コラム

「キャデラックチームはまだ子供です」──F1新参戦、巨大プロジェクトが鈴鹿で味わった洗礼と秘めたる可能性

キャデラックF1チーム
GM グローバル・モータースポーツ・コンペティション バイスプレジデント エリック・ウォーレン氏
GM グローバル・モータースポーツ・コンペティション バイスプレジデント エリック・ウォーレン氏(中央)
キャデラックF1チーム:バルテリ・ボッタス
キャデラックF1チーム:バルテリ・ボッタス
キャデラックF1チーム:セルジオ・“チェコ”・ペレス
キャデラックF1チーム:セルジオ・“チェコ”・ペレス

F1という巨大な壁に挑む、新参キャデラックのリアルな現在地

2026年、FIAから11番目のチームとして承認を受け、F1への初参戦を果たしたキャデラック。バルテリ・ボッタスやセルジオ・ペレスというベテランを擁しつつも、F1という過酷な舞台ではまだ産声を上げたばかりの「ビギナー」である。第3戦・日本GPの舞台裏に潜入し、チームのリアルな姿を取材。GM首脳エリック・ウォーレン氏の言葉から、完全ワークス化を見据えた彼らの“今”と“これから”を紐解く。

【画像35枚】パドックの裏側やピットでの緊迫したやり取り。鈴鹿を駆けるキャデラックF1の雄姿を写真で見る

「承認から387日目」の鈴鹿。新参チームが踏み出した歴史的第一歩

F1の日本GP決勝の朝、キャデラックチームの広報担当は「我々が正式にF1への参戦が認められてから、今日で387日目を迎えました。わずか1年ちょっとで鈴鹿の舞台に立てることは本当に感無量です」と語った。

“キャデラック・フォーミュラワン・チーム”は昨年、FIAに11番目のチームとして承認され、2026年の今年から参戦している“ビギナー”である。2028年まではフェラーリからパワーユニットの供給を受けるが、2029年からは自社製のパワーユニットを使用することが承認への条件のひとつともされていた。

物事にはたいていの場合「初めて」という入口があって、それは当たり前だけどたった1度しかない。今回、“初めてのF1”に挑むキャデラックチームを取材する機会を与えてもらったことは、だから自分にとってとても貴重なことでもあったのだ。

マシン以外の闘い。巨大プロジェクトを支える現場のリアルな混乱

F1に参戦するということは、実際にマシンを走らせるために集まったスタッフだけでなく、その周辺をオーガナイズするために多くの人員が投入される。承認から約1年という短い準備期間の中で、キャデラックはドライバーやエンジニアなどに経験者を積極的に登用してきたが、それまではF1なんて見たこともなかったという超初心者のスタッフも少なくない。

実はF1は、重要な社交の場でもある。スポンサーなどのVIPをサーキットへ招いてもてなすというのも、チームとしての大事な仕事のひとつでもある。彼らが招かれるのが“パドッククラブ”と呼ばれるチーム専用のラウンジで、招待客はここで飲食を楽しみながらレースを観戦することができるのだ。初参戦以来、第3戦目となった鈴鹿のパドッククラブでも、まだ多少のドタバタ劇があったりなんかして、でもそれはそれでなんとも微笑ましかった。

ベテランコンビからのシビアな指摘。ピットで繰り返される地道な解析

キャデラックチームのドライバーは、グランプリ通算10勝を誇るバルテリ・ボッタスと、6度のグランプリ優勝を成し遂げたセルジオ・“チェコ”・ペレスのふたり。彼らの通算500回以上にわたる出走回数と100回を超える表彰台獲得という経験は、出来たばかりのチームにとってはとても頼りになるし、レーシングエンジニアの多くもF1での豊富な経験を有している。だからといってすぐにいい結果が出せるというものではないところが、F1の難しさでもあるのだ。いまはとにかく、マシンとチームを着実に仕上げていく段階にある。

ドライバーとピットでの無線によるやりとりを特別に聞かせてもらった。ドライバーからは例えば「トラクションがかかりづらいコーナーがある」「加速時に思うように速度が上がらない」などの問題点が指摘され、ピットはさらに具体的な状況をテレメタリーのデータと照らし合わせ解析、改善策を探るという作業を練習走行から予選まで、幾度となく繰り返し行っていた。こうした地道な積み重ねが、チームとしての経験が少ないキャデラックには必須なのである。

テクノロジーとラグジュアリーの融合。GM首脳が明かす参戦の真意

鈴鹿には、これが初来日というGMのグローバル・モータースポーツ・コンペティションのバイスプレジデントであるエリック・ウォーレン氏の姿もあったので、インタビューを試みた。

「なぜキャデラックがF1なのか、なぜこのタイミングなのかというのは、もっとも多く聞かれる質問のひとつです。さまざまな状況やタイミングがうまく重なったからというのがその答えになるでしょう」

「キャデラックというブランドは、グローバルな展開を本格的に始めています。F1は、アメリカで最近急速に注目を集めるようになりましたし、それこそF1は1年をかけて世界中を回ります。また、若い人たちにも大変人気のあるモータースポーツです。キャデラックはテクノロジーとラグジュアリーの両方を併せ持つプロダクトが特徴で、これはある意味F1の世界とも共通項があると考えています」

2029年の自社製PU導入へ。市販車へと繋がるエンジニアリングの資産

「我々は、TWGモータースポーツとパートナーシップを結ぶことでF1へ参戦できるという機会にも恵まれ、自社製のパワーユニットを2029年から導入するということでそれが叶いました。パワーユニット開発は大変なことではありますが、専用の部署と施設を設けることで現在進行中ですし、こうした経験はキャデラックにとって将来的にエンジニアリングの資産にもなると確信しています」

「パワーユニットが完成すれば完全なワークスチームとして参戦できることにもなります。これは、GMの今後のモータースポーツ活動全体にも大きな刺激を与えることになるでしょう。もちろん、モータースポーツで培った経験や技術を量産車へフィードバックすることも積極的に行っていく予定です」

一番端のピットから中央へ。大きな可能性を秘めた“ビギナー”が歩む未来

「キャデラックチームはまだ子供です。でも、子供はたくさんのことをどんどん吸収していく力がありますし、大きな可能性も秘めています。我々は確実にステップアップしていきますので、これからのキャデラックチームにご期待ください」

モータースポーツは結果がすべてだとも言われるけれど、すべての常勝チームにもすぐには結果が出せない“ビギナー”だった時代がある。この過程で焦らず、いかに丁寧に着実にチーム力を育んでいけるかどうかで、その先のポジションは大きく左右される。チームがまさに一丸となって真摯に向き合い、初めてのF1を戦っているキャデラックのピットは、まだ一番端っこだ。でもいずれ、その位置が限りなく中央に近くなる日が来るような気がした。

【画像35枚】パドックの裏側やピットでの緊迫したやり取り。鈴鹿を駆けるキャデラックF1の雄姿を写真で見る

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