































第8回 事故の被害を最小限に抑える受動的安全性:乗員を守る安全な設計をする内的安全性〈後編〉
「メルセデス・ベンツ安全原論」は、同社の揺るぎない安全哲学と具体的なテクノロジーを紐解く連載企画である。第8回となる今回は、万一の事故時に乗員の被害を最小限に食い止める「内的安全性(受動的安全性)」の後編をお届けする。
たとえ過酷な衝突事故に巻き込まれたとしても、確実に命を守り抜く。その実現のためにメルセデス・ベンツは、自車の乗員だけでなく相手車両のダメージをも軽減する「コンパティビリティ」の思想や、未曾有の検証となった電気自動車(BEV)同士の公開衝突テストなど、独自の安全設計を実用化してきた。そして、「身長1.5mの女性ダミー」が物語る、あらゆる体格の人間を守るための解剖学への執念──。自動車安全のパイオニアが長年の研究の末に到達した、究極の安全の全貌に迫る。
【画像32枚】自車だけでなく「相手も守る」。メルセデス・ベンツが誇る最先端の衝突テストと強固なボディ構造を見る
自車だけでなく相手も守る。共生・相互安全を掲げる「コンパティビリティ」の哲学
メルセデス・ベンツのコンパティビリティとは、共生・相互安全性の意味であり、受動的安全性のなかでも「内的安全性」を指す。つまり、衝突時に自車だけでなく、相手車両や歩行者、自転車などへの影響を考慮し、双方の安全性を可能な限り確保しようという安全哲学の一環である。
メルセデス・ベンツがこのコンパティビリティの哲学を世界で初めて市販車に本格的に導入したのが、1995年に発表したEクラス/W210。自車の衝撃吸収能力を高めつつ、その余裕を相手側にも活かすという考え方が具体化された。
具体的には、エンジンやステアリング機構、フロントサスペンションなどの主要部品を「インテグラルサポート」と呼ばれる独立構造に収め、車体に取り付ける方式を採用。これにより衝突時のエネルギー分散を最適化し、双方の損傷を抑える設計が実現した。現在ではこの考え方は全モデルに反映されており、メルセデス・ベンツの車体前後が相手車両の衝撃エネルギーを吸収することで、特に小型車の乗員に及ぶ危険を軽減するよう設計されている。
メルセデス・ベンツの全モデルの客室は極めて頑丈に設計されているが、自車の保護と相手車両の保護を両立させるために、具体的には次の項目が考慮されている。
【1】大型車・小型車のクラッシャブルゾーンが適切に噛み合う構造とし、乗り上げや潜り込みを防止。
【2】大型車は衝撃吸収距離を確保するため長いクラッシャブルゾーンを採用。
【3】小型車は剛性を高め、大型車側の吸収能力を有効活用できる設計。
世界初、BEV同士のオフセット衝突テスト。高電圧バッテリーを守る「8段階の安全コンセプト」
メルセデス・ベンツは2016年のフランクフルト・モーターショーで、BEVを「EQ」と命名して登場させた。この電動化ブランド「EQ」は、電動モビリティの知能化を意味する「Electric Intelligence」の略称。電気自動車においても、メルセデス・ベンツは安全性のパイオニアである。
2023年10月、メルセデス・ベンツは2台のBEVのフロントオフセット衝突を公に実施した世界初の自動車メーカーとなった。テストはジンデルフィンゲンのメルセデス・テクノロジーセンター(MTC)で行われ、EQAとEQS SUVが実際の事故条件を想定し、50%重なった状態で、それぞれが時速56km/hで正面衝突テストを実施。
結果として両車の客室と高電圧バッテリーは無傷で、ドアが開き、高電圧システムが自動的にシャットダウンされるなど高い安全性が確認された。これにより、緊急時には、乗員が自分で車両から脱出でき、また救助隊員が乗員を車両から救助することが可能になる。
メルセデス・ベンツは新しい「Defining Electric Safety」キャンペーンを通じて、全電動モデルの安全機能に焦点を当て、BEVの感電や高エネルギーの短絡のリスクを防止するため、多段高電圧(HV)安全コンセプトを開発した。このシステムには、バッテリーと60Vを超える電圧の全てのコンポーネントの安全性を確保するため8段階の重要な安全コンセプトがある。
例として、正極と負極の独立した配線や重大な衝突が発生した場合、自動的にスイッチがオフになる自己監視高電圧システムがある。また、設計者は全てのHVエレメントを車両の衝突防止領域に配置し、車両のフロアにあるバッテリーを保護する。

EQSのインテグラルセーフティコンポーネント:ボディシェルの各種材料はさまざまな色で示され、アルミニウム押出材のドアシル構造など、車両の衝撃吸収分散ゾーンを形成。車内は、シートベルトやエアバッグなどの各拘束システムが分かる。運転支援システムや受動的安全性システム作動に関する情報を提供するセンサーは黄色で明示。
特にEQSのドアシルには、大型のアルミニウム押出材が使用されており、安定したバッテリーケースと他の対策の組み合わせにより、高電圧バッテリーの事故安全性が高くなっている。EQSのセーフティボディの材質構造は、アルミニウム、鋳造アルミニウム、高張力鋼、超張力鋼である。加えて、アルミニウムを多く含む素材をインテリジェントに組み合わせて、高強度の鋼から作られた補強材は、高い安全要件を達成するために使用されている。EQSのサイドドアのアルミニウムシートの下には、アルミニウム押出材があり、側面衝突が発生した場合にボディ構造に力を分散させる。
なぜ「小柄な女性」のダミーを使うのか。実際の解剖学データに基づく徹底した保護性能
この際に、EQAとEQS SUVはそれぞれ2体の大人用ダミー(合計3人の女性と1人男性)を乗せてテスト。ダミーごとに最大150の測定ポイントを分析すると、重傷や致命傷のリスクが低いことが判明した。
これはクラッシャブルゾーンと高度な拘束システムが、深刻度の高い衝突時に乗員を極めて安全に保護していることを証明している。つまり、高電圧システムの自動シャットダウン、エアバッグやベルトフォースリミッター付きベルトテンショナーなど、全ての安全装置が機能したということである。
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