モータースポーツ

【体験リポート】トムス・フォーミュラ・カレッジでF4マシンを駆る!

レースは遠い存在だとあきらめていたアナタに朗報です。名門チームTom’s(トムス)が今年からスタートしたプログラムなら、まったくの初心者でもフォーミュラマシンを安心して体験できるのだ。さっそくモータージャーナリスト石井昌道が体験してきたので報告しよう!

ホンモノのF4マシンでレッスン

クルマ好きなら一度は乗ってみたいと思うフォーミュラカー。タイヤがむき出しで、レースに出るためだけに生まれてきたサラブレッドマシンは、どんなスポーツカーよりも刺激が強そうだ。けれども、たとえハコ車(ツーリングカー)でのサーキット経験があろうとも、そう簡単に乗りこなせそうにはない。レース用のタイヤはキチンと暖めないとあっという間にスピンしてしまうとも聞くから、コースイン・即ドンガラガッシャンともなりかねないのだ。そんな心配は無用で、安心してフォーミュラ体験できるのが、日本レース界の名門、Tom’s(トムス)が今年から始めたTom’s FORMULA COLLEGE(TFC)だ。

このTFCは、とりあえずフォーミュラカーに乗ってみたいという人から、ドライビングスキルのブラッシュアップ、本格的なレース参戦まで、様々な要望に応えられるレーシングスクールだ。初級の「エクスペリエンス・コース」は富士スピードウエイのP2やP7など広場にパイロンを立てて造ったコースで、まずはフォーミュラカーの操作をマスター。クラッシュの心配はほぼ皆無なので安心なのだ。中上級の「プラクティス・コース」はレーシングコースを使って、Tom’s系のプロドライバーにレッスンをつけてもらえる。自分とプロのドライビングをデータロガーで比較しながら練習を重ねればスキルアップの近道だ。本格派の「エキスパート・クラス」となれば、レース参戦からフォーミュラカーの所有といったあらゆるレース活動をサポートしてくれる。

今回は富士スピードウエイP7駐車場でのエクスペリエンス・コースに参加してきた。だいぶ昔になるが英国ジムラッセルでフォーミュラ・ボクスホール・ジュニアを体験したこともあるが、日本のFJに相当するウイングなしの入門フォーミュラだったし、あの頃は頻繁にサーキットを走っていたから普通に走らせることぐらいはできた。今ではだいぶ腕が錆びついちゃっているし、車両は本格的なFIA-F4。いきなり本コースは自信がないから、広場の特設コースっていうのは都合がいい。

さっそくマシンに乗り込んでみる。慎重に片足ずつコクピットに入れ、いったんシートに立ってからソロリソロリと潜り込んでいく。自分用に設えたわけではないけれど発泡ウレタン製のシートは身体にピッタリ。体型に合わせていくつか用意されているので、たいていの人が適正なドライビング・ポジションをとれるだろう。トグル型のメインスイッチをONにして、スターターボタンをプッシュすればエンジンは一発でかかる。

「Tom’s TZR42」と名付けられたこのエンジンは、トヨタZRをベースにした専用品。2.0リッター直4NAで160psと、それほどハイチューンではないが、イコールコンディションやコスト抑制を考慮したFIA-F4レギュレーションゆえだ。それでもアクセルをあおってみれば回転の上がり下がりが鋭くて、本格的なフォーミュラであることを実感する。

45分でお腹イッパイ!

このFIA-F4に乗ってみたいと思った理由のひとつがパドルシフトだから。モータージャーナリストの仕事をしていると、たまにレーシングカー試乗なんて機会もあるが、シーケンシャルのドグミッションだったりすると、それに慣れるまでに体験時間が終わってしまうこともある。その点、パドルシフトならDCTのスポーツカー感覚で乗れそう。発進だけはクラッチペダルを使うが、走り始めてしまえばシフトアップもシフトダウンもクラッチいらず。左足はブレーキペダルに専念することができる(右足踏み替えでもOK)。発進のクラッチ操作は、市販車のMTよりはシビアだが、慣れればそう難しくはない。最初に1回だけエンストさせておいたが、その後の3、4回の発進はなんとか上手くいった。

パイロンコースは、まずはストレートを走って折り返し、またストレートを走って折り返すオーバル風、次にスラロームを入れたコース、そしてスラロームより大きなコーナーを組み込んだコースの3種類用意され、それぞれインストラクター先導による慣熟走行がある。パドルシフトはやはりイージーで楽しい。シフトダウンも自動ブリッピングで完璧にエンジン回転数を合わせてくれるから安心だ。160psとはいえ、車両重量は600kgちょいなので加速感はスーパースポーツ並み。目線が低いから迫力ある加速が味わえる。

最初はタイヤが冷えていて、なんだかムズムズするし、スピンしかけたりするが、クラッシュの心配がないから自分なりに攻めていける。タイヤが暖まってくるとステアリングの手応えがグッと増して、本格フォーミュラらしい底知れぬ運動性能の一端を垣間見える。エクスペリエンス・コースは45分間に過ぎないが、プログラムの後半ではちょっとばかり息が上がってしまった。初心者には45分でもお腹イッパイなのだ。

さすがはレース専用車だけあって市販スポーツカーのように無駄な動きがなく、ドライビング・プレジャーは最上級。ちょっとした動きの変化やタイヤのグリップなどもダイレクトに伝わってくるので、直感的に反応できて、なんだか運転が上手くなったように感じられるほど。簡単に乗りこなせるとは思ってないが、広場で何度か練習して限界を見極めてから本コースに行けば、それなりに走れそうな気がする。

レース参戦については、ツーリングカーのワンメイクレースなんかのほうが敷居が低いイメージがあるが、それぞれのクルマ特有のウラワザ的なものがあったり、ラジアルタイヤの減り具合で速さが変わったりと意外と面倒くさい。その点、シンプルにドライビングとセッティングで勝負できそうなFIA-F4には魅力を感じる。ポルシェなどハイパフォーマンスカーのワンメイクはけっこうなコストが掛かるから、思い切ってフォーミュラに挑戦してみるのもありだ。国内FIA-F4カテゴリーはF1ドイバー角田裕毅選手の影響あって、かなりの盛況ぶり。プロドライバーの登竜門であると同時に、40歳以上のエントラントを対象にしたインディペンデントカップもあるから、ジェントルマンドライバーは自分なりの目標も持てる。そして何より、スーパーGTやF1日本グランプリのサポートレースに組み込まれているところも魅力なのだ。
広場からはじめて、限りなくステップアップできる。TFCはレースやスポーツドライビングを愛するすべての人に夢を持たせてくれるのである。

Tom’s FORMULA COLLEGE http://experience.tomsracing.co.jp

石井 昌道

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