合わせがとてもユニークでおススメですね。(その後、筆者や編集部メンバーとツートーン談義が展開)では、私のおススメも合わせてこれで4台のオーダーが入りましたね!(笑)。いま、笑い合いながら議論しましたよね。美しいクルマをオーダーするときには、まさにこんな風に笑顔で楽しい気持ちになっていただきたいのです。それこそがカスタマージャーニーです。7シリーズをオーダーするということは、おそらく人生の中で最も高価な買い物のひとつになるはずで、だからこそパーソナライズする過程自体を楽しんでいただきたいのです」
すべてのモデルに異なるキャラクターを。BMWが追求する「個々のアイデンティティ」
――アドバンスドデザインの責任者でもいらっしゃるということで、今後のBMWデザインについてもお伺いしたいと思います。この7シリーズもそうですが、今後はノイエ・クラッセの考え方でデザインされた新型モデルがどんどん市場投入されてくると思います。では、たとえばセダンやSUVなど、カテゴリーやモデルによってノイエ・クラッセの表現の仕方は変わってくるのでしょうか。
「はい、モデルごとに変わります。まずは、ノイエ・クラッセの考え方のもと、iX3と7シリーズが登場し、今後数年にわたり続々と新しいモデルを生み出していきます。ノイエ・クラッセの最新テクノロジー、ユースケース、そしてカスタマーエクスペリエンスをベースに、それらを融合させて未来のクルマを創り出していくのです」
――カテゴリーでいうと、たとえばセダンの場合、ミッドサイズの3シリーズからラージサイズの7シリーズまで同一線上にあるデザインとなっていくのか、それともモデルごとに異なる、独自性のあるデザインを採用していくのでしょうか。
「面白い質問ですね。BMWをデザインする上で重要なのは、それぞれに“異なるキャラクター”を持たせることです。ですから、3シリーズは7シリーズとは異なりますし、X1もX7とは異なります。フロントエンドのデザインも、まったく同じというモデルはありません。それぞれの個性にもっとも適したキドニーグリルを与えます」
「7シリーズに求められているのは“威厳”や“代表性”です。それは、たとえばロングフードと大きなキャビンで表現されます。これによりオーソリティ(権威)を感じさせる、重厚な雰囲気を醸し出します。一方、他のモデルでは真逆になる可能性もあります。ウェッジが効いていて、矢のように速そうなデザインにするなどですね。同じブランド、同じ時代に出てくるモデルであっても、キャラクターによって表現はまったく変わってくるのです」
本質的でないものは徹底的に排除する。ノイエ・クラッセが導くデザインの未来
――最後に、あらためての質問になりますが、ノイエ・クラッセのデザインの方向性として、何かひとつの共通言語、キーワードのようなものはあるのでしょうか。
「私たちは、それを“インテリジェント・リダクション”と呼んでいます。不必要なもの、表面的で過剰なものをすべて削ぎ落としていくというアプローチです。私たちは、よりエッセンシャル(本質的)でピュア(純粋)なデザインを目指しています。何が本質なのか。そのクルマには何が必要なのか。そこを正しく見極めれば、本質的ではないものは必要なくなりますからね」
「その考え方は、今回の7シリーズにも表れています。ボディのキャラクターラインを少なくする一方で、力強いキドニーグリル、美しいヘッドライト、シンプルなボディサイド、そして精緻で洗練されたテールライトを与えました。本質的でないものは徹底的に削ぎ落とし、残すべきものはより一層研ぎ澄ませ、ハイクオリティかつパーフェクトなデザインに仕上がったと自負しています」



































