試乗記

【比較試乗】「メルセデス・ベンツ Aクラス vs BMW 1シリーズ vs マツダ3 ファストバック」最新テクノロジーで世界に挑む! 和製コンパクトもここまで来た!

“走る歓び”にあふれたクルマ作りを続け、今年創立100周年を迎えたマツダ。そして昨年登場したマツダ3は、世界初のガソリンエンジン技術を搭載して走りに磨きをかけ、その流麗なスタイリングも話題となっているモデル。そんな日本発の最新コンパクトカーは、ドイツの2強に太刀打ちできるのか?

渾身の先進技術を搭載したマツダ3

昨年5月から販売が開始されたマツダの「MAZDA3(以下『マツダ3』と記す)」のリリースには、“スカイアクティブ”を名乗るさまざまな語句が並んでいる。脳みそのメモリー容量が小さい自分なんかは「そもそもスカイアクティブって何だっけ?」と思ってしまったので復習した。

MAZDA3 FASTBACK X Burgundy Selection/マツダの魂動デザインを進化させた流麗なボディは、ハッチバックのほかセダンタイプも用意。

“スカイアクティブ”とは「エンジン、トランスミッション、ボディ、シャシーなど個々のユニットを統合的に制御してクルマ全体としての最適化を図る開発思想」である。燃費を向上させようと思っても、効率のいいエンジンを用意するだけでは不十分で、出力損失の少ないトランスミッションやトラクションロスの少ないシャシーなどがセットで揃っていないと最大の効果は得られない、という意味だと解釈している。

MAZDA3 FASTBACK X Burgundy Selection/試乗車の内装色は上質な雰囲気が漂う「バーガンディ」を採用。コクピット周りなど高い機能性を追求したインテリアは欧州勢に負けない質感を誇る。

スカイクティブ思想のボディ/シャシー/エンジンの中で、スカイアクティブXを初めて搭載したのがマツダ3である。スカイアクティブXは2L直4エンジンとモーターを組み合わせたユニットだが、その仕組みはなかなか複雑だ。簡単に言えば、ガソリンとディーゼルのいいとこ取りをしたようなエンジンである。

MAZDA3 FASTBACK X Burgundy Selection

そもそもディーゼルのほうが燃費がいい理由のひとつは空燃比にある。空燃比とは、シリンダー内に入る空気の重さを燃料の重さで割る数式で求められる。この数値が大きいほど少ない燃料で運転していることになる。一般的にガソリンの空燃比は13から18くらいとされるが、ディーゼルは15(高負荷時)から160(低負荷時)。高速巡航などの低負荷時には、ガソリンの15%ほどの燃料しかディーゼルは使わない。

MAZDA3 FASTBACK X Burgundy Selection

熱効率のよさもディーゼルの特徴のひとつ。最近ではガソリンでも30%を超えるものが出てきたが、ディーゼルは40%近い。こうしたディーゼルの特性をガソリンでも実現したのがスカイアクティブXである。要するにディーゼル並みの空燃比と熱効率を達成するために、圧縮比を上げ自己着火とスパークプラグを併用した燃焼技術(SPCCI=圧縮着火燃焼技術)を採用、モーターで発進や加速時のトルク不足やレスポンスを補い、出力特性が高回転域まで線形になる制御をやっているエンジン、ということになる。

MAZDA3 FASTBACK X Burgundy Selection

こうしたエンジンの複雑な仕事は運転中にほとんど実感できない。モニター画面でSPCCIの作動状況を確認できるが体感は伴わない。過給機のないNAらしく、ムラのない出力/トルク特性を気持ちよく感じる。スカイアクティブGのほうが、軽やかに高回転域まで回るような気がするものの、その差は乗り比べないと分からないレベルでもある。

MAZDA3 FASTBACK X Burgundy Selection

燃費だけを見れば、17.2km/L(WLTCモード燃費)のスカイアクティブXよりも19.8km/LのスカイアクティブDのほうがよく車両価格も安いから、それでもあえてスカイアクティブXを選ぶ嬉しさが見出しにくいのは事実である。ただ、スカイアクティブXに使われている数々の先進技術は、内燃機存続の一助になる可能性を秘めたもので、続けていくことで評価が大化けするかもしれない。トヨタ・プリウスも初代は散々な言われ方をしたが、いまでは世界をリードするハイブリッドシステムになっている。スカイアクティブXにもそんなふうになって欲しいと期待している。

ドイツの競合に対抗する走りとは?

個人的には、スカイアクティブXよりもマツダ3の操縦性に興味を抱いた。ばね上を適度にスムーズに動かして、操舵応答遅れなく旋回姿勢まで持っていく過渡領域での挙動が昔のメルセデスにちょっと似ているからだ。マツダの実験部はメルセデスのW124を試験車として購入し、徹底的な分析を行っている。

MERCEDES-BENZ A180 STYLE/ワイド&ローのアグレッシブなコンパクトボディに、新しいマルチメディアシステムのMBUXや最新の安全運転支援システムといった、メルセデス・ベンツの先進技術を注ぎ込んだスポーツコンパクト。ディーゼルエンジンやAMGモデルもラインナップ。

「その成果がようやく少し反映できたのがマツダ3です」とエンジニアが言っていたのは本当だった。メルセデスほどもっさりしておらず、でも正確で安定志向で無駄のない挙動は、ドライバーがステアリングを切る時に安心感を与える。単なる模倣ではなく、マツダ独自の味として成立させている点は好感が持てた。

