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「VW TSIユニット」 直噴ツインチャージャーが導いた新しいパワーユニットの時代【VW GOLF FAN Vol.11】

※この記事は2007年3月に発売された「VW GOLF FAN Vol.11」から転載されたものです。

ROAD IMPRESSION
もう排気量でクルマを語る時代は終わった
ハイパフォーマンスとエコ&クリーンは両立する!!

ゴルフのダイナミックレンジに、新星GT TSIが加わった。R32を長兄とすれば、GTIは次兄、そしてこのGT TSIは末弟ということになる。ただし、この末弟はそのパワーユニットが兄弟とはまったく異なる重要な意味合いを持つ。今後のフォルクスワーゲンの屋台骨となるはずの、ツインチャージャー・エンジンを搭載するのだ!

GT TSIの、その注目のパワーユニットは、排気量わずか1.4Lの直列4気筒に、スーパーチャージャーとターボチャージャーを装着したものだ。では、この新型エンジンはどんな回り方をして、ゴルフにどんなパフォーマンスをもたらしているのだろうか。

シンプルだが十分にスポーティ

近未来に、フォルクスワーゲン(VW)のガソリン系の基幹ユニットになるとされるTSI。その新しいエンジンを搭載したクルマが日本上陸を果たした。その名はゴルフGT TSI。きわめて魅力的なゴルフである。
GTという名がつくものの、これまでのGLiと同じエンジンを搭載するGTの後継車というわけではない。ご存知のように、従来のGTは日本市場向けに特別に作られたものであり、ヨーロッパでは存在しなかったモデル。日本側のマーケティングで生まれたスポーツ仕様だった。

このGT TSIは、ヨーロッパではゴルフのダイナミックレンジの末弟として、同じく170psを実現したTDI搭載車と同時に発表されている。スーパーチャージャーとターボチャージャーを組み合わせ、1.4Lがら2L以上の動力性能を実現、一方で優れた燃費性能も獲得しているということで、話題を呼んだものだ。それが日本に導入されたのである。

新デザインのエンジンカバーが与えられたTSIユニット。1.4Lという小排気量ながら、最高出力170ps/6000rpm、最大トルク24.5kg-m/1500~4750rpmという2.3~2.4 並みのスペックを発揮。低回転域から太いトルクを出し、高回転域での伸びもよい。

R32を頂点とするダイナミックレンジの一員であることは、そのエクステリアデザインでも表現されている。フロントは、GTI同様にバンパー下端からスタートするラインがそのままボンネットに至る、逆台形デザイン。グリルはハニカムではないが、R32と同じスリットを持つ2バーをブラックアウトしたものだ。GTIのように、赤いラインを持つわけではなく、R32のように周囲がアルミパネルになるというわけではないが、GLiやEとは明らかに違う顔が与えられている。R32やGTIには装備されるサイドシルのパネルは省かれているものの、十分スポーティな外観だ。

その優れた燃費の実現には、DSGも大いに貢献している模様。スーパーチャージャーとターボチャージャーが装着されるにもかかわらず、GLiFSIユニットとほぼ同重量とされる。

インテリアは、残念ながら、GTIベースの装備省略版ではない。どちらかといえば、GLi寄りだ。そのフロントシートは、GTIのようにサポート性を重視してハッキリとサイドの張り出しを強くしたものではなく、GTXのものと同形状(サイドの張り出しはGLiのものより強い)のスポーツシート。使う表皮は一般的なファブリックとなっている。

基本的にはこれまでのゴルフとなんら変わらない運転席回り。しかし、ステアリングはグリップ部がレザーとなって、下部にはダイナミックレンジの証ともいうべきプレートがつく。オーバーデコレートではなく、好印象。

ステアリングホイールはグリップ部がレザーとなる真円の3本スポークタイプで、R32やGTIのように下部がフラットになっているわけではない。ただし、スポークの下端にはダイナミックレンジの証となるプレートが巻かれる。ここでも、一応それなりの差はつけている。

