“走る歓び”にあふれたクルマ作りを続け、今年創立100周年を迎えたマツダ。そして昨年登場したマツダ3は、世界初のガソリンエンジン技術を搭載して走りに磨きをかけ、その流麗なスタイリングも話題となっているモデル。そんな日本発の最新コンパクトカーは、ドイツの2強に太刀打ちできるのか?
渾身の先進技術を搭載したマツダ3
昨年5月から販売が開始されたマツダの「MAZDA3(以下『マツダ3』と記す)」のリリースには、“スカイアクティブ”を名乗るさまざまな語句が並んでいる。脳みそのメモリー容量が小さい自分なんかは「そもそもスカイアクティブって何だっけ?」と思ってしまったので復習した。
“スカイアクティブ”とは「エンジン、トランスミッション、ボディ、シャシーなど個々のユニットを統合的に制御してクルマ全体としての最適化を図る開発思想」である。燃費を向上させようと思っても、効率のいいエンジンを用意するだけでは不十分で、出力損失の少ないトランスミッションやトラクションロスの少ないシャシーなどがセットで揃っていないと最大の効果は得られない、という意味だと解釈している。
スカイクティブ思想のボディ/シャシー/エンジンの中で、スカイアクティブXを初めて搭載したのがマツダ3である。スカイアクティブXは2L直4エンジンとモーターを組み合わせたユニットだが、その仕組みはなかなか複雑だ。簡単に言えば、ガソリンとディーゼルのいいとこ取りをしたようなエンジンである。
そもそもディーゼルのほうが燃費がいい理由のひとつは空燃比にある。空燃比とは、シリンダー内に入る空気の重さを燃料の重さで割る数式で求められる。この数値が大きいほど少ない燃料で運転していることになる。一般的にガソリンの空燃比は13から18くらいとされるが、ディーゼルは15(高負荷時)から160(低負荷時)。高速巡航などの低負荷時には、ガソリンの15%ほどの燃料しかディーゼルは使わない。
熱効率のよさもディーゼルの特徴のひとつ。最近ではガソリンでも30%を超えるものが出てきたが、ディーゼルは40%近い。こうしたディーゼルの特性をガソリンでも実現したのがスカイアクティブXである。要するにディーゼル並みの空燃比と熱効率を達成するために、圧縮比を上げ自己着火とスパークプラグを併用した燃焼技術(SPCCI=圧縮着火燃焼技術)を採用、モーターで発進や加速時のトルク不足やレスポンスを補い、出力特性が高回転域まで線形になる制御をやっているエンジン、ということになる。
こうしたエンジンの複雑な仕事は運転中にほとんど実感できない。モニター画面でSPCCIの作動状況を確認できるが体感は伴わない。過給機のないNAらしく、ムラのない出力/トルク特性を気持ちよく感じる。スカイアクティブGのほうが、軽やかに高回転域まで回るような気がするものの、その差は乗り比べないと分からないレベルでもある。
燃費だけを見れば、17.2km/L(WLTCモード燃費)のスカイアクティブXよりも19.8km/LのスカイアクティブDのほうがよく車両価格も安いから、それでもあえてスカイアクティブXを選ぶ嬉しさが見出しにくいのは事実である。ただ、スカイアクティブXに使われている数々の先進技術は、内燃機存続の一助になる可能性を秘めたもので、続けていくことで評価が大化けするかもしれない。トヨタ・プリウスも初代は散々な言われ方をしたが、いまでは世界をリードするハイブリッドシステムになっている。スカイアクティブXにもそんなふうになって欲しいと期待している。