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いまや内燃機関のクルマであっても、電動アシストが当たり前の時代。世界的に見ても、ゼロエミッション化へのニーズは急速に高まっている。そのソリューションとして各メーカーが最も力を入れているのがBEV。ここでは最新のe-tronを軸にライバル2台の実力を検証してみる。
最新のe-tronは洗練度の高さが極立つ
2020年、アウディは日本市場にBEVのe-tronスポーツバックを投入。2021年には、そのエントリー版といえる50を追加。同時に、スポーツバックのベースとなるSUVボディを持つe-tron50も加わった。
今回試乗したe-tron Sラインは、日本市場に上陸するドイツ車では最新のBEVだ。計312psを発揮するモーターを前後に搭載し、航続距離は最大で316kmに到達。最高出力と航続距離で競いあっている欧米のBEVでは性能が控えめだが、高速化が進んでいない現状における日本の充電インフラを踏まえれば妥当な落としどころという見方もできる。

AUDI e-tron 50 QUATTRO S LINE
Specification ■全長×全幅×全高=4900×1935×1630mm■ホイールベース=2930mm■車両重量=2400kg■バッテリー種類=リチウムイオン電池■モーター最高出力=312ps(230kW)■モーター最大トルク=540Nm(55.1kg-m)■トランスミッション=1速固定式■サスペンション(F:R)=ウイッシュボーン:ウイッシュボーン■ブレーキ(F:R)=ディスク:ディスク■タイヤサイズ(F:R)=255/50R20:255/50R20■車両本体価格(税込)=11,080,000円■問い合わせ先=アウディジャパン 0120-598-10
それでも、日常的な場面では力強さの余裕が確かめられる。最大トルクを瞬時に発揮することが可能なモーターの特長を際立たせる演出をあえてせず、アクセル操作に対してスムーズに力強さが立ち上がる。その立ち上がり度合いの絶妙な設定により、むしろ走りの洗練度の高さを際立たせている。 プラットフォームは、縦置きにエンジンを積むモデルが採用するMLBエボを流用している。電動化を踏まえたプラットフォームなのでBEVにも適応。ただ、BEVはパワーユニットの静粛性が高いため他のノイズのマスキング効果がなく耳に届きやすくなることがある。だが、そうした傾向とは無縁でいられる。
実際に、ザラついた路面を通過する際に聞こえるゴーッというロードノイズは音量そのものが低く、フィルターを通しているかのようにスッキリした音質となる。ヒャーというタイヤのパターンノイズが聞こえることもあるが、室内で反響せず耳障りに感じない。

SUVボディタイプの新グレード
「e-tron 50クワトロ」は、e-tronシリーズのベースモデルで電池容量は71kWhとなる。パワートレインは前輪、後輪をそれぞれ駆動する2基の電気モーターを搭載し、新世代のクワトロともいえる電動4WDを採用する。バーチャルエクステリアミラーはオプション設定。
シャシーは、エアサスペンションが標準装備となる。Sラインは専用の「スポーツ」が設定され乗り味は引き締まっている。だが、ストロークがスムーズなので硬さを意識することがない。補修跡だらけの路面では大径タイヤによるバネ下の重さが影響しブルッという弾性を帯びた振動が残るが、その頻度はまれであり走りの上質感を損なうほどではない。
しかも、ステアリング操作に対して気持ちよく向きを変える。ステアリングの切れ味は少しだけフリクションを感じるが、手応えが軽めなので負担にはならない。前後重量配分は52:48となり、エンジンを搭載しないだけにアウディとしてはフロントの慣性力が抑えられていることも好影響をもたらしているはずだ。
リアルスポーツ的Iペイス、驚きに満ちたモデルX
イギリス車で、いち早くBEVを投入したのはジャガーだ。2018年、既存モデルのPHEV化をスキップしてゼロスタートで開発したIペイスをいきなり投入してきたのだ。
プラットフォームはBEV専用であり、ボディは94%をアルミニウム製とすることで軽量化を実現している。さらに、パッケージングの自由度が高いBEVの特長が最大限に発揮できる。ボディ全長は4695mmとコンパクトながら、ホイールベースが2990mmと極めて長いのだ。

