「標準モデル以上、Mモデル未満」といったコンセプトのもと、サーキットではなくあくまでオープンロードでのハイパフォーマンスを狙って開発されるのがMパフォーマンスモデル。つまりM3不在のいま、このM340iは3シリーズのトップモデルとなるが、今回はツーリングでその存在意義を問う。
機動性も機能性も十分以上に満足だが…!?
結論から言うと、3シリーズツーリングでもっとも評価すべきは、その乗り味がセダンとほとんど変わらない点にあると思っている。今回も試乗の最中に、何度となくいま自分が運転しているのがツーリングであることを失念した。リアビューミラーに映るリアウインドーがずいぶん遠くにあるのに気が付いて、「あ、ツーリングか」と我に返った。
昔に比べると、BMWに限らずセダンとワゴンの差はずいぶん少なくなった。キャビン空間が後方に広くなった分だけこもり音が発生しやすいとか、ラゲッジルームに重量物を積み込んだ場合を想定したサスペンションのセッティングになっているから空荷にではリアが跳ねるなど、ワゴン特有の事象も最近では軽減される傾向にある。それでもここまでセダンと酷似した乗り味のワゴンはあまりお目にかかったことがない。
ボディサイズは従来型と比較すれば大きくなっているけれど、現行のセダンと比べると全高を除いた全長/全幅/ホイールベースのみならず、前後のオーバーハングまでぴったり同値だった(欧州仕様車)。それにしてはスタイリングが見事に整っていて、デザイナーの力量の高さが窺い知れる。
いっぽうで気になるのはBMWの十八番である前後重量配分だ。セダンのM340iは前軸重830kg、後軸重800kgの50.9:49.1でややフロントのほうが重かったが、同じM340iの今回のツーリングは同890kgと910kgの49.4:50.6で少しリアが重い(どちらも4WD)。それでも前後の重量差は20kgしかなく、ワゴンになっても彼らの十八番は健在であった。
セダンと変わらぬ印象を抱いたのは、この前後重量配分のせいもあるかもしれない。ワゴンにありがちな後輪が遠くにある感じやリアの操舵応答遅れが皆無で、左右の切り返しが続くような場面でもセダンのようにリアはキッチリと付いてくるから、まったく危なげなく運転を楽しめるのである。
動力性能も不満があるはずがない。特にM340iが積む3Lの直6ターボは1800rpmから最大トルクの500Nmを発生し、xDriveが状況に応じて前後の駆動力配分を最適化してくれるから、常に盤石なトラクションが確保される。そして実際、街乗りでは持て余すほど速い。
ラゲッジルームはもちろんワゴンならではの使い勝手に溢れている。容量は従来型より+5L、セダンより+20Lの500Lで、後席を倒せば最大1510Lまで拡張できる。テールゲートは電動開閉機構が標準装備で、リアのハッチウインドーのみでの開閉も可能。狭い場所やちょっとしたものの積み卸しにはたいそう役に立つ。昔は珍しくなかったこの機能も、最近ではほとんど見られなくなってしまった。
というわけでほとんどケチのつけようがなかったのだけれど、価格を見て我が目を疑った。なんとイッセンマンエン越えである。戦略的にはメルセデスC43がライバルだそうで、それを聞けばまあなんとか理解できるものの、名前で大損をしている。C43はC63の兄弟に見えるが、M340iはM3の兄弟には見えず、やっぱり320iのお兄さんである。ちなみに、3シリーズツーリングのプライスリストは320iSEの461万円からなのでご安心ください。