様々なものを融合する達人が手掛けた1台
BMWは、2026年3月27~29日に開催されるアート・バーゼル香港において、ロバート・ラウシェンバーグによる1986年製「BMW 635CSiアート・カー」を展示する。本展示は同アーティストの生誕100周年を記念するものであり、「BMWアート・カー・ワールド・ツアー」の一環としてアジアで初めての公開となる。
【画像7枚】名画をまとった「BMW 635CSi」の姿を見る!
ラウシェンバーグ生誕100年の記念に
ロバート・ラウシェンバーグは、自身のアート・カーに他のアーティストの作品を取り入れた初の人物である。BMWアート・カーの第6弾であった635CSiにおいて、ニューヨークのメトロポリタン美術館の収蔵品から写真を引用し、車体にシルクスクリーンでそのプリントを施したのだ。
ここで引用された作品とはすなわち、左側ボディサイドのアンジェロ・ブロンズィーノ『青年の肖像』(1530年頃)、右側ボディサイドのジャン=オーギュスト=ドミニク・アングル『灰色のオダリスク』(1824~34年頃)、ハブキャップのアンティーク皿の写真である。これらに加えて、彼自身がフロリダ州キャプティバ島で撮影した木々や沼地の写真が組み合わされており、自動車に関連する環境問題へのメッセージともなっていた。
ロバート・ラウシェンバーグについてもう少し述べておくと、1925年生まれの彼はアメリカン・ポップアートの道を切り開いた重要人物だ。絵画と彫刻の要素を融合させた「コンバイン」などの作品で、1964年のヴェネツィア・ビエンナーレにおいて国際大賞を受賞、その急進的な視覚言語は、今日でも多くのアーティストに影響を与え続けていると言ってよいだろう。
ロバート・ラウシェンバーグ財団の専務理事であるコートニー・J・マーティン氏は、今回の展示について次のように述べている。
「M+での『Robert Rauschenberg and Asia』展と同時開催されるアート・バーゼル香港2026において、ラウシェンバーグのアート・カー(1986年)がアジアでデビューを飾ることを大変嬉しく思います。ラウシェンバーグの生誕100年を祝うにあたり、このアート・カーは彼の型破りな芸術的実践を改めて思い起こさせてくれます。彼はこの作品を『運転できる美術館』と呼んでおり、彼の他の多くの作品群と同様に、芸術と生活、絵画と彫刻、芸術とテクノロジーの境界線を曖昧にしています」

パネルディスカッションではかなり深い議論も
芸術、テクノロジー、モータースポーツ、デザインを融合させたこの「走る彫刻」は、50年にわたりBMWアート・カー・コレクションの理念を体現してきた。制作者であるラウシェンバーグ自身も、1986年当時に次のように語っている。
「移動可能な美術館は良いアイデアだと思います。この車は私の夢の実現です」
3月27日午後1時45分からは、「ロバート・ラウシェンバーグとアートの速度」と題したパネルディスカッションが開催される。M+のラッセル・ストアラー氏、コートニー・J・マーティン氏、BMWグループのトーマス・ギルスト氏らが登壇し、アーティストの遺産についてキュレーターや企業など様々な視点からの議論となるだろう。
またフェアの公式開場時間中、BMWは来場者向けの専用ラウンジを開設する。ここではラウシェンバーグのアート・カーを中心に、同氏が1953年に手がけた大規模作品『Automobile Tire Print』(レプリカ)を軸とした展示が行われる予定となっている。
BMWアート・カー・ワールド・ツアーと歴史
フランス人レーシングドライバーでありアートディーラーでもあったエルヴェ・プーランと、BMWモータースポーツのトップであったヨッヘン・ニーアパッシュのビジョンから誕生したBMWアート・カー・コレクションは、BMWの文化的活動の礎となっている。BMWアート・カーの50周年を祝し、BMWアート・カー・ワールド・ツアーは、5大陸にわたる野心的なグローバル展示プログラムを展開。
このツアーは、「走る彫刻」によるユニークな移動式美術館において、芸術、テクノロジー、モータースポーツ、デザインを融合させるという、BMWの長年の文化活動への取り組みを強調するものである。
アート・バーゼル香港は、2025年から2026年にかけて開催される本ツアーにおける重要な国際的経由地のひとつだ。なお、BMWは20年以上にわたりアート・バーゼルのグローバルパートナーを務めている。また、スケジュールは現在も進化しており、2026年の大部分にわたって展開される予定である。
【ル・ボラン編集部より】
E24型635CSiは、端正な「逆スラント」のフロントマスクから流れる優美なフォルムにより、今なお「世界一美しいクーペ」の称号をほしいままにしている。ラウシェンバーグがこのクルマを「運転できる美術館」と定義した背景には、当時のBMWが備えていた機械としての誠実さと、ドライバーの感性に訴えかける色気が高次元で共存していたからに他ならない。名画をシルクスクリーンで「コンバイン」した手法は、昨今のデジタルな表現とは一線を画す、手触り感を放つ。モビリティが効率的な移動手段へと収束しがちな現代において、あえて40年前の傑作をアジアの地で再提示する意義は、自動車という文化が持つ表現の奥行きを改めて我々に問い直すことにあるのだ。
【画像7枚】名画をまとった「BMW 635CSi」の姿を見る!