コラム

なぜ優雅な大型クーペが過酷なラリーを制したのか? 隠れた名車メルセデス・ベンツSLC(C107)の真実【メルセデス名車列伝】《LE VOLANT LAB》

1979年12月9日~14日、コートジボワールで開催されたバンダマラリーで疾走するメルセデス・ベンツ450SLC 5.0/C107。
1970年代のメルセデス・ベンツが考えた理想のグランドツアラー:メルセデス・ベンツ350SLC/C107(1972年~1981年)。
街中のファミリードライブにも適したメルセデス・ベンツ350SLC/C107(1972年~1981年)。
街中のファミリードライブにも適したメルセデス・ベンツ350SLC/C107(1972年~1981年)。
1978年にマイナーチェンジしたメルセデス・ベンツ380SLC/C107(1978年~1981年)。
メルセデス・ベンツ350SLC/C107:1971年10月7日~17日に開催されたパリ・モーターショーで発表された。写真はそのメルセデス・ベンツスタンド。
シュツットガルト本社の90度バンクを滑走するSL/R107(上)と停止したSLC/C107(下)。
メルセデス・ベンツ280SLC/C107(1974年~1980年)の3カット(フロント、サイド、リア)。
1978年にマイナーチェンジした380SLC/C107(1978年~1981年)は、低回転から厚いトルクを発生するV8エンジンを搭載し、高速道路を静かに、そして余裕をもって巡航するために調律されていた。
米国仕様のメルセデス・ベンツ450SLC/C107(1978年モデル)。
1979年12月9日~14日、コートジボワールで開催されたバンダマラリーで疾走するメルセデス・ベンツ450SLC 5.0/C107。
1980年、コートジボワールで開催されたバンダマラリーで500SLCが1位と2位を独占。
メルセデス・ベンツ450SLC AMG:1980年、クレメンス・シッケンタンツとヨルグ・デンツェル組がこの車両でニュルブルクリンクの「ノルドシュライフェ」コースで開催されたツーリングカーグランプリで優勝。
筆者が製作したSLCの日本仕様カタログ。写真は日本仕様450SLC/C107と450SL/R107のページ。
筆者が製作したSLCの日本仕様カタログ。写真は日本仕様Sクラス/W116、450SL/R107&450SLC/C107のページ。
1979年12月9日~14日、コートジボワールで開催されたバンダマラリーで疾走するメルセデス・ベンツ450SLC 5.0/C107。

Sクラスの快適性とSLの美学を融合した珠玉のクーペ

1971年にデビューしたメルセデス・ベンツSLC(C107)は、名車SLの美しさとSクラスに匹敵する快適性を融合させた、理想のラグジュアリークーペである。しかし、この優雅なグランドツアラーには「過酷な耐久ラリーを制覇した」という、もうひとつの驚くべき顔があった。なぜ大型クーペのSLCがモータースポーツの舞台に選ばれ、勝利を掴むことができたのか。知られざる名車の真実と歴史の系譜を紐解いていく。

【画像15枚】Sクラスの優雅さとラリーを制覇した強靭なボディ。知られざる名車「メルセデス・ベンツSLC」の姿を振り返る

SLの陰で輝く「もうひとつの107

クラシック・メルセデスを語る際、「107」と聞けば多くの人はオープンモデルのSL/R107を思い浮かべるであろう。しかし、その陰で独自の存在感を放ち続けてきたモデルがある。それが1971年に発表されたメルセデス・ベンツSLC/C107である。特筆すべきは1971年10月、優雅な作品が数多く展示される人気舞台のパリ・モーターショーで、メルセデス・ベンツがこのSLCクーペを発表したことだ。

メルセデス・ベンツ350SLC/C107:1971年10月7日~17日に開催されたパリ・モーターショーで発表された。写真はそのメルセデス・ベンツスタンド。

1971年パリ・モーターショーのメルセデス・ベンツスタンド。

今日ではSL/R107が世界的な人気を誇る一方、SLC/C107は知る人ぞ知る存在となっている。しかし歴史を振り返れば、このクーペは単なるSLの派生車ではなかった。むしろSLCは、1970年代のメルセデス・ベンツが考えた理想のグランドツアラーであり、後のSECやCLへと続くラグジュアリークーペの礎を築いた重要なモデルなのである。

異例のスピード開発! 新型SLベースの高級クーペ誕生

1960年代後半、メルセデス・ベンツは大きな転換期を迎えていた。優雅なW111クーペとカブリオレは成熟期に入り、同時に「パゴダ」の愛称で親しまれたSL/W113の後継開発も進行していた。

