伝統の再定義──2700点のコンポーネント刷新がもたらす「未知なる安らぎ」
メルセデス・ベンツは2026年1月29日、ドイツ・シュトゥットガルトにおいて、ブランドの象徴であるフラッグシップサルーン、改良新型「Sクラス」(W223型)を世界初公開した。カール・ベンツが最初の自動車を発明してから140年という記念すべき年に登場したこの新型は、単なるフェイスリフトの域を遥かに超えている。全構成部品の50%以上、数にして約2700点ものコンポーネントを新開発または再設計するという、Sクラスの単一世代としては史上最も包括的なアップデートが施された。伝統的なエンジニアリングの卓越性と、最新のデジタルアーキテクチャ「MB.OS」を融合させ、ブランドが掲げる「Welcome home(おかえりなさい)」という感覚を、かつてない次元へと引き上げた一台である。
【画像86枚】細部に宿る「神」を見る。大型化された発光グリルから2700点もの刷新パーツまで、新型Sクラスの全貌をギャラリーで確認
威厳をまとう「光」の演出。伝統のグリルと次世代デジタルライトが描き出す新たなプレステージ
新型Sクラスのエクステリアにおいて、最も視覚的な変化を遂げたのはそのフロントマスクだ。ラジエターグリルは従来モデル比で約20%大型化され、3本から4本へと増設された水平のクロームバーが、フラッグシップとしての圧倒的なステータス性を強調している。特筆すべきは、Sクラスの歴史上初めて採用されたグリル自体が発光する機能と、オプション設定されたボンネット上の「スリーポインテッド・スター」の照明機能だ。これらが組み合わさることで、夜間であってもひと目でSクラスと認識させる、幻想的かつ威厳に満ちたライトシグネチャーを創出している。
ライティング技術の進化は、デザイン演出だけにとどまらない。新デザインの「ツイン・スター」を備えた次世代「DIGITAL LIGHT」ヘッドランプは、革新的なマイクロLED技術を採用したことで、高解像度の照射範囲を約40%拡大することに成功した。さらに、路面に「Mercedes-Benz」の文字や警告シンボルを投影するプロジェクション機能や、サイドシルに内蔵されたプロジェクターによるウェルカムライトなど、光によるコミュニケーション機能も大幅に強化されている。足元には、高圧鋳造技術を用いて製造された新デザインの20インチ・マルチスポークホイールが用意され、軽量化による効率向上と、工芸品のような緻密なデザインを両立している。
「MB.OS」が拓くインテリジェンスの極致。生成AIと融合し、人の心に寄り添う第3の生活空間
インテリアに足を踏み入れると、そこにはアナログな職人技と最先端のデジタル技術が融合した「第3の生活空間」が広がっている。コクピットの中核をなすのは、メルセデス・ベンツが自社開発したオペレーティングシステム「MB.OS」と、全車標準装備となる「MBUXスーパースクリーン」だ。14.4インチのセンターディスプレイと12.3インチの助手席ディスプレイを一枚の連続したガラス面の下に統合したこの巨大なスクリーンは、視覚的な美しさだけでなく、助手席乗員が走行中にストリーミングやゲームを楽しめるエンターテインメント性も提供する。助手席ディスプレイには、ドライバーの視線移動を検知してコンテンツを見えなくする「デュアル・ライト・コントロール(DLC)」技術が採用されており、安全性と快適性を高度に両立させている。
第4世代へと進化したインフォテインメントシステム「MBUX」は、ChatGPT-4oやGoogle Geminiといった生成AI技術を統合し、対話型アシスタント「Hey Mercedes」の能力を飛躍的に向上させた。システムは文脈を理解し、人間のような自然な対話が可能であるほか、新たに「LittleBenz」と呼ばれる表情豊かなアバターも追加され、クルマとの情緒的なつながりを深めている。
後席空間は、まさに「走るボードルーム(役員会議室)」と呼ぶにふさわしい進化を遂げた。13.1インチの大型ディスプレイを備えた「MBUXハイエンド・リアシート・エンターテインメントシステム」に加え、着脱可能なMBUXリモートコントロール、そして車内カメラを用いたビデオ会議機能(Microsoft Teams、Zoom、Webexに対応)により、移動中であってもオフィスと同等の生産性を発揮できる環境が整えられている。
「Welcome home」の具現化。シートベルト・ヒーティングから空気質管理まで、五感を調律する至福のホスピタリティ
「Welcome home」のコンセプトは、目に見えない快適装備の細部にまで徹底されている。新たに採用された「デジタル・ベント・コントロール」は、エアコンの吹き出し口のルーバーを電動化し、風向を自動で調整する機能だ。各ベントに2つの小型モーターを搭載し、MBUXの操作に応じて「集中」や「リラックス」といったシナリオに合わせて風を制御する。
また、前席には革新的な「シートベルト・ヒーティング」が導入された。これはベルト織物に極細の導電糸を織り込み、最大44度まで発熱させることで、乗員の胸部を温かく包み込む機能である。これにより、冬場でも厚着をせずにベルトを装着することを促し、拘束装置としての効果を最大限に発揮させるという、安全性への配慮も込められている。
車内の空気の質にも妥協はない。新たな「ENERGIZING AIR CONTROL」は、電気集塵フィルターを採用し、食塩の粒の1200倍も小さな微粒子まで除去する性能を持つ。約90秒ごとに車内の空気を完全に入れ替えるほどの浄化能力により、常に清潔な環境が保たれる。音響面では、Dolby Atmosに対応したBurmester 4Dサラウンドサウンドシステムが、シートに内蔵されたエキサイター(振動子)を通じて、聴覚だけでなく身体で感じる音楽体験をもたらす。
V8の熱情とPHEVの静謐。内燃機関の「磨き上げ」と100kmの電動航続距離が示す、フラッグシップの最適解
