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2026年8月、モータージャーナリストの石井昌道氏が韓国でヒョンデ「2026 CEOインベスター・デイ」を現地取材した。いま世界3位の巨大グループはEV一辺倒の戦略を脱し、航続約966kmのEREV投入や、AI、ロボティクス分野への事業拡大を急速に推し進めている。日本未導入の大型セダン「グレンジャー」の試乗で実感したクルマとしての高い完成度と、巨大な自動車事業を土台に未来のテック企業へと変貌する次世代戦略の全貌に迫る。
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ヒョンデ=EVメーカーは大きな誤解!? 収益力を武器に挑む次世代モビリティ戦略
日本では「IONIQ 5(アイオニック5)」や「KONA(コナ)」、「INSTER(インスター)」といったBEVに加え、FCEV(燃料電池車)の「NEXO(ネッソ)」も展開するヒョンデ。電動化技術に積極的なメーカーという印象が強いが、グローバルではICE(内燃エンジン車)やHEV(ハイブリッド車)も含めた幅広いラインアップを展開している。さらにプレミアムブランドのジェネシスも展開し、ヒョンデ・グループとしての販売規模は世界3位だ。
そんな巨大自動車グループが、いま事業領域をSDV(ソフトウェア・ディファインド・ビークル)、自動運転、AI、さらにはロボティクスへと急速に広げている。それを強く印象づけたのが、2026年8月下旬に韓国で開催された「2026 CEO Investor Day(インベスター・デイ)」だった。
ホセCEOは、日産で北米や中国事業を率いた経歴を持ち、2019年にヒョンデへ移籍。2025年には同社初の外国人CEOに就任した。そのホセCEOが今回、「テクノロジーとフィジカルAIの会社へと変革する」という方向性を示した。同時に「自動車事業が未来への投資を支える」とも明言している。
既存の自動車ビジネスを捨ててテック企業になるのではない。収益力の高い自動車事業をさらに強化し、そこで得た利益をSDV、自動運転、AI、ロボティクスへ振り向ける戦略なのだ。
2030年に世界シェア6%へ。巨大メーカーの強みを生かす「全方位」の電動化戦略
2030年には、2025年に410万台だったヒョンデ単体の世界販売を555万台へ引き上げ、世界シェア6%を目指す。さらに電動車(xEV)比率を23%から60%へ高め、営業利益率9%超を狙う。ただし、電動化戦略はBEV一本足ではない。ICE、HEV、BEV、FCEVに加え、新たに重要な役割を担うのがEREV(エクステンデッド・レンジEV)である。
EREVは基本的にモーターで走り、エンジンを発電に活用して航続距離を延ばす。仕組みはシリーズハイブリッドに近いが、外部充電可能な比較的大容量のバッテリーを搭載し、まずBEVとして走ることを前提としているのが特徴だ。普段は充電した電力で走り、バッテリー残量が少なくなればエンジンと発電機によって電力を補う。いわばBEVに長距離走行のための発電システムを加えた考え方である。
ヒョンデは2027年上期からEREVをグローバル投入する予定で、「SANTA FE EREV(サンタフェEREV)」では600マイル(約966km)超の航続距離を想定。BEVの半分未満のバッテリー容量でもBEV相当の出力とEVらしい走行感覚を狙うという。BEVへの移行速度が地域によって異なる現在、ICEからFCEVまで多様な選択肢を持つこと自体が、巨大グローバルメーカーの強みになる。
大画面や音声操作は序章にすぎない。ヒョンデが狙う「データ・フライホイール」の真価
もうひとつ、今後のヒョンデを理解するうえで欠かせないのがSDVだ。従来のクルマはエンジン、ブレーキ、ステアリング、ADASなど機能ごとに多数のECUを持っていたが、SDVでは演算能力の高いコンピュータへ機能を集約し、共通のソフトウェア基盤によって車両を制御する方向へ進んでいる。ハードウェアとソフトウェアをできるだけ分離することで、購入後もOTA(Over-The-Air/無線通信によるアップデート)によって機能を追加、改善していくことが可能になる。
