2019年に発表、2020年6月には日本初披露が行われた新型ランドローバー・ディフェンダー。コンセプトカーのような未来的なディティールと洗練された都会的な内外装、先代ディフェンダーが持っていた「無骨でタフな4WD」というイメージを高い次元で融合している。性能や設計は一気に現代流にアップデート。シャーシはついにモノコックに進化し、オンロードでの圧倒的な快適性も手に入れることになった。
そこで今回の「ニューモデル情報通」では、先代ディフェンダーの原型となる1948年登場の「ランドローバー・シリーズ1」からの長い歴史を振り返る。新型ディフェンダーには、どんな風に従来のイメージが継続されたのかも見てみよう。
先代ディフェンダーの原型は1948年から生産の、その名も「ランドローバー」
2016年に生産を終えた先代ディフェンダーの歴史を遡っていくと、1948年登場の「ランドローバー・シリーズ1」に行き着く。ランドローバーは第二次世界大戦で大活躍したウィリスMBジープの影響を受け、ローバーが開発した多目的4WDだ。シャーシは堅牢なラダーフレーム、前後のリジッドアクスルを半楕円リーフで吊るすサスペンション、パートタイム式の4WDシステム、直4OHVエンジンなど、足回りやパワートレーンはごく一般的な設計だったが、ボディが亜鉛引き鋼板で補強したアルミパネルでできていたことが特徴だった。アルミボディで得られた軽い車体と高い悪路走破性が認められ、シリーズ1以降ディフェンダーまで、英国陸軍で数多くが採用されたのも頷ける。
1958年からはシリーズ2へとステップアップした。パッと見では変わりがないようだが、よく見るとボディの「肩」が丸く造形されていることがシリーズ1との違い。エンジンはシリーズ1の途中から採用の2Lでスタートし、のちに2.3Lガソリン、2Lディーゼルを搭載した。1961年にはさらに小改良を行なってシリーズ2Aとなったが、外観上の違いはなくエンジンが変更になった程度だった。1967年からはロングホイールベースの「109」に直6の2.6Lが積まれるようになり、1967年には寄り目だったヘッドライトがフェンダーに移っている。この頃にはランドローバーは世界中で活躍を始めており、ヘビーデューティな使い方にも耐える4WDとしての確かな地位を得ていた。
1971年、ランドローバーはシリーズ3へ。これまた外観上の違いは少なかったが、ダッシュボードは安全対策を施した樹脂製にするなど、時代に合わせた細かな改良が施されていた。質素極まりなかったインテリアにも、多少なり上級車に見せるトリムオプション、防音装備、色付きガラスを設定するなど、無機質な4WDから脱却する動きも見られるようになっていた。1979年には直6エンジンをドロップする代わりに、レンジローバー用の3.5L V8を92psにデチューンのうえ搭載。V8モデルにはレンジローバー譲りのフルタイム4WD も移植したほか、大きなエンジンを積むために、グリルがフェンダーの端まで前進した。シリーズ3はその後も前後リーフサスをコイルに改めるなど、改良の手を休めることなく1985年まで製造を続けた。なお、その間の1978年に、ローバーはランドローバーの分社化を行っており、メーカー名が「ランドローバー」となっていることに注意が必要だ。
1983年から「90/110」に改名、1990年には「ディフェンダー」の名称を獲得
1983年には、シリーズ3の109にアップデートを行なって「110」に、翌年にはショートホイールベースの88も「90」に進化した。この際、シリーズ3のV8モデルですでに行っていた「前進グリル」が全車に採用され、近代的な容姿を手に入れている。なお、1985年まではシリーズ3も並行して生産・販売を継続していた。このとき90/110以外にも、「127(=3226ミリ)」というさらに長いホイールベースのバリエーションも追加。127はその長さを生かしてダブルキャブピックアップを構築し、積載力が必要な過酷な現場で好評を得た。
エンジンは当初2.3L、2.6L直6、3.5L V8でスタートしたが、のちに直6が2.5Lになり、2.3Lも2.5Lに換装、ターボ・ディーゼルも加わるなど、全体的なパワーアップも順次行われた。
90/110/127は、1990年に名前を「ディフェンダー」に変更した。改名の理由は、それまで単一車種しかなかったランドローバーに「ディスカバリー」という新車種が投入されたことにより、車種名の区別が必要になったためだった。