MERCEDES-BENZ A180 STYLE

前回のフルモデルチェンジで飛躍的に良くなったAクラスは、操縦と動力性能のバランスもよく、装備内容などを含む商品力も高い。ただし、ご自慢の先進安全装備であるレーダーセーフティはオプションなので、これだけを付けても400万円を超えてしまう。1.3Lの5ドアハッチバックの価格としては肌感覚でちょっと高い。

MERCEDES-BENZ A180 STYLE

走る/曲がる/止まるの基本性能に関しては、期待を裏切る反応はまったくなくいい塩梅にまとめられている。日常の使用範囲内でエンジンや操縦性や乗り心地に対する不満はほとんどないだろう。誰が乗っても(価格を除けば)そこそこ満足するに違いない。

BMW 118iplay/新型1シリーズは、前輪駆動方式の採用により室内空間の居住性が大幅に向上。BMWとして日本初導入となるタイヤスリップ・コントロール・システム(ARB)を採用。またリバース・アシストを備えたパーキングアシストを標準装備する。

いっぽうで、万人から同じ評価を受けないだろうと想像できるのが118iである。後席にも大人がきちんと座れるパッケージやインテリアの質感、安全装備を標準とした良心的価格設定など、高く評価するべきポイントは多い。少し首を傾けたのは操縦性。とにかく“頭がよく入る”のだけれど、それに最後まで慣れなかった。

新型1シリーズは、前輪駆動方式の採用により室内空間の居住性が大幅に向上。BMWとして日本初導入となるタイヤスリップ・コントロール・システム(ARB)を採用。またリバース・アシストを備えたパーキングアシストを標準装備する。

ステアリングを切ると間髪入れずにノーズが動いて旋回姿勢に持ち込もうとする。特にフロントタイヤの横力の発生が速く、例えばコーナーの入口で制動してからターンインという行程で、フロントに荷重が移動してピッチ方向の動きが発生するのとほぼ同時にロールも起こる、そんな感じである。FRの操縦性のお手本のように言われてきたBMWが手掛けたFFの118iの操縦性をこのような味付けにしたというのは分からなくもないけれど、自分は不自然な感覚を抱いてしまった。

新型1シリーズは、前輪駆動方式の採用により室内空間の居住性が大幅に向上。BMWとして日本初導入となるタイヤスリップ・コントロール・システム(ARB)を採用。またリバース・アシストを備えたパーキングアシストを標準装備する。

そつのない仕上がりのAクラスと、場面によってはAクラスより昔のメルセデス風とも言えるマツダ3、そして斬新な試みの1シリーズ。何より今回感銘を受けたのは、ドイツの競合と同じ土俵に堂々と日本車が上がっているというその事実だった。

【Specification】MAZDA3 FASTBACK X Burgundy Selection
■全長×全幅×全高=4460×1795×1440mm
■ホイールベース=2725mm
■車両重量=1440kg
■エンジン種類/排気量=直4DOHC16V/1997cc
■最高出力=180ps(132kW)/6000rpm
■最大トルク=224Nm(22.8kg-m)/3000rpm
■トランスミッション=6速AT
■サスペンション(F:R)=ストラット:トーションビーム
■ブレーキ(F:R)=Vディスク:ディスク
■タイヤサイズ(F:R)=215/45R18:215/45R18
■車両本体価格(税込)=3,451,963円
お問い合わせ
マツダ 0120-386-919

【Specification】BMW 118i play
■全長×全幅×全高=4335×1800×1465mm
■ホイールベース=2670mm
■車両重量=1390kg
■エンジン種類/排気量=直3DOHC12V+ターボ/1499cc
■最高出力=140ps(103kW)/4200-6500 rpm
■ 最大トルク=220Nm(22.4kg-m)/1480-4200rpm
■トランスミッション=7速DCT
■サスペンション(F:R)=ストラット:マルチリンク
■ブレーキ(F:R)=Vディスク:ディスク
■タイヤサイズ(F:R)=205/55R16:205/55R16
■車両本体価格(税込)=3,750,000円

お問い合わせ
BMWジャパン 0120-269-437

【Specification】MERCEDES-BENZ A180 STYLE
■全長×全幅×全高=4420×1800×1420mm
■ホイールベース=2730mm
■車両重量=1360kg
■エンジン種類/排気量=直4DOHC16V+ターボ/1331cc
■最高出力=136ps(100kW)/5500rpm
■ 最大トルク=200Nm(20.4kg-m)/1460-4000rpm
■トランスミッション=7速DCT
■サスペンション(F:R)=ストラット:トーションビーム
■ブレーキ(F:R)=Vディスク:ディスク
■タイヤサイズ(F:R)=205/60R16:205/60R16
■車両本体価格(税込)=3,800,000円

お問い合わせ
メルセデス・ベンツ日本 0120-190-610

【BREAK THROUGH POINT】MAZDA3

理想的ドライビングポジション/右ハンドル車は、ホイールハウスがアクセルペダルに干渉してしまう場合があるが、マツダ3はペダルレイアウトもステアリングとシートとの位置関係も完璧。シートやステアリングの調整幅も広く使い勝手に優れる。

フォト=郡 大二郎/D.Kori ルボラン2020年6月号より転載

AUTHOR

1966年東京生まれ。米国の大学を卒業後(株)立風書房に入社、ル・ボラン編集部に配属となる。後に転職してカーグラフィック編集記者、カーグラフィック編集長などを歴任。現在はフリーランスの自動車ジャーナリストとして活動中。日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員。英国「The Guild of Motoring Writers」会員。

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