メルセデス・ベンツのMB.OSやBMWのノイエ・クラッセもこうした流れにあり、ヒョンデ・モーター・グループが進めるのが「Pleos(プレオス)」だ。Pleosは単なるインフォテインメント用OSではなく、車両制御用OS、インフォテインメント、クラウド、フリート管理などをつなぐエンド・ツー・エンドのソフトウェアプラットフォームである。
その中でユーザーとの接点になるのが「Pleos Connect」だ。Android Automotive OS(AAOS)をベースに、スマートフォンのようなUIやマルチウィンドウ、アプリマーケットを実現。エージェンティックAI「Gleo AI」によって、自然な音声対話でナビゲーションや車両機能なども操作できる。また「Pleos ID」により、ドライバーの設定や利用環境をクラウド上のアカウントと結びつける。
だが、SDVの本当の狙いは大画面や便利な音声操作ではない。世界を走るクルマからデータを収集し、AIを学習させ、改善した機能をOTAで車両へ戻し、そこからさらに新しいデータを得る。ヒョンデはこの循環を「データ・フライホイール」と呼ぶ。販売台数が多いほどデータが集まり、それによってAIやソフトウェアが進化し、商品の競争力をさらに高める。巨大メーカーであることがSDV時代にも武器になるという考え方だ。
人型ロボットがクルマを造る未来。ボストン・ダイナミクスと構築する「フィジカルAI」
そして今回、もっとも驚かされたのがロボティクス戦略だった。ヒョンデ・モーター・グループ傘下には、四足歩行ロボット「Spot(スポット)」、物流用ロボット「Stretch(ストレッチ)」、ヒューマノイド(人型ロボット)「Atlas(アトラス)」を開発する米国企業「ボストン・ダイナミクス」がある。
ヒョンデが描くのは、こうしたロボットを研究開発だけで終わらせず、実際の自動車工場へ投入する未来だ。アトラスのような人型ロボットなら、人間が働くことを前提につくられた工場内を移動し、腕や手を使って部品を扱い、これまで人間が行ってきた作業の一部を担うことができる。
米国には「ロボット・メタプラント・アプリケーション・センター(RMAC)」を設置し、実際の工場に近い環境でロボットに作業を学習させ、実用性を検証する。2028年からジョージア州のスマートファクトリー「HMGMA(ヒョンデ・モーター・グループ・メタプラント・アメリカ)」へ大規模導入し、2030年以降は世界の生産拠点へ展開する計画だ。さらに2028年から米国で年間3万台規模のロボット生産も開始する。
ホセCEOは、ロボットは「人間に奉仕するもの」であり、人間を置き換えることが目的ではないと説明する。重量物を扱う作業や危険な作業、単純な反復作業などをロボットに任せ、人間をより安全で付加価値の高い仕事へ移していくという。
ここでは自動車メーカーであることが、むしろ強みになる。自社工場という巨大な実証環境があり、量産技術やサプライチェーンも持つ。ボストン・ダイナミクスがロボットを開発し、ヒョンデ・モーター・グループが量産し、自社工場で鍛え、やがて外販する。フィジカルAIを研究室から産業へ移すための仕組みをグループ内に構築できるのだ。
旗艦セダン「グレンジャー」試乗で実感。ソフトウェアだけではない「クルマづくり」の確かな実力
今回の韓国取材では、日本未導入の大型セダン「GRANDEUR(グレンジャー)」にも試乗した。いまやヒョンデにはジェネシスというプレミアムブランドがあるが、グレンジャーはそれ以前から韓国を代表する上級車として歴史を重ねてきた重要なモデルだ。日本でいえば、トヨタ・クラウンのような存在と考えるとわかりやすい。
その重要性は新技術の導入にも表れている。2022年に登場した現行型は新世代インフォテインメントシステム「ccNC」をヒョンデ車として初採用。そして2026年の大幅改良では「Pleos Connect」も最初に採用した。