JAGUAR I-PACE EV 400PS HSE
Specification ■全長×全幅×全高=4695×1895×1565mm■ホイールベース=2990mm■車両重量=2230kg■バッテリー種類=リチウムイオン電池■モーター最高出力=400ps(285kW)■モーター最大トルク=696Nm(70.9kg-m)■トランスミッション=1速固定式■サスペンション(F:R)=Wウイッシュボーン:インテグラルリンク■ブレーキ(F:R)=Vディスク:Vディスク■タイヤサイズ(F:R)=235/65R18:235/65R18■車両本体価格(税込)=11,830,000円■問い合わせ先=ジャガー・ランドローバー・ジャパン 0120-050-689
そのため、後席の足下スペースはDセグメントとしても広い。しかも、ホイールベースが長く全幅も1895mmと広いので床下に大容量バッテリーの搭載スペースが確保できる。その結果、航続距離は最大で438kmに到達する。
なおかつ、バッテリー搭載位置により低重心化が実現でき前後重量配分が50:50となる。つまり、走りの基本性能がポテンシャルとして生まれながらに高いわけだ。そればかりかボディ剛性はジャガーのラインナップで最も高く、体感としてもドイツ車よりもドイツ車的なガッシリ感がある。

航続距離438kmを実現
ドライブシャフトと一体化した軽量かつコンパクトな2つのモーターでフロントとリアのホイールをそれぞれ駆動させる全輪駆動システムを採用。長いホイールベースの床下には90kWhのリチウムイオンバッテリーが敷き詰められており、航続距離438kmを実現する。
したがって、リアルスポーツのようにダイレクトな操縦性が楽しめる。素早いステアリング操作に対してもズバッと向きが変わり、切り増せばその通りにグイグイ曲がる。コーナリング中のロール感はゼロレベルであり、それでいてサスペンションが突っ張っているかのような印象がない。
前後に積むモーターは、計696Nmを発揮する。そのため、アクセルを踏み込んだときは性能を持て余さないギリギリの範囲まで瞬発力を鋭くしている。最高出力は計400psに達し、パワフルな加速の伸びが持続する。走行モードがダイナミックなら、アクティブサウンドデザインによりエンジンでは実現できない未来感がある快音が重なってくる。
アメリカ車では、2010年からテスラが日本市場を開拓してきた。現在は、モデルS、X、3、Yをラインナップ。SUV的なフォルムを備えるXは、Sとともに2021年2月にアップデートを発表。ただ、まだ未上陸なので今回は現行型に試乗した。モデルXは、BEVというよりもクルマとしての驚きに満ちている。リアにファルコンウイングと呼ぶ跳ね上げ式ドアを採用し、インテリアはセンターに配置された17インチの超巨大モニターが目につく。大人が乗車可能な3列目シートも用意されている。

TESLA MODEL X LONG RANGE
Specification ■全長×全幅×全高=5036×1999×1684mm■ホイールベース=2965mm■車両重量=2533kg■バッテリー種類=リチウムイオン電池■最高出力=562ps(413kW)■最大トルク=775Nm(79.0kg-m)■サスペンション(F:R)=Wウイッシュボーン:マルチリンク■ブレーキ(F:R)=Vディスク:ディスク■タイヤサイズ(F:R)=265/45R20:275/45R20■車両本体価格(税込)=12,198,000円(参考価格)■問い合わせ先=テスラ・モーターズジャパン 0120-982-428
もちろん、BEVとしても衝撃的だ。試乗車のロングレンジは、前後に積むモーターで最大トルク計660Nmを発揮。アクセルを踏み込むと一気にフル加速体制に入り、2533kgに達する車重を力任せに押し進める。走行モードがコンフォートなら瞬発力が抑制されるが、それでも際限なく溢れ出すような力強さを実感できる。

3列シートをオプションで選択可能
ドライビングアシストの設定をはじめ、操作のほとんどは中央の17インチタッチスクリーンで行う。後方のラゲッジスペースは、6人乗りの場合なら3列シートを倒せば最大2180Lの容量を確保。後席は5人乗りが標準で、6人/7人仕様もオプションで用意される。
航続距離は、最大で507kmと長い。しかも、テスラは専用の急速充電器のスーパーチャージャーを全国26カ所に設置。最新の設備は250kWと公共設備の5倍に値する高出力なので、まさに実用性が高い急速充電が可能となる。
ジャガーは、2025年以降にBEVだけを扱うプレミアムブランドになることを発表。今後も、ドイツ車を含めBEVの新モデル投入攻勢が続く。それだけに、日本市場では大出力の公共急速充電設備の導入が急務となる。さもないと、SUVだからこそ必然となるべき現実的なロングランが不可能になってしまうからだ。