魅惑の自動車カタログ

美人長命!流麗なボディに角目4灯ライトを装着した「いすゞ117クーペ」【魅惑の自動車カタログ・レミニセンス】第41回

ジウジアーロによる傑作デザイン

この連載では、タイトルの「レミニセンス」の語に込めた意図に基づき、文句ナシの名車というよりは、どちらかといえば地味なモデルや世俗的な車種を採り上げてきた(それほど徹底させてきたわけではないが)。しかし今回のいすゞ117クーペは、むしろ「文句ナシの名車」の方かもしれない。

【画像13枚】角目ライトがむしろカッコイイ117クーペの詳細を見る!

いすゞ117クーペが名車である所以は、もちろんそのボディスタイルの美しさにある。ジョルジェット・ジウジアーロが手掛けたそのデザインは、流麗なボディラインの繊細さ・華麗さと、乗員4人に必要なスぺースの確保とを、確実に両立しているところにその高い価値があると言えるのではないだろうか。

117クーペの発売は1968年12月のことであるが、そのデビューは2年前に遡る。1966年のジュネーブショーに「117スポーツ」の名でプロトタイプが発表されたのである。「117」はフローリアンのコードネームでもあったが、同車のデザインをカロッツェリア・ギアに依頼したところから、当時ギアに在籍していたジウジアーロのデザインによるクーペの企画が持ち上がったのであった。

117スポーツを市販化したものがこの117クーペだが、前者はよりシャープな形状であったのに対し、後者では若干ふくよかさを増した印象である。それはともかく、この美しいボディは当時のいすゞの生産体制では量産化に難しい部分があったということで、一部に手作業を採り入れて組み立てがなされた。そのためこの初期モデルは「ハンドメイド」と称されることが多い。

シャシーはフローリアンと共通で、FRレイアウトに前ダブルウィッシュボーン/後ろリーフリジッドのサスペンションを採用。搭載されたエンジンは117クーペ専用のツインカム・ユニット、G161W。ベレット用の直列4気筒OHV 1.6Lのヘッドを改めてDOHCとしたもので、最高出力は120㎰であった。のちに電子制御インジェクション仕様(EC)を追加したほか、1.8LのSOHCや2Lのディーゼルなどもラインナップに加わっている。

1973年にはボディパネルの形状に変更を加えつつ量産化を実現。基本形状の変化はよく見ないと(よく見ても)わかりにくいのだが、フロントはターンシグナルがバンパーの下に付き、リアはテールランプが横一線形状(中央はガーニッシュ)となり、ボディ側面には前後にサイドマーカーが設けられるなど、細部に分かりやすいデザイン変更が加えられている。また、エンジンはツインカムも含め1.8Lに統一された。

1977年12月にはさらにマイチェンが行なわれ、ヘッドライトを角目4灯に変更。前後バンパーはラバーで覆われ、フロント下部には小さなスポイラーが設けられた。翌年には排気量を2Lにアップし、グレード名に「☆☆」が付くスターシリーズが追加されている。末期にはディーゼル仕様が再び追加されるなどしたのち、1981年に後継モデルのピアッツァへとバトンタッチ、10年以上にわたるモデルライフを終えたのである。

三つ折りとなっているのを左右に広げたところ。基本的にはこの面のほぼ全てが6モデルの説明に費やされており、左の2ページがそれぞれのイメージカットとちょとしたコメント、右の1ページが説明カットの並びとなっている。

3種類のエンジンにそれぞれ2つのグレード
さて、ここでご覧いただいているのは、大きく分けて3つの時期に分けることのできる117クーペのうち、最後にあたる角型ライトの時期のカタログである。サイズは297×245mm(縦×横)、ページ数は表紙を含め全6ページ。つまり三つ折りの、カタログと言うよりはリーフレットと呼ぶべきものである。本カタログと表現してよいものは、他に存在していたようだ。発行年月については、隅に「52.11」と記されているので、1977年11月、翌月のマイナーチェンジのために印刷されたものと思ってよいだろう。

本カタログではなくリーフレットであるため、その内容は、記述すべき内容が凝縮された、巧みな構成のものとなっている。スペシャリティカー的なクーペとしてはグレード数が全6種と、すこし多めだ。この時期はエンジンが3種類あり(1.8LツインカムECGI/同シングルカムECGI/同シングルカム・キャブ仕様)、それぞれに2モデルずつ用意されていると考えると分かりやすい。中面では、この6モデル全ての特徴・性格を表す文章が添えられていて、見る者の理解を助けてくれている。

筆者は子供時代、すでに角目モデルとなった時期の117クーペしか新車としては知らないので、角型ライトであることに違和感はないのだが、逆に不思議、と言うより疑問に思うことがある。それは、同車をハンドメイドの時期から知っていた人には、角目の117クーペでも魅力的に見えていたのか、ということだ。いくら美しいボディとは言っても、やはり時代との乖離は否定しがたく、現代的なディテールが、基本のボディと不釣り合いに思えるところは否めないだろう。

そういう訳なので、ハンドメイド期の117クーペを知ったのはずいぶん後のことなのだが、最初に写真を見たときは、やはりその美しさには驚かされたものだった。量産に切り替わったとき、ボディ形状がどう変わったのかは分かりにくいのだが、一点だけ、ボンネットのプレスが平面的に変わっていることに気がついている。グリルの開口部上側が、ハンドメイド期よりは直線的なのだ。そう思うと、量産丸目よりは角目4灯の方がスタイリング的にはまとまっているようにも感じられる。

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