通常、水温計が入る部位に、過給エンジンであることを示すブースト計がつく。このブースト計、常に動いていて、常にブーストがかかっていることを示す。

こうしてその成り立ちを見ていくと、突出しているように思えるのがタイヤ&ホイール。GTI同様、17インチを装着するのだ。サスペンションは、基本的なセッティングは以前の日本側のマーケティングで生まれたGTと変わらないとのことで、車高がGLiと比較して20mmのローダウンとなるスポーツサスペンション。17インチのタイヤ&ホイールとの組み合わせで、どんなハンドリングをもたらすのかが興味深かったわけだが、これが結構いいのである。

コンソールの、シフトレバーの奥には、DSGをウィンターモードにするスイッチがつく。

実に不思議な加速感

注目のツインチャージャー・ユニットがもたらす走りは、排気量がたかだか1.4Lの直列4気筒とはとても思えないものだ。スペック自体、最高出力170ps/6000rpm、最大トルク24.5kg-m/1500〜4750rpmというもので、1.4Lのものではない。そのふるまいも、過給器を装着していることをまったく感じさせない、ごくごく自然なもの。VW自慢のDSGが組み合わされたことで、その走りにはシナジー効果のようなものが生まれている気がするぐらいだ。

顔立ちは、フロントバンパー下端からのラインがそのままボンネットに伸びる、R32やGTIと同じ造型。ただ、グリル回りに赤いラインやアルミ風のパネルは入らず、比較的シンプル。R32ではボディ同色、GTIではブラックとなるサイドシルのモールも省かれている。

発進でまどろっこしさを感じることはない。トルコン式オートマチックのようなクリープ現象のないDSGゆえに、どうしてもクラッチが繋がる瞬間のショックは感じてしまうが、エンジンが低回転域から太いトルクを出していることは確かで、そこからの加速にも不足を感じることはまったくない。そのままジワッとアクセルぺダルを踏んでいけば、オートマチックモードのDSGはそう回転を上げることなく次から次へとシフトアップを繰り返し、たちまちトップの6速に至る。そのトルクの豊かさは、街中であっても6速でのクルーズを許すから、こうした特性が燃費の向上に大きく貢献していることも間違いない。

シート関連でベースとなっているのは、コンフォート重視のGLi系だが、フロントシートのバックレスト部のサイドの張り出しはやや強くなっている。派手さがなく、存在を主張しない点がかえって好ましく映る。

フルスロットルでは、TSIならではという感覚を味わうことが
できる。そのレッドゾーンは2L FSIユニットの6500rpmにプラスすること500rpmの7000rpmからで、これはフリクションの少ない小排気量4気筒だからこそ。したがって、その回転上昇もきわめて軽やかなのだが、クルマがグイグイ前に押し出されるようなその力強さはまるでオーバー2LのNAユニットのよう。回転上昇の軽さと太いトルク感がシンクロしない、実に不思議な加速感となる。

ラゲッジスペースは、GLiと変わることなく、通常の状態で350L、バックレストを倒した状態で1305Lという容量になるのも変わらない。トランクスルー装備も変わらない。

低回転域ではスーパーチャージャー、高回転域ではターボチャージャーという組み合わせとなるTSIだが、その切り替わりがどのあたりで起こっているかは分からない。意識してそれを探ろうとしても、どこかでトルクの落ち込みや急激な盛り上がりが感じられるわけでもなく、ただただリニアな回転上昇を続けるだけだから、まったくもって分からないのだ。

マフラーのエンドを隠すGLi系とは異なり、GT TSIは走りを重視するダイナミックレンジの一員らしく、丸型2本のテールエンドをのぞかせる。

スーパーチャージャーが出しがちなシャーという音、ターボのヒューンという音も聞こえないから、そのうち、過給器付きであるということさえ忘れてしまう。要するに、オーバー2LのNA、いいかえればラクチンなエンジンという印象になってくる。