90/110が売られていた頃には、ランドローバーは悪路走破性に優れたハードな多目的車、という性格だけでなく、レクリエーションやレジャーで活躍するRVとしても人気を博すようになっていた。ディフェンダーではさらにその傾向を強め、ディスカバリー譲りの新しいターボディーゼルユニット(Tdi)搭載によるパフォーマンス向上、装備の増加、内装の高級化、アルミホイールやオートマチックの採用など、一般的・近代的なRVのような快適性も手に入れていた。
先代ディフェンダーはロングセラーを記録
1990年代も後半になると、古典的な基本構造・デザインを残すディフェンダーはクラシックモデルの仲間入りを十分に果たしていたが、パワートレーンの更新は継続して行われたため、原設計の古さに比してエンジンは常に新しかった。具体的には、まず1998年、排ガス規制をクリアできなくなったTdiエンジンに代わり直5ターボディーゼル「Td5」を搭載。さらに2007年からはフォードの2.4Lターボディーゼルに換装、2012年にはユーロVに適合すべく再びエンジンをフォード・PSA共同開発の2.2Lターボディーゼルに載せ替えている。しかもその際に6速MT、ディーゼルパティキュレートフィルター (DPF)も組み込まれた。
エンジンだけでなく、時代に合わせた安全面の強化や内装の変更、装備の増強も行われ、トラクションコントロールやABSレザーシートや本革ステアリング、シートヒーターなど高級SUV並みの装備が奢られていた。
改良を重ね続けた先代ディフェンダーだったが、欧州での新しい衝突安全基準に準拠できなくなってしまい、2016年8月、ついに最後の一台がソリハル工場からラインオフした。それは、シリーズ1から含めると68年、ディフェンダーの名を冠してから33年という長きにわたる生産に終わりを告げた瞬間でもあった。最後のモデルは90のソフトトップというクラシカルな仕様で、しかもナンバープレートは「H166 HUE」が付けられていた。そう、これはシリーズ1の試作車のナンバー「HUE 166」のオマージュだ。なんという粋な計らいだろう。
ディフェンダーの名を継ぐににふさわしい、完全ブランニューの新型ディフェンダー
新型ディフェンダーもショート・ロングホイールベースを用意し、ルーフの明かり取り窓「アルパインライトウインドゥ」や、直線的なボディサイドと丸い肩、丸いヘッドライト、切り落としたようなテールなど、シリーズ1から続く先代ディフェンダーのデザインアイコンをいくつも残している。モノコックボディになっても悪路走破性も引き続き高く、伝統あるディフェンダーの名を継ぐにふさわしい仕上がりとなっている。
先代ディフェンダーは、フレーム付きシャーシによるオンロードでの古典的な乗り味とユ揺すられる乗り心地、切っても曲がらないスローなステアリング、絶望的に効かない小回りなどなど……というハードで古い本格的クロスカントリー車だった。高速道路での長距離移動にも、人間のタフさが要求される。目の前にすぐ迫るフロントウインドゥなど基本設計の古さも目立った。SUVというより「RV」「クロカン」と言った方がしっくりくるクルマなのだ。そのため、多少なり乗り手を選ぶ面は否めなかった。
極端に言えば1948年以来71年ぶりのフルモデルチェンジで、90/110を先代ディフェンダーの始祖とするならば、それからでも36年が経過している。一方、新型ディフェンダーは我慢せずに乗れて、しかも極めて快適。デザインもモダン、安全性能も環境性能も最新鋭である。つまり、新型はデザインや伝統を受け継いでいるが、クルマとしての出来はまったく別次元のところにあり、イメージは共通で同じ名前でも世界感やターゲットが違う……という珍しいフルモデルチェンジを行ったと言えよう。
新型の登場で、むしろ旧型の魅力が深まったことも事実。先代は中古車しか狙うことはできないが、好みの世代を選べるようになったことは良いことだと思う。
この記事を書いた人
1971年生まれ。東京都在住。小さい頃からカーデザイナーに憧れ、文系大学を卒業するもカーデザイン専門学校に再入学。自動車メーカー系レース部門の会社でカーデザイナー/モデラーとして勤務。その後数社でデザイナー/ディレクターとして働き、独立してイラストレーター/ライターとなった。現在自動車雑誌、男性誌などで多数連載を持つ。イラストは基本的にアナログで、デザイナー時代に愛用したコピックマーカーを用いる。自動車全般に膨大な知識を持つが、中でも大衆車、実用車、商用車を好み、フランス車には特に詳しい。