世界的に人気の高いクラシック・フォルクスワーゲン(VW)。ビートルの愛称で長年親しまれたセダンはもちろんのこと、ヒッピームーブメントのアイコンともなった実用性が自慢のワンボックス「バス」、それにユニークで愛嬌のあるエクステリアが人気の「カルマン」など、オリジナリティの高い車両やレストア済車両は、いまでも高級乗用車の新車に匹敵するプライスが付けられている。
さて、今回ご紹介するのは、アメリカはサンディエゴに本拠地を置く「ゼレクトリック」社(http://zelectricmotors.com)が、そんなクラシックVWを大胆にもEV化したコンバージョン車両だ。水平対向空冷4気筒エンジンを愛し、オリジナリティを重んじるマニアは眉をひそめるかもしれない。だが、彼らの仕上げる車両は実に美しく、クラシックVWへの愛に満ちていることが伝わってくる。
トップスピードは160km/h!
自らを”レトロ・フューチャリスト”と呼ぶ同社CEOのデイビッド・ベナード氏が、このコンバージョンを思い付いたのは2006年の夏。クラシックVWを愛してやまない彼だが、未来のパワートレインはEVにシフトすると見越していた。
すぐにコンバージョン製作を開始したが、満足の行くプロトタイプが完成するまでには6年もの歳月を費やした。高性能EVのスペシャリストと、充分な知識と経験、技術を持ったクラシックVWのレストアができるメカニックの雇用が、プロジェクトの鍵であったという。完成した初号機は「ゼレクトリック・バグ」と名付けられ、2年半をかけてテストを実施。細部の変更を経て販売を開始した。
こうして世に送り出されたゼレクトリックのコンバージョン車両は、すぐに評判となった。ユーザーはベース車両を探すところからオーダーできるだけでなく、すでにビートル、バス、カルマン、タイプ181(キューベルワーゲン)を所有する場合はソレをもとにレストア&コンバージョンを依頼することが可能。取り外されたエンジンはオーナーが引き取ってもよく、下取りに出すこともできる。そしてエンジンの売却金額の半分はオーナーに渡されるという。貴重な財産は無駄にしないのだ。
さて、気になるのは性能だろう。ほぼオーダーメイドなので様々な仕様が可能ではあるが、最も安価な仕様のビートル・コンバージョンでは、航続距離は150km前後が目安と若干心もとないが、最高速は160km/h。リチウムイオンバッテリーはテスラ用を加工して使用している。容量は24kWh、36kWhのほか、54kWh仕様を搭載した例もあり、その場合は航続距離が大幅に伸びて約250kmとなる。モーターはシングル仕様が標準。トランスミッションはVW純正を流用する場合もあれば、希望に応じてオリジナルの2速を搭載することもできるという。
気になるお値段は、ビートルの標準仕様で4万9000ドル(約540万円)。レストア&コンバージョン費用が込みであることを考えると、充分に納得できる価格ではないだろうか? ゼレクトリックのコンバージョンなら、世界一厳しいといわれるカリフォルニア州の排ガス規制の行方を気にせず、クラシックVWを公道で楽しむことができる。それだけでも充分に価値があるといえるだろう。