GT TSIは17インチのタイヤ&ホイールを標準装備とする。ホイールのデザインは、ボルトを隠すセンターキャップ・タイプで、7本のY字、つまり14本の細いスポークを持つエレガントかつスポーティなものだ。

ヒラリヒラリ感の面白さ

今回の試乗でなにより驚いたのは、ハンドリングと乗り心地のバランスのよさ。高次元で見事に融合しているのである。
実はリポーター、昨年3月にドイツ・ウォルフスブルグで開催された“フォルクスワーゲン・エンジン・ワークショップ”というイベントに参加し、短い時間だったが、GT TSIに試乗している。この時の印象はといえば、17インチのタイヤ&ホイールを装着するゆえのハーシュネスといったものを少なからず感じて、あまり好ましいものではなかったのだが、今回の試乗では、ほとんどそうした17インチ装着のデメリットは感じられず、それどころか予想以上にサスのセッティングがよく、17インチゆえのキビキビしたハンドリングが実現されていることを知る。

GT TSIが示すパフォーマンスのなかでも出色といえるのが、ハンドリング。アクセルオンの状態では軽いアンダーステアに終始し、コーナー途中のアクセルオフでもタックインは軽微。DSGをマニュアルモードにすれば、想像以上のスポーティな走りが楽しめる!

ワインディングで、GT TSIがみせる走りは、まさにファン・トゥ・ドライブ。コーナリングでは軽いアンダーに終始して、ステアリングを切り増していくような場合でも、あるいは突然アクセルオフしたような場合でも、ドライバーが慌ててしまうような急激な挙動変化は一切見せない。それは、GTIのサスとタイヤでやや強引に抑える感覚とはまた違って、ノーズの軽さも感じさせつつのヒラリヒラリ感の面白さ。サーキットでラップタイムを詰めるような走りをすれば、また印象が変わるかもしれないが、少なくともワインディングではGTIより楽しくコーナーを攻めていける!
VGJのスタッフによれば、この足は以前のGTと基本的に変わないとのこと。リポーターの記憶では、当初のGTはバネレートと減衰力のマッチングがもうひとつだったが、このGT TSIに装着されるのは、マイナーチェンジで劇的に改善されたという後期型(?)GTのものなのだろう。おそらく、ハンドリングと乗り心地のバランスのよさは、ゴルフ随一。乗り心地ではGLiのまろやかさに、ハンドリングではGTIの鋭さに、それぞれ負けてしまうかもしれないが、両方の融合の次元はどれよりも高いと思う。

“排気量神話”の崩壊!?

それにしても、魅力的なゴルフが登場してきたものだと思う。現実的な話をすれば、このGT TSI、排気量が1.4Lに過ぎないから、まず自動車税で少なからず経費削減ができる。その燃費のよさはランニングコストの大幅な引き下げも可能とする。クルマは間違いのないゴルフで、パドルシフト付きDSG。にもかかわらず、価格は約300万円!!

比較的シンプルな装いだが、17インチのタイヤ&ホイールを奢るなど、走りのための装備は充実しているGT TSI。燃費のよさも魅力だが、こうしたスタンス、佇まいを好まれる方も多いのでは。玄人好みの内容といえるかもしれない。

TSIの出現は、排気量でクルマをランク付けするという従来の考え方の終焉を、根強く残る、大きいほど偉いという“排気量神話”の壊を意味する。これは結構革命的なことではないだろうか。
また、ハイパフォーマンスとエコ&クリーンは両立しないという定説も、見事に打ち破る。わずか1.4Lでパワーは170ps、しかも燃費は14.0km/L(10・15モード走行 国土交通省審査値)。これは夢物語ではない、いまここにある事実なのだ。

TSI TECHNOLOGY
世界初の直噴+ターボ+スーパーチャージャー

世界初となるFSI(直噴)エンジンにターボとスーパーチャージャーを組み合わせたTSIユニット。そのテクノロジーの要となるのはやはり、ターボとスーパーチャージャーの協調制御にある。

