Amazon「Alexa+」と「パノラミックiDrive」の融合。BMW iX3が実装した、次世代UI/UXの全貌
2026年、BMWは新型EV「iX3」を皮切りに、ドライバーとクルマの関係性を再定義する新たなデジタル体験を提示する。1月5日に発表されたAmazonのAI技術「Alexa+」を基盤とする対話型音声アシスタントの進化と、フロントガラス下部に情報を投映する革新的な「パノラミックiDrive」。この「聴覚」と「視覚」の双方からのアプローチは、もはや単なる機能追加の枠を超え、クルマを「インテリジェントな相棒」へと変貌させる。CES 2026で明らかになった最新情報と、UI/UX開発責任者の言葉から、その全貌に迫る。
【画像20枚】フロントガラス全幅に広がる情報! 黒い帯からUIが浮かび上がる「iX3」のコックピット全貌
大規模言語モデル(LLM)が変える車内体験
BMWの新型iX3には自動車メーカーとして初めて、Amazonの「Alexa+」アーキテクチャをベースとした「BMWインテリジェント・パーソナル・アシスタント」が搭載される。これは大規模言語モデル(LLM)を活用した生成AIであり、従来の定型的な音声コマンド(インテント)に縛られない、人間同士のような自然な対話を可能にするものだ。
最大の特徴は、文脈を理解し、連続した質問にも柔軟に対応できる点にある。例えばドライバーが「世界で一番有名な絵画は何? それはどこにあるの?」と尋ねれば、AIは「モナリザ、ルーブル美術館」と即座に回答する。さらに「そこへ連れて行って」と続けるだけで、ナビゲーションが目的地を設定し、ルート案内を開始するのだ。車両機能の操作と一般的な知識検索を一つの文脈でシームレスに行えるため、ドライバーは複雑な操作手順を覚える必要がなくなる。

BMWのステファン・デュラッハ上級副社長が「人とクルマの対話の自然さにおいて新たな基準を打ち立てる」と語る通り、このシステムは意図を先読みし、使うほどに精度を高めていく。まずは2026年後半より、ドイツと米国のiX3ユーザーからこの恩恵を享受することになる。
ハードウェアとUIが一体化した「魔法のディスプレイ」
音声対話の進化と対をなすのが、視覚情報の革新である「BMWパノラミック・ビジョン」だ。ジャパンモビリティショー2025において『ル・ボラン』編集部がiX3のユーザーインターフェース(UI)を取材した際、パノラミックiDriveの開発担当エキスパートであるローレンツ・マケシン氏は、これを「魔法のディスプレイ」と表現していた。

BMW iX3のパノラミックiDriveの開発担当エキスパート、ローレンツ・マケシン氏。Photo: 村上アーカイブス/写真家・麻生祥代
このディスプレイの最大の特徴は、オフの状態では真っ黒で存在を感じさせないが、オンにするとフロントガラスの全幅にわたって情報が浮かび上がる点だ。マケシン氏によれば、ドライバーはディスプレイそのものを見るのではなく、1.2m前方に投映された像を見ることになるという。これにより、ドライバーは道路上の状況にフォーカスしたまま、視線を下げることなく必要な情報を確認できる。従来のメータークラスターを覗き込む動作が不要になるため、視線移動が最小限に抑えられ、安全性が飛躍的に向上する設計だ。
物理スイッチは「排除」ではなく「最適化」
デジタル化が進む中で懸念される物理スイッチの削減についても、BMWは明確な哲学を持っている。マケシン氏はインタビューの中で、物理キーを闇雲に減らすのではなく、ユーザーの実際の使用データに基づいた「ハイブリッド戦略」をとっていると明かしている。
例えば、iX3のようなEVでは始動時の「スタート&ストップボタン」は廃止され、ブレーキペダルを踏むだけでシステムが起動する。一方で、ボリューム調整やメディアコントロールといった頻繁に使用される機能については、あえて物理的な操作系を残した。これは「ユーザーがどの機能をどう使っているか」という蓄積データに基づき、最も使いやすい形を追求した結果である。

また、メーターを覗き込む必要がなくなったことで、ステアリングホイールのデザイン自由度も大幅に向上した。上部の視界を遮る必要がないため、よりユニークでアイコニックな形状が可能となり、手元のマルチファンクションコントロールで多くの操作を完結できるようになった点も大きな変化である。
SDVの完成形へ。ソフトウェアの進化がもたらす、クルマとドライバーの新しい関係性
新型iX3で提示されたのは、ソフトウェア・デファインド・ビークル(SDV)としての完成形だ。Amazon Alexa+による高度な音声対話が「何を知りたいか、どこへ行きたいか」という意図を汲み取り、パノラミックiDriveがその結果を「最も安全で見やすい場所」に提示する。このシームレスな連携こそが、BMWの目指す次世代のドライビング体験なのだろう。

2026年後半の導入に向け、BMWはこのAI技術と新しい表示システムを、順次全モデルラインナップへと拡大していく構えだ。iX3は単なる新しいEVというだけでなく、人とクルマのコミュニケーションのあり方を根本から変えるマイルストーンとなるに違いない。
【ル・ボラン編集部より】
「駆けぬける歓び」を標榜するBMWが、なぜこれほどデジタル対話に注力するのか。一見、走りの純度を薄めるガジェットに見えるかもしれない。だが、昨秋のノイエ・クラッセ技術取材でも触れた通り、この進化の真価は運転への「没入」にある。視線を路面から外さないパノラミック・ビジョンと、意図を汲むAI。これらはかつての「ドライバー・オリエンテッドなコクピット」の現代的解釈に他ならない。デジタルはあくまで黒子であり、主役は人。物理スイッチの取捨選択も含め、その哲学にブレはないようだ。
【画像20枚】フロントガラス全幅に広がる情報! 黒い帯からUIが浮かび上がる「iX3」のコックピット全貌



















