コラム

なぜメルセデスの「ウッドパネル」にはアルミが挟まれているのか。美しさに隠された「ささくれ」防止の安全哲学【メルセデス安全原論 07】《LE VOLANT LAB》

1985年式500SEL/W126の日本版カタログより、内装写真。
ベラ・バレニーが1951年、「前後衝撃吸収式構造」と「頑丈なパッセンジャーセル構造」の特許を取得。写真は「ミスター・セーフティ」と呼ばれたベラ・バレニー。
ベラ・バレニーが1951年、「前後衝撃吸収式構造」と「頑丈なパッセンジャーセル構造」の特許を取得。写真は1951年にベラ・バレニーが取得した安全ボディの特許書。
1953年に世界初の衝撃吸収式構造ボディを採用した量産乗用車180を発表(セミモノコック)。
1953年に世界初の衝撃吸収式構造ボディを採用した量産乗用車180を発表(セミモノコック)。
1953年に世界初の衝撃吸収式構造ボディを採用した量産乗用車180を発表(セミモノコック)。
1959年8月に生産を開始した220Sb/W111(通称「羽根ベン」)は衝撃吸収式構造ボディを完成し(モノコック)、乗用車のボディ構造に大きな改革をもたらした。
220 Sb/W111は発売前年の1958年に実施された衝突試験で固定バリアと正面衝突! その速度は50km/hで衝撃吸収式構造の安全性を証明した。
図面解説:1959年8月に生産を開始した220Sb/W111(通称「羽根ベン」)の前後衝撃吸収式ボディ構造(フルモノコック)と頑丈な客室構造。
図面解説:1959年8月に生産を開始した220Sb/W111(通称「羽根ベン」)の前後衝撃吸収式ボディ構造(フルモノコック)と頑丈な客室構造。
図面解説:1979年9月発表のSクラス/W126の前後衝撃吸収式ボディ構造と頑丈な客室構造。
1959年、220Sb/W111は前後衝撃吸収式ボディ構造(フルモノコック)と頑丈な客室構造であると簡単に識別できる。
1959年、220/W111シリーズの2台による追突衝突テスト(ジンデルフィンゲン工場)。世界初のセーフティボディを採用し、前後は衝撃吸収式構造で客室は頑丈な構造。
1959年、220/W111シリーズの2台による追突衝突テスト(ジンデルフィンゲン工場)。
1959年、220/W111シリーズの2台による追突衝突テスト(ジンデルフィンゲン工場)。
1959年、220/W111シリーズの2台による追突衝突テスト(ジンデルフィンゲン工場)。
1959年、220/W111シリーズの2台による追突衝突テスト(ジンデルフィンゲン工場)。
220/W111シリーズが時速86km/hでバスに衝突テスト。写真は1962年にジンデルフィンゲン工場での衝突テスト。
1959年、220/W111シリーズの横転テスト(ジンデルフィンゲン工場)。
220Sb/W111は前部衝撃テスト後でもドアが開き、乗員の救出ができる事を証明。
ジンデルフィンゲン工場でのテスト終了後、ベラ・バレニーを中心にエンジニア達は入念にボディチェックをする。
室内はステアリングホイールやインストゥルメントパネル等に衝撃吸材を使用、埋め込み式ドアハンドル、脱落式ルームミラーをすでに採用。セーフティセルと呼ばれるこの安全車体構造は、乗員が乗る客室の剛性を上げ、その前後構造に衝撃吸収能力を持たせている。
室内はステアリングホイールやインストゥルメントパネル等に衝撃吸材を使用、埋め込み式ドアハンドル、脱落式ルームミラーをすでに採用。セーフティセルと呼ばれるこの安全車体構造は、乗員が乗る客室の剛性を上げ、その前後構造に衝撃吸収能力を持たせている。
室内はステアリングホイールやインストゥルメントパネル等に衝撃吸材を使用、埋め込み式ドアハンドル、脱落式ルームミラーをすでに採用。セーフティセルと呼ばれるこの安全車体構造は、乗員が乗る客室の剛性を上げ、その前後構造に衝撃吸収能力を持たせている。
メルセデス・ベンツでは正面衝突の場合、ボディ先端に例えば10の衝撃エネルギーが加わったとすると、客室のフロント/Aピラーには1の衝撃エネルギーしか伝わらない構造にしている。つまり、フロント部分で9の衝撃エネルギーを吸収し、客室の乗員を守ってい
正面衝突テスト:前後は衝撃吸収式構造で客室は頑丈な構造。
正面衝突テスト:前後は衝撃吸収式構造で客室は頑丈な構造。
正面衝突テスト:前後は衝撃吸収式構造で客室は頑丈な構造。
メルセデス・ベンツは1974年の事故調査による、正面衝突の約75%がオフセット衝突であるという事実を受け、その事故形態を再現する衝突実験を開始。
メルセデス・ベンツは1974年の事故調査による、正面衝突の約75%がオフセット衝突であるという事実を受け、その事故形態を再現する衝突実験を開始。
