コラム

【ラディカル探訪・工場編】なぜあえてパイプフレームなのか?「SR1 XXR/SR3 XXR」に宿る“見栄えより実質”の英国流哲学

ラディカル・モータースポーツのピーターバラ本社工場

英国モータースポーツ産業の伝統が息づく、徹底した「合理主義」の製造現場

前回の試乗記に続き、今回は英ピーターバラにあるラディカル本社工場への潜入レポートをお届けする。なぜカーボン全盛の現代に、あえてパイプフレームとGFRPカウルを用いるのか。年間約100台を生み出す製造現場をつぶさに歩くと、伝統を守りつつ合理的に進化を遂げる、英国モータースポーツ産業の揺るぎない哲学が見えてきた。

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年間約100台を世界へ送り出すピーターバラの本社工場。カウルにGFRPを選ぶ理由

ラディカル・モータースポーツの本社工場は、ロンドン・ヒースロー空港からクルマで北に向かって2時間ほどのピーターバラ(Peterborough)という小さな街にある。イギリスの郊外でよく目にする、これといった特徴のない建物が並ぶ工業団地の一角でラディカルは作られているのだ。

1997年の設立からおよそ30年間で総生産台数が3000台超ということは、平均で年間100台がこの工場から世界に送り出されていることになる。つまり、3日に1台のペース。そうした計算から想像していたよりも、実際の工場はずっと広いように思えた。ひとつひとつの作業スペースがゆったりとしているうえ、複数のシャシーを並行して製作できる環境のため、生産キャパシティのわりに内部は広々としているようだ。

最初に案内されたのはボディカウルを製作する部門。工法は昔ながらのガラス繊維強化プラスチック(GFRP)で、まずはモールドに樹脂層を形成し、その上にガラス繊維を貼り付けるという作業に熟練の職人たちが取り組んでいた。カーボンコンポジットに比べれば剛性は低く、重量も増すはずだが、頑丈なフレームに被せられるだけのボディカウルに強度は不要だし、SR1 XXRの510kgという軽さを考えればこれ以上の軽量化は不要なはず。それよりもコストや補修性を優先してGFRPを選んだのだろう。見栄えよりも実質を重んじた、ラディカルらしい、そしてイギリスのレース産業界らしい選択だ。

伝統のスペースフレームに最新技術を融合。内製化と汎用品活用の妙

SR1 XXRやSR3 XXRに、こちらも昔ながらのスチールパイプ製スペースフレーム構造を用いたのも、同じ理由からだろう。カーボンモノコックのほうが剛性が高くて軽量に仕上がることはわかりきっている。しかし、ここでもコストと補修性が優先されたはず。もっとも、私が知るジュニア・フォーミュラカー(入門者向けのフォーミュラカーのこと)のスペースフレームに比べればはるかに複雑なトラス構造が採用されており、剛性面でも安全性の面でも格段に進化しているように思えた。

古い技術を現代流にモディファイして基本性能を向上させる。こうした姿勢は、先ほどの「見栄えより実質重視」とあわせて、イギリスのモータースポーツ産業界に長く受け継がれてきた伝統のようなものと私は理解している。

機械加工を専門に行う部署ではいくつものNC旋盤(データを入力すると自動的に切削加工を行う機械のこと)が置かれており、それらが休みなく働いていた。したがって削り出し加工品のほとんどは内製されているようで、サスペンションのアップライトは全数、社内で加工されているとのことだった。

もっとも、ラディカルの工場で作られているのは、そうした古い技術をベースにした部品ばかりではない。たとえば、モーターサイクル用の6段シーケンシャルギアボックスは、シフトパドルからの電気信号を受けて圧搾空気で変速するシステムだが、ここで用いられるエアポンプやエアタンクなどは汎用品などを組み合わせて社内でアセンブリーされる。つまり、古くさい技術ばかりではなく、現代的なメカニズムも器用に採り入れるのがラディカル流なのだ。

出荷前に全基をベンチテスト。ドライサンプ化される「1340」と専用設計の「1500」

エンジンのベンチテストを行う部屋もユニークだった。万一、火災が起きた場合のことを想定して、ここだけは別棟とされているのだが、この建物はコンテナ船などに積まれる20フィート・コンテナを流用。そこに二酸化炭素の消火施設を備え付けているのだが、安全性だけでなく騒音を防ぐという意味でもうまいアイデアのように思えた。

ベンチテスト室の内部も見学したが、限られたスペースに必要な機材が手際よくレイアウトされているのが印象的だった。ちなみに、SR1 XXRやSR3 XXRに搭載されるモーターサイクル用エンジンはラディカル社内でチューニングされる。これには1340と1500と呼ばれる2タイプがあり、前者はベースとなった排気量1340ccのエンジンをドライサンプ化するが、クランクシャフトやピストンなどの主要部品はベースとなったエンジンで使われているものをそのまま流用する。そして後者は、その名のとおり1500ccまで排気量が拡大されているため、クランクシャフトやピストンはラディカルで開発された専用品を組み込む。なお、1500もドライサンプ化されていることはいうまでもないだろう。

このうち1340はSR1 XXRとSR3 XXRのスタンダード仕様に、1500はSR3 XXRのワンメイクレース仕様などに搭載される。ちなみに、すべてのエンジンは出荷前にこのベンチでテストされるというから心強い。

無駄を省き、高品質なマシンを安価に供給する。ラディカルに受け継がれる英国の伝統

パーツショップの充実ぶりにも目を見張らされた。小さなネジ類からサスペンションアーム類にいたるまで、ラディカルを構成するありとあらゆる部品がたくさんの棚に整然と並べられているのだが、これは私が1990年代に訪れたローラやレイナードといったイギリスの伝統的なレーシングカー・コンストラクターでも必ず見られた光景。いや、数年前に訪れたレッドブル・レーシングのF1ファクトリーでさえ、部品管理がデジタル化されていたのを除けば、基本的な仕組みはまったく同じだった。

つまり、基本を重んじ、伝統を大切にしながら、必要に応じて近代化を図っていく。何度も繰り返すようだが、こうしたイギリス・モータースポーツ産業界の哲学がラディカルにも受け継がれているのは明らかだった。

高度に機械化したり、現代的な技術に置き換えることも不可能ではないはず。けれども、無駄を省き、過剰な投資を抑えることで、高い品質のレーシングカーを比較的安価に生産する。こうしたラディカルの思想は、イギリス・モータースポーツの伝統なくして実現できなかったことだろう。

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Photo: Andrew Coles / Radical Motorsport

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