ドライバー正面には9.9インチのスリムディスプレイがあり、上下をフラットにしたステアリング越しにも見やすい。一方、センターには17インチの大型ディスプレイを配置する。地図だけではなく、そのとき必要になるさまざまな情報を表示するには、この大きさにも意味があると感じた。クルマで扱う情報量そのものが増えていくSDV時代らしい設計だ。
韓国ではSUVが増えた現在でもセダンの存在感が強い。背の高いクルマが多い日本とは街の風景もちょっと違い、低全高のセダンを「カッコいいクルマ」として選ぶ文化がしっかり残っているのは、クルマ好きとしてはちょっと羨ましく感じた。
グレンジャーを走らせてみると、乗り心地は快適で静粛性も高い。それでいて、ただ柔らかい大型セダンではなく、低全高、低重心という素性の良さを生かしてボディの動きは落ち着き、操作に対する応答も自然。乗員を快適に運びながら、走らせても気持ちがいい。
ジェネシスではなくヒョンデ・ブランドのモデルでありながら、動的質感はかなり高いレベルにある。先進技術だけではなく、こうしたクルマそのものをつくり込む力が、現在のヒョンデを支えていることも実感した。
クルマからAI、ロボティクスへ。2030年代に向けてヒョンデが打つ「次なる布石」
CEOインベスター・デイを取材して改めて感じたのは、現在のヒョンデ・モーター・グループを単なる自動車メーカーとして捉えると、その全体像を見誤るということだった。ICEからEREV、FCEVまでのパワートレイン、SDV、自動運転、AI、そしてボストン・ダイナミクスを核とするロボティクスが、グループの中でつながろうとしている。
もちろん、手を広げれば必ず成功するわけではない。SDVではメルセデス・ベンツやBMWといった欧州勢、テスラや中国メーカーに加え、トヨタやホンダ、日産など日本メーカーも次世代E/Eアーキテクチャやソフトウェア、自動運転の開発を加速させており、競争は激しい。自動運転もロボティクスも巨額の投資が必要で、収益事業として確立できるかはこれからだ。
それでも、ここ20年ほどの歩みを振り返ると、その躍進ぶりには驚かされる。ヒョンデ・グループの世界販売は2005年には約372万台で世界6位だったが、2015年には約802万台へと10年間で2倍以上に拡大。その後は成長が一服し、2020年にはコロナ禍の影響もあって約635万台まで落ち込んだものの、2025年には約727万台まで回復し、現在は世界3位の自動車グループというポジションを確立している。
そしてヒョンデは2030年に単体で555万台、世界シェア6%というさらなる成長を目指す。ただし、今回のCEOインベスター・デイを見ていると、目指しているのは単純に販売台数を増やすことだけではないように思える。
この20年間で築いた巨大な自動車事業を土台として、ソフトウェア、自動運転、AI、ロボティクスへと競争領域そのものを広げようとしているのだ。
年間700万台を超えるクルマから得られるデータをSDVやAIの進化に生かし、自動車工場をロボットの学習と実用化の場にもする。そして自動車事業で生み出した利益を未来への投資に回す。自動車、ソフトウェア、AI、ロボティクスがひとつの成長戦略としてつながり始めている。
自動車産業の競争領域がクルマからソフトウェアへ、さらにAIとロボティクスへ広がっていくのだとすれば、2030年代のヒョンデ・モーター・グループは、販売台数というひとつの指標を超えて、世界屈指の総合力を持つモビリティ企業になっている可能性がある。今回、韓国で見たのは、そのための布石がすでにかなり具体的に打たれている姿だった。
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【ヒョンデ6つの疑問:Why? Hyundai? 連載一覧】
・第1回:スマホで完結、サポートは万全! 新型EV「インスター」で実感するヒョンデの「4つの安心」
・第2回:名車「デロリアン」のルーツは韓国に!? 史上最速で「1億台」を達成したヒョンデの知られざる歴史
・第3回:【充填5分で1014km走破】新型FCEV「ヒョンデ NEXO」試乗記|なぜ今、あえて“水素”にこだわるのか?











