国内試乗

【EVにややロングに乗ってみた】その1「テスラ・モデル3」

先日公開された記事“ポルシェセンター京都で開催された“空冷まつり”でタイカンに興味をもった“
https://carsmeet.jp/2020/12/23/178838/
を書いたすぐ後に東京でタイカンを体感するチャンスがあったのですが、抽選にはずれ残念ながら乗ることはできませんでした。もうタイカンに乗る気満々になってしまっていたので何かに乗らなければこのムードは収まらない。しかも一般的なディーラー試乗のような短距離ではあまりわからないのである程度は長距離を乗りたい。尊敬する笹目二朗先生の著書のように“1000キロ乗らなきゃわからない”とはいかないまでも。どこかにそんなクルマはないかと急いで探してみたところ、3台見つかったのでまずそれだけでも乗ってしまうことにしました。1台目はテスラ・モデル3・ロングレンジという655万2000円のモデルです。知人の会社が所有しているクルマを借り出しました。

ほぼ初めてのテスラにワクワク

テスラは未経験ではありませんが、以前日本輸入自動車組合の試乗会でモデルSに短時間乗っただけなのでちょっとワクワク。あれからどれほど進化したのかということも合わせてとても楽しみです。街中→都市高速→東名→中央高速を1時間半ほどいろいろ試しながら確かめながら走りました。まず、カードキーをピラーにタッチしてドアを開け、乗り込んで画面で示されたセンターコンソール上のリーダーにタッチしてシステムオン。

駐車場から出るためにゆるゆる前進しているときにうっかり手がステアリング右手にあるシフトレバーにちょこんと触れてしまいました。あっと思った瞬間なんといきなりバックを始めたのです。これはほんとうにびっくりしました。自社駐車場内で操車中のことだったので大事には至りませんでしたが、軽いパニックを起こす危険性がありますし、一般の駐車場でもし後にクルマがいたらそちらの方が驚いて急なアクションで事故を誘発する危険性もあります。
後で取扱説明書をダウンロードして読んでみるとなんと時速8キロ未満なら操作できてしまうということを知りました。書いてあるということはあえてそうしてあるということですね。なんでそんなことをしたのか? 理由が思いつきません。ソフトウェアで簡単に変えられるはずなのでまずは改善して欲しいと思います。

走り出してほどなくハザードランプを点灯したいことがあったのですが、ありそうなところを探してもスイッチが見つからない。あれこれ探して結局見つけることができず諦めました。試乗を終えてから調べたらルームミラーの上にあることがわかりました。まさかそんなところにあるなんて。あるはずの場所ばかり探したことと、ほとんどの機能をスクリーンで操作するのでその中にあると思い込んでいたことが敗因です。
探し方がどんくさいことは認めますが、必要な局面で最小の視線移動で指をそこに付けるという点でもオーナーにとってもあの場所はどうかと思います。近年、装備されているクルマも増えてきたSOSやヘルプネットボタンが同じ場所にあるのでそれもいいのかな。

テスラと言えば加速がすごいことで有名なので、前がクリアになったときに試しに一気にとアクセルを床まで踏み込んでみました。とんでもない加速をします。脳が置いていかれて頭蓋骨にぶつかって痛い感覚。いつだったか富士スピードウェイで関谷正徳選手がドライブするマクラーレンF1に乗せてもらったことがありますが、その時の全開加速並の感覚でした。そんな加速一般道で必要かなと思うし、間違えて全開になってしまったときに安全デバイスの制御で間に合うのでしょうか。いずれにしてもアクセル操作には注意が必要です。

ワイパーを操作しようとして苦労しました。走行中だったこともありなかなか見つからない。タッチパネルに情報が集中表示され、操作も全てこれで行うというスタイルはスマホ慣れしている現代人には親和性もあり使いやすいのかもしれません。でもそれが車載となるとどうでしょうか。
クルマの操作系は運転中でも最小限の視線移動やステップで確認、操作できるように配置されています。ところがこれはそうではありません。深い階層にまで進んでいかなければならないこともあるため、それだけでも操作手順が増えて集中力がそがれてしまう。すべてがボイスコントロールできればと思います。法律的にも大丈夫でしょうか。
今の道交法では運転中のスマホ操作も画面の凝視も違反になりますが、これは? これ自体はスマホではないので字面の解釈としてはセーフでしょうけれど……。センサーやカメラが捉えた周囲の状況がモニターに表示されているので目視した状況と照らし合わせて「センサーはちゃんと見てくれてるな」と思えるのでそれはそれで安心できそうな気もします。