新型Sクラスのパワートレインは、ガソリン、ディーゼル、そしてプラグインハイブリッド(PHEV)と多岐にわたり、そのすべてにおいて電動化技術による洗練が図られている。
ガソリンエンジンの頂点に立つV型8気筒ツインターボエンジン(M177 Evo)は、「S 580 4MATIC」に搭載される。最高出力395kW(537ps)、最大トルク750Nmを発生するこのユニットは、フラットプレーンクランクシャフトや新しい点火順序の採用により、回転バランスとレスポンスを向上。マイルドハイブリッド技術(ISG)との組み合わせにより、極めてスムーズな始動と力強い加速を実現しつつ、NVH(騒音・振動・ハーシュネス)も低減された。
直列6気筒ガソリンエンジン(M256 Evo)を搭載する「S 450」「S 500」では、電動補助コンプレッサーの強化により、オーバーブースト時には最大640Nmのトルクを発揮する。一方、ディーゼルモデル(S 350 d/S 450 d)には、将来の排出ガス規制を見据えた新型の直列6気筒エンジン「OM 656 Evo」が搭載され、量産車として初めて電気加熱式触媒コンバーターを採用するなど、環境性能へのあくなき追求が見られる。PHEVモデル(S 580 e/S 450 e)は、電気のみでの航続距離が約100kmに達し、システム出力も先代比で最大55kW向上するなど、実用性とドライビングプレジャーの両立が図られた。
路面を先読みするインテリジェントな足まわり。10度の後輪操舵と「MANUFAKTUR」が叶える、自由自在なる移動体
走りの質感においても、Sクラスは新たな基準を打ち立てた。全車に標準装備された「AIRMATIC」エアサスペンションには、クラウドベースのインテリジェントなダンパー制御機能が組み込まれている。これは、先行するメルセデス・ベンツ車両が検知した路面の凹凸(スピードバンプなど)の情報をクラウド経由で取得し、当該箇所に差し掛かる直前にサスペンションを最適な硬さに調整するという画期的なシステムだ。さらにオプションの「E-ACTIVE BODY CONTROL」を選べば、カメラで路面をスキャンしてサスペンションを制御する機能に加え、側面衝突が不可避な場合に車高を一瞬で持ち上げて衝撃を強固なサイドシルで受け止める「PRE-SAFEインパルス・サイド」も利用可能となる。
取り回しも劇的に改善された。後輪操舵システム「リア・アクスルステアリング」が全車標準装備(最大4.5度)となり、オプションでは最大10度まで切れ角を拡大できる。10度仕様の場合、ロングホイールベースモデルであっても回転半径は2m近く短縮され、10.8m(ショートボディのAクラス同等)という驚異的な小回り性能を実現している。
安全性においては、最大15個ものエアバッグを展開する最新のシステムを採用。後席乗員のためのフロントエアバッグや、ベルトバッグも用意され、全方位的な保護を提供する。また、特殊防護車両である「S 680 GUARD 4MATIC」も同時に発表された。民間車最高レベルの防護等級「VR10」を取得し、バイオフィデリックダミーを用いた実弾射撃テストでも最高評価を獲得。6.0L V12ビターボエンジンを搭載する唯一のモデルとして、究極の安全性と快適性を提供する。
オーダーメイドプログラムと価格
個性を求める顧客のために、カスタマイズプログラム「MANUFAKTUR」も「Made to Measure」として進化を遂げた。150色以上のボディカラー、400色以上のインテリアカラーに加え、専任エキスパートによるコンサルテーションを通じて、世界に一台だけのSクラスを創り上げることが可能だ。
欧州における新型Sクラスの受注は2026年1月30日から開始される。ドイツ本国での価格は、エントリーモデルとなる「S 350 d 4MATIC」(標準ホイールベース)が12万1356.20ユーロ(19%付加価値税込み/約2220万円)から。ボディサイズは、標準モデルが全長5194mm、ロングモデルが5304mmとなっており、堂々たる体躯の中に最新の技術と伝統のクラフトマンシップが凝縮されている。
今回の新型Sクラスは、「世界最高のクルマ」という称号を維持するために、デザイン、デジタル、快適性、そして走行性能のすべてにおいて妥協なき進化を遂げた、まさにメルセデス・ベンツの技術の粋を集めたモデルであると言えるだろう。
【ル・ボラン編集部より】
140年の系譜が到達した今回の刷新は、まさに「デジタルと伝統の止揚」と呼ぶにふさわしい。一見するとデジタルの波に呑まれたようにも映る「MBUXスーパースクリーン」だが、その実、生成AIを統合した「MB.OS」の採用は、機械としてのクルマを、より情緒的で知的なパートナーへと昇華させている。デザイン面では、あえて拡大された発光グリルや、ボンネットに鎮座する立体のスリーポインテッド・スターが、ブランドの威厳を再定義している。それは、単なるラグジュアリーの誇示ではなく、先進技術を包み込むメルセデス独自の流儀だ。
パワートレインに目を向ければ、V8エンジンのフラットプレーン化や電動触媒の採用など、内燃機関の極致を追求する姿勢に執念が宿る。物理スイッチを廃したUIには、当初抵抗を感じる向きもあったが、最新の生成AIが提供する直感的な対話は、かつての高級車が持っていた「阿吽の呼吸」をデジタルで再現しようとしている。この知性を備えた移動空間こそ、今の時代が求めるラグジュアリーの真価ではないだろうか。
【画像86枚】細部に宿る「神」を見る。大型化された発光グリルから2700点もの刷新パーツまで、新型Sクラスの全貌をギャラリーで確認




























































