シュツットガルト本社の90度バンクを滑走するSL/R107(上)と停止したSLC/C107(下)。

シュツットガルト本社の90度バンクを滑走するSL/R107(上)と停止したSLC/C107(下)。

当初、メルセデス・ベンツ社内では次世代クーペをどの車種のプラットフォームで開発するかが議論されていた。新世代SクラスとなるW116を待つ案もあったが、それでは市場投入が大幅に遅れてしまう。そこで採られたのが、新型SLとして開発中だったR107をベースに高級クーペを誕生させるという現実的な選択だった。結果としてこの判断は成功だった。1971年10月のパリ・モーターショーで発表されたSLCは、新型SLの登場からわずか6カ月後という異例のスピードで市場に投入されたのである。

360mmが生んだ、新しいグランドツアラー

SLC最大の特徴は、その独特な生い立ちにある。フロント部分はSLと共通ながら、ホイールベースは360mm延長された。これにより本格的な4座レイアウトが実現し、長距離移動を快適にこなすグランドツアラーへと進化したのである。

ロングノーズ、水平基調のルーフライン、優雅に傾斜するリアウインドウ。その姿はスポーツカーと高級サルーンの中間に位置する独特な存在感を放っていた。またBピラーを持たないサイドビューは、当時のメルセデス・ベンツ大型クーペに共通する伝統的な美しさを継承している。現代の視点で見ると派手さはない。しかし細部を観察すると、そのプロポーションにはドイツ工業デザインならではの合理性と品格が宿っている。

メルセデス・ベンツ280SLC/C107(1974年~1980年)の3カット(フロント、サイド、リア)。

メルセデス・ベンツ280SLC/C107の三面図。

ロングドアとホイールアーチの間の隙間が狭く、リアサイドウインドウを格納するスペースはほとんどない。そのためサイドウインドウは2分割され、クォーター・ピラーにはルーバーが設けられた。このお洒落なルーバーは外からではわからないが、内側から斜め後方をよく見通すことができ、室内からの視界は向上した。

最先端技術を凝縮した、安全性への徹底したこだわり

1970年代初頭は、自動車の安全性が飛躍的に進歩した時代だった。特に北米市場では衝突安全規制が年々厳格化され、自動車メーカーには新たな対応が求められていた。SLCはその最前線に立っていた。強化されたAピラー、衝撃吸収構造を備えた4本スポークのステアリングホイール、計算されたクラッシャブルゾーン、そしてリアアクスル前方に配置された燃料タンク。これらは今日の安全設計では常識となっているが、当時としては最先端技術だった。

メルセデス・ベンツは「高級車とは速いだけではなく、乗員を守るものでなければならない」という理念をSLCにも徹底していた。

高性能クーペ文化の起点。V8がもたらした真の余裕

デビュー時の350SLCには3.5L V8エンジンが搭載された。最高出力200psという数値は現在では特別なものではないが、その魅力は数値では測れない。低回転から厚いトルクを発生するV8は、高速道路を静かに、そして余裕をもって巡航するために調律されていた。

1978年にマイナーチェンジした380SLC/C107(1978年~1981年)は、低回転から厚いトルクを発生するV8エンジンを搭載し、高速道路を静かに、そして余裕をもって巡航するために調律されていた。

1978年にマイナーチェンジした380SLC/C107(1978年~1981年)はV8エンジンを搭載。

続いて、450SLC、280SLCが登場し、モデルレンジは充実していく。そして1977年にはシリーズ最高峰となる450SLC 5.0(240ps)が追加された。外観は控えめなフロントスポイラーと黒のプラスチック製リアスポイラーを装備し、アルミ製ボンネットやトランクリッドを採用したこのモデルは、高性能GTとしての性格を一段と強めた。後の500SECやAMGモデルに繋がるメルセデス・ベンツの高性能クーペ文化は、この450SLC 5.0から始まったと言っても過言ではないだろう。

なぜSLCはラリーを走ったのか

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AUTHOR

1949年生まれで幼少の頃から車に興味を持ち、40年間に亘りヤナセで販売促進・営業管理・教育訓練に従事。特にメルセデス・ベンツ輸入販売促進企画やセールスの経験を生かし、メーカーに基づいた日本版のカタログや販売教育資料等を制作。またメルセデス・ベンツの安全性を解説する独自の講演会も実施。趣味はクラシックカー、プラモデル、ドイツ語翻訳。現在は大阪日独協会会員。

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