独自の存在感を示すアウディのアイコン
1998年、当時の自動車デザインの常識に一石を投じたともいえる初代TTが登場してから約20年、3代目がモデルサイクル半ばにしてフェイスリフトを実施した。この3代目を機にスポーツクーペとしてのキャラクターをより鮮明にしたTT。今回はその高性能版となるTTSを駆った。
今年、TTは誕生から20年という節目を迎えた。初代の登場時は、ピエヒ体制のもと、アウディブランドそのものが劇的な変化への第一歩を踏み出したタイミングと重なる。というよりも、再生の象徴として意図的に設定されたモデルだったという見方は、おそらく間違いではない。機能的合理性が根底に流れるバウハウス的な哲学に基づいた初代TTのエクステリアデザインはそのアイコンに相応しく、その意を充分に汲んだ内装の緻密な作り込みを相まって世界の自動車メーカーにも衝撃を与えた。
そんな20年の節目が、日本においては3代目となる現行型のマイナーチェンジと重なった。そのアウトラインをなぞってみると、まずFFのエントリーグレード「40TFSI」には新しい2L直4ターボユニットを搭載。エクステリアもSラインパッケージの意匠を標準で採用した。その上位グレードにあたる「45TFSIクワトロ」、そして「TTS」は主に意匠的な変更と成熟的進化に留まる。ロードスターは45クワトロのみの展開。そして世界999台限定の20周年記念モデルが、日本では20台の限定として発売される。45TFSIクワトロをベースに、グレイッシュな専用の外板色や有機ELを用いたテールライト、初代ロードスターを彷彿とさせるモカシンブラウンのナッパレザーが取り囲むインテリアなど、TTが提示してきた新旧の商品価値を織り交ぜたような仕上がりとなっている。
今回、いち早く試乗できたモデルはTTS。搭載される4気筒直噴ターボユニットのパワーは286psにまで高められ、トランスミッションは6速Sトロニック、すなわちDCTを採用。前後ほぼ100:0-50:50の駆動配分をリニアにこなす第5世代ハルデックスカップリング4WDを搭載する。現状は最高峰のTTということになるが、後にTTRSも刷新される可能性は高い。
ドイツ製スペシャリティモデルの中でも、TTの存在感はとりわけ貴重だ
徹頭徹尾の作り込みを貫いた初代ほどの意気込みは感じずとも、TTのインテリアは相変わらず整然とした気持ちよさでドライバーを迎え入れてくれる。後席はもちろんエマージェンシーだが、荷室は大型スーツケースも収まるほど広く、ミニマルな2シーターワゴンとしての価値も不変だ。
初代から2代目に対して、3代目TTが最も進化したポイントはやはり走りということになる。取材当日は生憎の雨に見舞われたが、横置きの4WDは……と蔑まれてきたTTSのクワトロシステムはきっちりスタビリティの一助を果たしつつ、隙あらば積極的に後輪側へ駆動を振り分けアクティブに曲げようともする。現世代の横置き系クワトロは、サーキットをガシガシ走り込むような用途でもなければ、十二分にその恩恵をお楽しみの側でも感じさせてくれる。
動力性能的にはさすがにハイチューンのターボユニットだけあって、ごく低回転域ではトルクの薄さも感じることがあるが、4WDにして1400kg前半という重量がそれを巧く相殺する。TTSはエンジンを回して走るワインディングだけでなく、街中でもその軽快感を充分に満喫できるだろう。
眩いほどに華があるわけではない。でも理詰めに過ぎて退屈なわけでもない。ドイツ製スペシャリティモデルの中でも、TTの存在感はとりわけ貴重だ。この個性は、日本の生活観においても馴染みやすいものだと思う。
【Specification】アウディTTSクーペ
■全長×全幅×全高=4200×1830×1370
■ホイールベース=2505mm
■トレッド=前1565、後1545mm
■車両重量=1460kg
■エンジン型式/種類=-/直4DOHC16V+ツインターボ
■内径×外径=82.5×92.8mm
■総排気量=1984cc
■圧縮比=9.6
■最高出力=286ps(210kW)/5300-6200rpm
■最大トルク=380Nm(38.8kg-m)/1800-5200rpm
■燃料タンク容量=55L(プレミアム)
■燃費=(10・15)11.8km/L
■トランスミッション形式=6速DCT
■サスペンション形式=前ストラット/コイル、後ウィッシュボーン/コイル
■ブレーキ=前Vディスク/後ディスク
■タイヤ(ホイール)=245/40R18(8.5J)
■車両本体価格(税込)=7,990,000円
【問い合わせ先】
アウディジャパン0120-598-106