メルセデス・ベンツは1974年の事故調査による、正面衝突の約75%がオフセット衝突であるという事実を受け、その事故形態を再現する衝突実験を開始。
1979年のSクラスから採用した三叉(さんさ)式緩衝システムは、まさにオフセット衝突実験を繰り返して開発された。
このフロント衝撃吸収能力は、主に4エリアに分散して吸収する構造になっている。例えば、2023年のSクラス/W222では【1】サイドメンバー上部、【2】クロスメンバーとサイドメンバー中間部、【3】インテグラルサポート、【4】フロントホイールとサイドスカートの4エリア。
燃料タンクは気密性/耐久性を高め、そして衝突の影響を受けにくい位置=リアシートの下に設置。写真はリア下側より見た燃料タンク全体部品で、センターの凹みにはプロペラシャフトが収まる(W211)。
燃料タンクの位置:写真はリフトアップしアンダーカバーを外した状態で、リア左側後方より撮影(左部分の燃料タンクは赤字マーク)。
側面は、フロントの衝撃吸収能力に比べて衝撃力を吸収するスペースがないので、より強度に優れる高張力鋼板を使用することで衝撃力を分散し客室を保護。このため、メルセデス・ベンツは頑強なドア、多層構造のピラー、高強度のルーフレールやサイドメンバー、高剛性のフロア構造などを開発し、側面からの衝撃にも変形しにくい客室の強さを保っている。写真図面は2013年のSクラス/W222。
側面は、フロントの衝撃吸収能力に比べて衝撃力を吸収するスペースがないので、より強度に優れる高張力鋼板を使用することで衝撃力を分散し客室を保護。このため、メルセデス・ベンツは頑強なドア、多層構造のピラー、高強度のルーフレールやサイドメンバー、高剛性のフロア構造などを開発し、側面からの衝撃にも変形しにくい客室の強さを保っている。写真図面は2013年のSクラス/W222。 サイド衝撃テスト:写真はCクラス・カブリオレ/A205。
側面は、フロントの衝撃吸収能力に比べて衝撃力を吸収するスペースがないので、より強度に優れる高張力鋼板を使用することで衝撃力を分散し客室を保護。このため、メルセデス・ベンツは頑強なドア、多層構造のピラー、高強度のルーフレールやサイドメンバー、高剛性のフロア構造などを開発し、側面からの衝撃にも変形しにくい客室の強さを保っている。写真図面は2013年のSクラス/W222。 サイド衝撃テスト:写真はCクラス・カブリオレ/A205。
サイド衝撃テスト:写真はEクラス/W124が190/W201のサイドに衝突テストした状態。
1986年SLにオートマチックロールバーを搭載することによって新しい横転安全基準を設定。車体の傾斜が一定速度以上(4G)になるとセンサーがその状況を検知し、ルーフの開閉状態に関係なくスプリングによってロールバーを押し上げ5トンの力に耐える強度で、横転保護する。
1986年SLにオートマチックロールバーを搭載することによって新しい横転安全基準を設定。車体の傾斜が一定速度以上(4G)になるとセンサーがその状況を検知し、ルーフの開閉状態に関係なくスプリングによってロールバーを押し上げ5トンの力に耐える強度で、横転保護する。写真は横転テストとテスト後に作動したオートマチックロールバー。
1986年SLにオートマチックロールバーを搭載することによって新しい横転安全基準を設定:写真はオートマチックロールバーが0.3秒で立ち上がるスロー画像。
写真は1989年のSL/R129には新開発のシートベルト一体型シートと、立ち上がったオートマチックロールバー。
写真は1995年のSL600/R129。オートマチックロールバーの拡大写真。
堅牢なAピラー構造によってもさらに横転保護を高め、その筒状構造は高荷重に耐えるように設計されており、ルーフ・ドロップテストで証明。このテストでは、軽く傾けた車体を50cmの高さから落とすことで、Aピラーの一方だけに全重量をかける。
規定で許されるAピラーの変形はごくわずかなもので、三角倒立の概念を採用した安全システム。
新時代を迎えたウッドフェイシア。裏表の木目板の中に「アルミ」を挟み、サンドウィッチの多層構造にし、衝撃を受けた時には「アルミが柔軟に変形」してくれるので安全。写真の中央の白い部分がアルミ・サンド。
筆者が解剖したアルミ・サンド。鉛筆で示した部分がアルミ・サンド。写真は1983年式380SELリアドアのアルミ・サンド。
筆者が解剖したアルミ・サンド。写真は1983年式380SELリアドアのアルミ・サンド(白い部分がアルミ・サンド)。
1985年式500SEL/W126の日本版カタログより、内装写真。

