













ポルシェの栄光の原点と、それを支え続ける「カスタマーレーシング」の哲学
ポルシェはモータースポーツ活動75周年を迎えた。ル・マン24時間レースをはじめとする数々の伝説的な勝利を重ねてきたポルシェだが、その輝かしい歴史の原点には、常に「カスタマーレーシング」の存在がある。1951年の初勝利から現在に至るまで、顧客とともにレースを楽しむ文化はどのように育まれ、ブランドの根幹を成すまでに成長したのか。75年にわたるモータースポーツの歩みと、独自のステップアップシステムについて紐解く。
【画像14枚】ル・マン初優勝の「356 SL」から最新「963」まで!ポルシェ・モータースポーツ75年の栄光を写真で振り返る
全ては1951年のル・マンから始まった
ポルシェとモータースポーツの歴史を振り返る時、どのレースをハイライトとして挙げるべきか悩む人は多いだろう。ル・マン、タルガ・フローリオ、カレラ・パナメリカーナ、そしてニュルブルクリンクなど、ポルシェの名と密接に結びついた象徴的な舞台は数え切れない。また、ステアリングを握った伝説的なドライバーや、550スパイダーから最新の963に至る名車の数々も枚挙にいとまがない。75年の歩みは、ひとつの記事で語り尽くせるものではない。
しかし、その壮大な歴史の出発点は明確である。1951年、ポルシェは初めてサルト・サーキットを舞台とするル・マン24時間レースに挑戦した。オーギュスト・ヴイエとエドモン・ムーシュが駆る356 SLは見事にクラス優勝を果たし、これがポルシェ・モータースポーツ誕生の瞬間として歴史に刻まれた。この最初の成功が礎となり、現在に続くスプリントレースから耐久レース、ラリーに至るまで、世界に類を見ない魅力的なモータースポーツの世界が築き上げられていったのである。
ブランドの根幹を支えるカスタマーレーシング
ポルシェ・モータースポーツの責任者であるトーマス・ラウデンバッハが語るように、モータースポーツはポルシェのブランドアイデンティティの中核であり、未来の技術を磨くための開発プラットフォームである。パイオニア精神や勇気、スポーツマンシップを体現するその活動において、創業初期から変わらず重要な役割を担ってきたのが顧客の存在だ。顧客自身がレースに参戦する「カスタマーレーシング」と、それを支えるカスタマーチームこそが、ポルシェのレース活動における最大の基盤となっている。
モータースポーツ・セールス・ディレクターのマイケル・ドライザーによれば、この流れを決定づけたのは1960年代における911の登場であった。911をベースにしたカップカーは爆発的な人気を呼び、現在までに5000台以上が生産されるなど、世界で最も多く作られたレーシングカーのひとつに数えられている。純粋にサーキットでのドライビングを楽しみたい層から、本格的にプロを目指す層まで、ポルシェはあらゆる顧客の夢や目標に応える環境を提供し続けているのだ。
誰もが頂点を目指せるピラミッド型のステップアップ
ポルシェのモータースポーツの世界は、ドライバーが経験を積みながらステップアップできるピラミッドシステムによって構成されているのが大きな特徴である。その入り口となるのが、世界各地に展開するポルシェ・エクスペリエンス・センターや、ポルシェGTサークルなどが主催する限定イベントだ。さらに本格的な走行を求める顧客には、プロのインストラクターから指導を受けられるポルシェ・トラック・エクスペリエンスが用意されており、近年設立されたレンシュポルト・アカデミーではレーシングライセンスの取得も可能となっている。
ライセンスを取得したドライバーには、公道からプロのレースへの架け橋となるブランドカップへの道が開かれる。カレラカップなどのワンメイクレースを経験したのち、カスタマーチームとしてGTスポーツの舞台で他メーカーの車両と覇を競うことも夢ではない。実際に、ニック・タンディ、マルク・リーブ、ティモ・ベルンハルトといった名ドライバーたちは、ブランドカップからキャリアをスタートさせ、最終的にル・マンの最高峰クラスで総合優勝を成し遂げている。
最新技術の実験場と受け継がれるレースのDNA
このモータースポーツピラミッドの頂点に君臨するのが、IMSAウェザーテック・スポーツカー選手権やフォーミュラEといったトップカテゴリーである。ここではポルシェのファクトリーチームが最新鋭の963レーシングカーやフォーミュラE用の新型車両975 RSEなどを投入し、明日の市販車に採用される最先端技術のテストと開発を行っている。
しかし、このようなトップカテゴリーにおいても、カスタマーチームは非常に重要な存在であり続けている。ファクトリーチームの影で独自のレースストーリーを紡ぎ出す彼らの姿は、ポルシェのモータースポーツがいかに厚い層に支えられているかを証明している。75年の節目を迎え、日本の「THE MAGARIGAWA CLUB」コースでのイベントから世界の頂点に至るまで、ポルシェのすべてはレースから生まれたという「レースボーン」の精神は、これからも顧客とともに力強く受け継がれていくのである。
【ル・ボラン編集部より】
「日常の足として快適だが、極めて速い」という相反する要素を当たり前のように共存させるのがポルシェというブランドだ。現代の911カレラにおいても、気負わず毎日乗れる柔軟性と、サーキットで剥き出しになるリアルスポーツの真価が高い次元で両立している。75年を支えるカスタマーレーシングの哲学も、まさにこの「公道とサーキットの境界線の融解」にある。356から最新の963に至るまで、顧客自身がレースを戦い、日常へと帰る物語性。モータースポーツの熱狂は遠い世界のものではなく、常に顧客の掌へと直結しているのである。
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