













50周年の節目に2台のBMWアートカーが世界各都市を行脚
半世紀にわたり、アートとモビリティの融合を追求してきたBMWアートカー・コレクション。2025年はその50周年を祝い、世界を巡るワールドツアーの一環として、ふたつの象徴的な作品が北米大陸に上陸。ポップアートの巨匠アンディ・ウォーホルが手掛けた1979年の「BMW M1」と、現代アートの旗手ジュリー・メレトゥによる最新作、2024年の「BMW MハイブリッドV8」である。この展示は世界最高峰の自動車の祭典「ペブルビーチ・コンクール・デレガンス」を皮切りに、世界各都市で行われる予定だ。
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ウォーホルが28分で仕上げたといわれる伝説のM1も展示
BMWアートカーは、世界中の著名なアーティストが自動車というキャンバスに自らのビジョンを表現するためのプラットフォームとして機能してきた。今回のワールドツアーは、ウィーン、香港、上海、ドバイ、マラケシュ、ミラノなど世界各都市を巡り、その輝かしい歴史を称えるものだ。その巡回の幕開けとして選ばれたのが、北米でモントレー・カー・ウィークの中核をなすペブルビーチ・コンクール・デレガンスだ。アート愛好家とモータースポーツファンの双方が、BMWの歴史が誇るこのふたつの壮大な「走る彫刻」を間近で目撃できる、またとない機会となるだろう。
展示される2台は、それぞれの時代を象徴する傑作だ。まず、アンディ・ウォーホルの「BMW M1 グループ4」は、1979年に制作された、コレクションの4番目の作品だ。ウォーホルは、デザイン界の伝説的巨匠ジョルジェット・ジウジアーロが生み出したM1を前に、わずか28分という驚異的な速さでペイントを完成させたという逸話を持つ。制作に立ち会ったコレクションの創設者エルベ・プーランは、その様子を「生のダンスパフォーマンスのようだ」と表現した。ウォーホルの芸術的ジェスチャーが鮮やかに残るこのマシンは、芸術作品であると同時に純粋なレーシングカーでもあり、1979年のル・マン24時間レースに一度だけ参戦し、その歴史に名を刻んでいる。
対して、ジュリー・メレトゥの「BMW MハイブリッドV8」は、コレクションの20番目にして最新の作品である。エチオピア出身でニューヨークを拠点に活動するメレトゥは、社会的、政治的な大変動をテーマとする作風で知られ、現代アートシーンで最も成功したアーティストの1人だ。彼女のアートカーは2024年5月にパリのポンピドゥー・センターで初公開され、そのわずか1ヶ月後にはル・マンのサーキットを駆け抜けた。ペブルビーチでの展示は、このマシンにとって待望の北米プレミアとなる。さらにこのプロジェクトは、アフリカの映画・メディア芸術を支援する「AFMAC」との協力関係へと発展しており、単なるアート作品にとどまらない広がりを見せている。
ペブルビーチでの共演を果たした後、2台のアートカーはそれぞれ別の目的地へと向かう。メレトゥのBMW MハイブリッドV8は、9月13日にニューヨーク州ブリッジハンプトンで開催される、招待制の高級自動車イベント「ザ・ブリッジ」へと旅立つ。旧レースサーキットの歴史的な敷地で行われるこのイベントでは、アメリカ人アーティストのミカリーン・トーマスがデザインした「マクラーレン・アルトゥーラGT4」との並行展示が予定されている。トーマスの作品は、アートとモータースポーツ界における女性の功績に光を当てる「DARTカー」イニシアチブから生まれたものであり、2人の女性アーティストによる現代的な共演は大きな注目を集めるだろう。会場ではメレトゥとトーマス、そしてBMWグループの関係者らを交えたアートトークも開催され、現代アートとモータースポーツの革新的な融合について深く掘り下げる。
一方、アンディ・ウォーホルのM1は、米国の首都ワシントンD.C.へと向かい、ナショナル・モールに位置するハーシュホーン博物館・彫刻庭園で展示される。国立の近代・現代美術館という権威ある舞台で、このポップアートの傑作は再びその芸術的価値を証明することになる。奇しくも2025年は、BMWアートカー・コレクションだけでなく、BMWが米国で公式に事業を開始してからもちょうど50年の節目にあたる。今回の北米ツアーは、二重の意味で歴史的な祝祭なのである。
そもそもBMWアートカーの構想は、フランス人レーシングドライバーでありアートディーラーでもあったエルベ・プーランの発案から始まった。彼は友人の芸術家アレクサンダー・カルダーに「BMW 3.0 CSL」へのペイントを依頼し、1975年のル・マンで大きな注目を集めた。以来、ロイ・リキテンスタイン、フランク・ステラ、ジェフ・クーンズといった錚々たるアーティストたちがこの伝統を受け継いできた。アーティストの選定は世界の美術館長らで構成される独立した審査員によって行われ、制作における完全な創造的自由が保証されている。だからこそ、生み出される作品は1台として同じものはなく、それぞれがアーティストの個性を色濃く反映した唯一無二の存在となるのだ。この歴史的コレクションの旅は、これからも世界中の人々を魅了し続けるだろう。
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