7 事故の被害を最小限に抑える受動的安全性:乗員を守る安全な設計をする内的安全性〈前編〉

高級車の象徴とも言える、美しく磨き上げられた内装のウッドパネル。しかし、メルセデス・ベンツのウッドパネルの内部には「アルミ」が挟み込まれているという事実をご存じだろうか。

事故の被害を最小限に食い止める「受動的安全性」のなかでも、万が一の際に乗員が直接障害を受けるのを予防・軽減するアプローチを「内的安全性」と呼ぶ。1951年、「ミスター・セーフティ」ことベラ・バレニーが特許を取得した「前後衝撃吸収式構造」と「頑丈なパッセンジャーセル」から始まったこの哲学は、ボディの骨格にとどまらず、乗員の目の前にあるインテリアパーツ一つひとつにまで徹底されている。

【画像50枚】Sクラスの4エリア衝撃分散、SLのロールバー、ウッドパネルの秘密。乗員を死守する「内的安全性」のディテールを見る

かつて全盛期を誇った大木からの削り出し(無垢材)のウッドパネルが、なぜアルミを挟んだ多層構造(アルミ・サンド)へと姿を変えなければならなかったのか。また、衝撃を吸収するための「柔らかいボディ(クラッシャブルボディ)」と、乗員空間を守るための「変形の少ない頑丈な客室」という相反する物理特性を、彼らはどうやって両立させているのか。

今回は、ウッドパネルに隠された特許技術の解剖写真から、オフセット衝突や横転事故に対する驚異的な生存空間の確保まで、メルセデス・ベンツが長年培ってきた「乗員を守る究極の設計」の深髄に迫る。

衝撃を吸収し、客室を守る。1951年に特許を取得した「セーフティセル」構造

「ミスター・セ-フティ」と呼ばれたメルセデス・ベンツのエンジニア、ベラ・バレニーが1951年、「前後衝撃吸収式構造」と「頑丈なパッセンジャーセル構造」の特許を取得。1953年、この世界初の衝撃吸収式構造ボディを採用した量産乗用車「180」を発表(セミモノコック)。

1953年に世界初の衝撃吸収式構造ボディを採用した量産乗用車180を発表(セミモノコック)。

1953年に世界初の衝撃吸収式構造ボディを採用した量産乗用車180を発表(セミモノコック)。

その6年後、メルセデス・ベンツは1959年8月に生産を開始した220Sb/W111(通称「羽根ベン」)で、衝撃吸収式構造ボディを完成し(モノコック)、乗用車のボディ構造に大きな改革をもたらした。しかも室内はステアリングホイールやインストゥルメント・パネル等に衝撃吸材を使用し、埋め込み式ドアハンドル、脱落式ルームミラーをすでに採用。セーフティセルと呼ばれるこの安全車体構造は、乗員が乗る客室の剛性を上げ、その前後構造に衝撃吸収能力を持たせている。

メルセデス・ベンツでは正面衝突の場合、ボディ先端に例えば10の衝撃エネルギーが加わったとすると、客室のフロント/Aピラーには1の衝撃エネルギーしか伝わらない構造にしている。つまり、フロント部分で9の衝撃エネルギーを吸収し、客室の乗員を守っている。

衝撃と圧迫から人体を保護する、クラッシャブルボディと高剛性キャビンの両立

人体が損傷を受ける原因には、衝撃によるものと圧迫によるものがある。前者は非常に短い時間であり、後者は時間をかけてゆっくりと大きく変形するような衝撃となる。短時間に加わる大きな衝撃は、脳挫傷や骨の破壊が考えられ、ゆっくりとした大きな変形では圧迫が問題となり、内臓や下肢が大きく損傷を受ける。大きな衝撃を和らげるには、ボディの衝撃吸収特性が重要になってくる。

1959年、220/W111シリーズの2台による追突衝突テスト(ジンデルフィンゲン工場)。世界初のセーフティボディを採用し、前後は衝撃吸収式構造で客室は頑丈な構造。

1959年、220/W111シリーズの2台による追突衝突テスト(ジンデルフィンゲン工場)。

このため、物理的に柔らかいボディが必要となる。このボディを、エネルギーを吸収できるボディとして「クラッシャブルボディ」と呼んでいる。一方、ゆったりとした大きな変形による圧迫に対しては、客室の生存空間を保たなければならない。このため、物理的に変形の少ない頑丈な客室が必要である。つまり、この相反する物理特性を両立させるには、クルマの前部・後部は柔らかく、客室は頑丈にするというコンセプトが必要になっている。

オフセット衝突に対応する、現代のメルセデスが備える4エリア分散吸収構造

メルセデス・ベンツは1974年の事故調査による、正面衝突の約75%がオフセット衝突であるという事実を受け、その事故形態を再現する衝突実験を開始した。そして1979年のSクラスから採用した三叉(さんさ)式緩衝システムは、まさにオフセット衝突実験を繰り返して開発された。

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フォト=メルセデス・ベンツAG、妻谷コレクション

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