高速道路に入りオートステアリングを試してみました。作動中はステアリングに手を添えている必要がありますが、その証拠として定期的にステアリングを動かさなければなりません。「ハンドルを少し回してください」と、パネルに表示されます。遊びが消える程度の軽微な操作ですが、右にも左にも行く気がないのに時々ステアリングを動かすのにはかなり抵抗があります。そうしなければならない決まりがあるそうなので仕方ありません。そんなことしなくてもセンサー技術で解決する方法があるとは思うのですが。

そのままにしておくと速度部分がやや青くなり警告は続きます。それでもそのままだと次は青が濃くなり、手の部分が赤くなります。さらに知らん顔すると赤く大きいステアリングが表示され、「現在の走行ではオートステアリングを使用できません、ハンドルを握って運転してください」と、赤い警告が出て機能がキャンセルされます。それでもそのまま無視すると画面が赤く点滅して自動で強制的に減速、そして停車するそうなのですがそこまでは試していません。

しばらくマニュアルで走行を継続し、一度一般道に降りてひと回りして高速に戻りオートステアリングをオンにしようとしても反応しません。おや?と思って画面を見ると、「現在の走行ではオートステアリングを使用できません」と、メッセージが表示されています。
さっき私の指示を無視したからその機能はもう使わせませんという感じ? 彼女の気に障るようなことをして仕返しをされたような気分に苦笑いです。一度停車し一旦システムオフオンすれば使えるようになります。

こんなおまけ機能も

どの機能がどこにあるのかを知っておくためにあれこれ触っているとアーケードゲームや“排ガステストモード”なるものが表われました。なんじゃそりゃと思いながら指示通りやってみるとブーブークッションでした。小学生のとき流行ったな~と思い出してちょっと笑いましたが、きっと一回しか使いませんね。他にもあるみたいでしたが特に興味はありませんでした。

 

率直な感想

機能が多いので全てを試すことはできなかったのですが、運転支援系には信号機や標識を検知してそれに合わせて減速、停止、加速もする機能もあるようです。しかしその動きが実情に合わない場合、ドライバーの意思に合わない場合は自分で操作しなければなりません。インターチェンジでの離合や合流などの局面でもそう。ほんとにちゃんとやってくれるのかと心配しながら場合によっては自分で操作を加える……というのはどうも。だったら最初から自分の意思だけで運転した方が楽かなというのが率直なところ。
いわゆる自動運転レベル5になるまではどのクルマもベータ版だから仕方ありません。高速道路を走行中に特に感じたのですが、操作系特にステアリングがゲーム機っぽい。ステアリングを回したときの感覚、路面への意思の伝わり方、路面状況のフィードバック、全てがロジクールのフォースフィードバックプロと同じようなフィーリング。回生ブレーキが強すぎるのも慣れませんでした。標準モードでは強すぎアクセルペダルをもどした瞬間にガクンと急激に効くので驚くし危ない。電力回生とワンペダル操作のために仕方ないのかもしれませんが、コツと慣れが必要ですね。

ベータ版の機能があるのも驚きでした。私も、まだマイコンと呼ばれていたシャープのMZ-80C、NECのPC-8001が発売された1979年からコンピューターとはずっと付き合っているのでバージョンアップやベータ版には馴染んでいましたが、まさかクルマにもあるとは。

やや乱暴で恐縮なのですが、歴史に刻まれた革命的製品で味わったようなワクワク感がないし、絶対的革命感もない。「これええやんか!」と無条件で欲しくなることはありませんでした。しかしそれはあくまでも従来、旧来のクルマの経験が土台にあってのこと。できるだけニュートラルに見ようとしても限界がありどうしてもそちらに引っ張られてしまいます。テスラは既存のクルマの概念とは別次元の乗り物として見なければなりません。だからもし初めて乗ったクルマがテスラだという場合は特に問題ないでしょう。

ITを使いこなす人たちなら不具合や機能追加のアップデートが当たり前なので、ベータ版の何があかんのと思うでしょうし。ただ、日本の場合はアップデートの内容によっては認証のやり直し手続きが必要になるためスマホのように気軽にとはならないようです。そこは人命に関わる自動車だから仕方のないことです。乗った後に会ったEVや自動運転系の先端開発者に訊いてみると、クルマというよりIotデバイスと見ている人が多かった。
今後世に出るといわれているIT系によるEVは移動できるIoTデバイスの切り口で見て評価しなければならないでしょうし、その点ではプラットフォーマーの戦略によって想像もしない製品が生み出されワクワク止まらないようなことが起きるかもしれません。イーロン・マスクが今後どんなことを考えるのか? どんな製品でワクワクさせてくれるのか?も含めてこの世界がちょっと楽しみになってきました。

(取材・写真・文:大田中秀一)

大田中 秀一

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