ノッキングが起きにくいという点で、ベースとなったFSI(直噴)の意味は大きい。マルチホール高圧インジェクター採用や燃料の最大噴射圧を150バールに高めるなど、TSI化に向け、FSIユニット自体もさまざまな改良を受けている。

CO2の排出量を減らし、なおかつ燃費にも優れたユニットを考えたとき、もっとも確実な方法がダウンサイジング。つまり排気量を小さくすること。

ルーツ式スーパーチャージャーはエンジンブロックの腹部に抱え込むように、ターボチャージャーはヘッドに沿うように配置。もちろん、ターボをアシストするため、SCが吸気の上流側に配置される。

だが、排気量を小さくすることは、ドライビング・プレジャー=パワー&トルクという要素と相反する。そこで小排気量化しつつ、そのパワー不足を補うためのターボをプラス。さらに小排気量ターボの弱点である低回転域をカバーするスーパーチャージャー(SC)を備えたユニットがTSI。だから、TSIはエコなスポーツ・ユニットではなく、その本質は“パワフルなエコ・ユニット”といえる。

SCは低回転域では積極的に働き、逆に高回転域ではエンジンから切り離される。その接続や切り離しの役割は、クランクシャフトとベルトで結ばれている電磁クラッチ、内部のコントロールフラップが受け持つ。

システムの原理自体はシンプル。低回転域ではSCにより過給、2400rpmからはターボが過給を受け持ちつつSCは電磁クラッチによりエンジンから切り離され、さらに3500rpmを越えるとSCは完全に停止というシステム。それだけに、システムよりもターボとSCを的確に制御するマネジメントこそが、TSIの要といえる。

図の中央やや上にあるのがコントロールフラップ。ここが閉じている間はSCはフル過給。ここを全開、もしくは部分的に開けることで流れるフレッシュエアの量を変化させ、その過給効果をコントロールできる。また、ターボチャージャーは高回転域で力を発揮するが、低回転域から常に作動状態にある。

きわめてフラットなトルクカーブを描くTSI。システムの働きを簡単に説明すれば、2400rpmまではSCを中心としたSC+ターボ、2400~3500rpmをターボを中心としたターボ+SC、3500rpm以上はターボが受け持つ。その切り換えを最適かつシームレスに制御することで、トルクに落ち込みのない特性を実現している。

SCはアイドリングにごく近い回転域ですでに1.8バールの過給圧を発生し、ターボをアシスト。そして1500rpmの段階でツインチャージャーシステムは最大過給圧となる2.5バールに達し、同時に最大トルクも発生する。また、2400~3500rpmの領域ではターボが基本的に過給するが、急加速などの際に過給をアシストするよう、SCはスタンバイ状態となっている。

【specifications】GOLF GT TSI

■全長×全幅×全高=4225×1760×1500mm
■ホイールベース=2575mm
■トレッド(前/後)=1525/1500mm
■車両重量=1410kg
■最小回転半径=5.0m
■乗車定員=5名
■エンジン型式/種類=BLG/直4DOHC+ターボ+スーパーチャージャー
■内径×行程=76.5×75.6mm
■総排気量=1389cc
■圧縮比=9.7
■最高出力=170ps(125kW)/6000rpm
■最大トルク=24.5kg-m(240Nm)/1500〜4750rpm
■燃料タンク容量=55L(プレミアム)
■10・15モード燃費=14km/L
■ミッション形式=6速DSG
■変速比=(1)3.461(2)2.150(3)1.464(4)1.078(5)1.093(6)0.921(R)3.399(F)4.117((5)(6)(R)3.043
■サスペンション形式=前ストラット&コイル、後4リンク/コイル
■ブレーキ=前Vディスク/後ディスク
■タイヤ(ホイール)=225/45R17(7J)
■東京標準現金価格=3,050,000円

リポート:小倉正樹/フォト:赤松 孝 宮門秀行
取材協力:フォルクスワーゲン・グループ・ジャパン

VW GOLF FAN Vol.11から転載

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