価格2.5万ユーロ・発売は2026年春。“国民車”の再定義が始まる
2025年9月にミュンヘンで開催されたIAAモビリティ2025において、その名が高らかに宣言されたフォルクスワーゲンの新型BEV「ID.ポロ(ID. Polo)」。それから3ヶ月、ついにその量産仕様の詳細が明らかになった。フォルクスワーゲンは12月15日、2026年春の正式デビューを前に、ボディサイズやパワートレイン、そして2万5000ユーロ(約455万円)からという衝撃的な価格設定を含む詳細情報を公開した。電動化時代における「ベストセラーの再発明」を掲げる同車の全貌に迫る。
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コンセプト名から正規名称へ。「ID.ポロ」が担う重大な使命
9月のIAAモビリティでは、それまで「ID. 2all」などのコンセプト名で呼ばれていたモデルが、正式に「ID.ポロ」を名乗ることが発表され、大きな話題を呼んだ。それから時を経て公開された今回の情報は、量産化へ向けた最終段階の具体的なスペックである。
フォルクスワーゲン乗用車ブランドCEOのトーマス・シェーファーは、「ID.ポロはフォルクスワーゲンの新世代の始まりを告げるものであり、ついに『ふさわしい名前』を冠することになります」と述べている。

2万5000ユーロ(本稿執筆時の為替レートでで約455万円)からという戦略的な価格設定は、欧州における電動モビリティを多くの人々にとって身近なものにするための重要な布石だ。これは単なる新型車ではなく、2026年以降に投入される4つの新しい小型EVモデルの先陣を切る存在となる。
サイズは維持し、空間は拡大。EV専用設計がもたらすパッケージ革命
公開されたボディサイズは、全長4053mm×全幅1816mm×全高1530mm。ホイールベースは2600mmである。この数値は、従来のエンジン車であるポロ(MQBプラットフォーム)とほぼ同等のサイズ感だが、EV専用プラットフォームの恩恵は室内空間に劇的な変化をもたらしている。

特筆すべきはラゲッジスペースの容量だ。従来のポロが351Lであったのに対し、ID.ポロは24%増の435Lを確保している。後席を倒せば最大1243Lまで拡大し、これはワンランク上のクラスに匹敵する積載能力である。また、MEB+プラットフォームによるコンパクトな駆動モジュールの採用により、室内長は従来比で19mm拡大しており、特に後席の居住性が大幅に向上しているという。都市生活や友人・家族との日常使用において、歴代ポロの中でも最も多用途に使えるモデルに仕上がっている。
進化したMEB+プラットフォームと前輪駆動
ID.ポロの技術的なハイライトは、改良されたMEB+プラットフォームに基づく前輪駆動(FWD)レイアウトの採用である。ID.3やID.4が後輪駆動を基本としていたのに対し、小型車セグメントにおける効率とスペース効率を最大化するためにFWDが選択された。

搭載されるモーターは「APP 290」と呼ばれる最新世代の高効率ユニットだ。バッテリーは車体下部にフラットに搭載され、モジュールハウジングを廃してセルを直接パックする「セル・トゥ・パック」技術を採用したPowerCo製ユニファイドセルが導入されている。これにより、部品点数と重量を削減しながらエネルギー密度を約10%向上させ、コストダウンと航続距離の延長を同時に実現した。
用途に合わせて選べるバッテリーと出力
パワートレインのラインナップも詳細が判明した。出力は85kW(116ps)、99kW(135ps)、155kW(211ps)の3種類が当初用意される。IAAモビリティの時点で存在が明言されていた高性能版「GTI」については、166kW(226ps)の出力で2026年の後半に追加されることが改めて確認された。

バッテリーは2種類の容量が設定される。85kWおよび99kW仕様には、容量37kWh(ネット値)のLFP(リン酸鉄リチウム)バッテリーが標準装備され、最大90kWの急速充電に対応する。一方、上位の155kWおよび166kW(GTI)仕様には、容量52kWh(ネット値)のNMC(三元系)バッテリーが搭載される。こちらは最大450kmの航続距離を実現し、充電速度も最大130kWに対応するため、長距離移動のニーズにも十分応えられるスペックとなっている。
妥協なき安全装備と「ピュア・ポジティブ」デザインの融合
エントリーモデルでありながら、先進運転支援システム(ADAS)にも妥協はない。進化した「トラベルアシスト」が搭載され、高速道路での車線変更支援に加え、信号機や一時停止標識の認識機能も提供される。
本モデルの開発は、フォルクスワーゲングループの「ブランドグループ コア」内の共同プロジェクトとして進められ、セアト(SEAT)およびクプラ(CUPRA)が主導した。生産はスペインのマルトレル工場で行われる予定だ。デザインはヴォルフスブルクのデザインセンターが担当し、デザイン責任者アンドレアス・ミントによる新デザイン言語「ピュア・ポジティブ」を初めて全面的に採用したモデルとなる。

2026年春のデビューに向け、現在世界各地で最終的なテスト走行が行われているID.ポロ。50年にわたり親しまれてきた「ポロ」の名は、電動化という新たなステージにおいても、その実用性と親しみやすさで再びベンチマークとなることだろう。
【ル・ボラン編集部より】
「ID.」シリーズがこれまで定石としてきた後輪駆動を捨て、あえて前輪駆動へ回帰した点にVWの執念を見る。MEB+によるパッケージングの革新は、かつてのポロが誇った「クラスを超えた実用性」の現代的解釈に他ならない。2.5万ユーロという価格は衝撃だが、我々が真に注視すべきは、その走り味にVWらしい骨太なクルマづくりが宿っているか否かだ。12月25日に発売予定の『ル・ボラン』2026年2月号では、いち早くID.ポロの試乗レポートを掲載する。ぜひ楽しみにお待ちいただきたい。
【画像75枚】これが次世代のベンチマーク。カモフラージュの下に息づく「ID.ポロ」の凝縮感を写真で見る










































































