コラム

自動車税「13年問題」のジレンマ。旧車は環境破壊の象徴か、それとも循環型社会の優等生か【木下隆之コラム】

旧車オーナーを悩ませる「13年問題」の正体

クルマ好きが集まる私の周りでは、「13年問題」が深刻な話題として取り上げられることが多い。特に旧車を大切に所有している仲間は、頭を悩ませているのである。
「13年問題」とは、新車登録から13年が経過したガソリン車やLPガス車などを対象に、自動車税と自動車重量税の税負担が約15〜20%ほど引き上げられる(重課される)仕組みのことだ。自動車税(種別割)はグリーン化特例により、ガソリン車とLPガス車は13年超で約15%増額である。軽自動車はさらに約20%増額だというから腰を抜かしかける。
自動車重量税は車検の際、13年経過および18年経過のタイミングで段階的に税額が引き上げられる。電気自動車(EV)やハイブリッド車(HV)などは13年目の重課対象外なのだが、ディーゼル車はさらに早い11年目から重課というからどこか腑に落ちない。

【画像6枚】長く愛されるには理由がある。自動車税「13年問題」に直面するSL500とコルベットの姿をギャラリーで見る

SL500とC4コルベット、のしかかる税金のリアル

先日、友人の相談を受け、自動車税の納付書を前に、思わず電卓を叩いてみた。彼は2002年式のメルセデス・ベンツSL500と、1987年式のシボレーC4コルベットを所有している。あまりにも税金が重くのしかかるから、計算次第では愛車を売却しようというのである。SL500は排気量5L。13年超の重課税が適用されるため、自動車税は年間約10万円になる。

一方のC4コルベットは5.7L V8エンジンを搭載している。こちらも重課税の対象で、自動車税は年間約10万円である。仮に彼が年間1万km走ると仮定しよう。燃費はどちらも6km/L程度とする。すると年間のガソリン消費量は約1660Lに達する。現在のガソリン税負担を計算すると、およそ9万円だ。
つまりSL500は自動車税とガソリン税だけで年間19万円前後。C4コルベットもほぼ同額である。2台合わせると年間38万円。もちろん重量税や消費税、自賠責保険まで含めれば負担額はさらに増える。

長生きは罪? クルマにだけ課せられる不思議なペナルティ

税金そのものに文句を言うつもりはない。道路を維持し、社会を運営するためには負担が必要だということは理解している。だが、どうしても引っかかるのは、「古いから高い」という考え方である。SL500は24歳。C4コルベットに至っては39歳である。
人間ならどうだろう。24歳は社会に飛び出したばかりの若者だ。39歳なら脂が乗り切った働き盛りである。俳優なら円熟味が出始める頃だろうし、作家なら代表作を書き上げてもおかしくない年齢だ。ところがクルマになると話が違う。年齢を重ねただけで増税される。まるで長生きしたことそのものが罪であるかのようだ。どうも釈然としないのである。少々ムキになってしまっているのは、月日を重ねると煙たがられるクルマを、人間に置き換えてしまったからなのかもしれない。
考えてみれば不思議な話である。古い冷蔵庫を修理しながら使い続けても課税されない。祖父の腕時計を大切に受け継いでも増税されない。むしろ物を大切にしたことが褒められる。築50年の家に住んでいるからといって税率が上がるわけでもない。それなのに、クルマだけは、長く使うことが、なぜかペナルティになるのである。
これには何か、グレーな事情があるとしか考えられないのだ。

「新車=エコ」は本当か? 世界情勢と資源から考える環境負荷

おそらく制度の理屈は理解できる。古いクルマは燃費性能や排出ガス性能で最新モデルに劣る。だから買い替えを促し、環境負荷を減らしたい。その考え方自体は理解できる。だが、その理屈は本当に現代に合っているのだろうか。私は最近、その疑問を強く抱いている。理由は世界情勢である。
ロシアによるウクライナ侵攻以降、エネルギー価格は大きく変動してきた。さらに中東では緊張が高まり、原油供給への不安が繰り返し語られている。自動車産業は、その影響を真正面から受ける。クルマは鉄とアルミだけでできているわけではない。バンパーや内装、配線被覆などに使われる樹脂部品の原料はナフサである。ナフサは原油から精製される。
中東で戦火が上がれば原油価格が上昇する。するとナフサ価格も高騰する。樹脂部品の価格が上がり、新車価格にも跳ね返る。近年の新車価格上昇の背景には、そうした事情もある。
さらにEV化によって、リチウム、ニッケル、コバルト、レアアースといった希少鉱物の重要性が増している。これらの資源は無限ではない。採掘には大量のエネルギーが必要であり、世界中を輸送するためにも多くの燃料を消費する。つまり新車を1台生産するということは、想像以上に大きな資源とエネルギーを投入することなのである。

旧車は環境破壊の象徴か、循環型社会の優等生か

一方で、2002年式のSL500も1987年式のC4コルベットも、すでに存在している。鉄もアルミも樹脂も、何十年も前に生産されたものだ。いまオーナーがやっていることは、それらを捨てずに使い続けているだけである。
もちろん燃費は最新のハイブリッド車には敵わない。だが、新たな資源を採掘する必要もなければ、新車製造時に発生する膨大な環境負荷も発生しない。見方を変えれば、これは極めて環境的な行為とも言える。私はドイツへ行くたびに感じる。街角では40年前のポルシェやメルセデスが当たり前のように走っている。オーナーたちはそれを単なる中古車とは考えていない。文化であり、歴史であり、誇りなのである。
これからの時代、資源はますます貴重になるだろう。中東の戦火はナフサ価格を揺さぶり、希少鉱物の争奪戦はさらに激しくなる。新車価格は今後も上昇していくかもしれない。
そんな時代だからこそ必要なのは、「古いから捨てる」という発想ではなく、「使えるものを長く使う」という知恵ではないだろうか。私は税金の納付書を見るたびに思う。24歳のSL500と39歳のC4コルベットは、本当に環境破壊の象徴なのだろうか。それとも、限りある資源を大切に使い続ける循環型社会の優等生なのだろうか。
少なくとも私には、後者の姿のほうが、ずっと未来的に見える。

【画像6枚】長く愛されるには理由がある。自動車税「13年問題」に直面するSL500とコルベットの姿をギャラリーで見る

photo=木下隆之/T.Kinoshita

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