清水和夫のダイナミック・セイフティ・テスト(Dynamic Safety Test)
Number90(SEASON.10):ハイレベルな運動性能が与えられた日仏を代表するコンパクトスポーツ対決
スズキ・スイフト・スポーツ vs ルノー・トゥインゴGT
「コンパクトスポーツのリコメンドモデルは?」という質問をよくされるが、今回のテスト車、ルノー・トゥインゴとスズキ・スイフト・スポーツはそれに該当する。スマートと共通のプラットフォームを持つRRレイアウトのスポーツ仕様のトゥインゴGTと、スズキの秘密兵器、卓越したハンドリング性能を持つスイフト・スポーツの2台をテストした。
稀有なプロフィールを持つトウィンゴGTは個性溢れる小さな巨人
ドライブフィールはまるで異なる2台のコンパクトスポーツ。ルノー・トゥインゴGTは4ドアのスモールカーだが、“ファミリーカーの皮を被ったスポーツカー”といえるような運動性能を持っている。同じリアエンジンのポルシェ911を彷彿とさせるような優れたトラクション性能と、トルクフルなターボユニットとの相性の良さも際立っている。
背が高いため、SUVのような目線でドライビングできるのはメリットになるが、ホイールベースが短いので、高速走行では横風の影響をどれくらい受けるのか心配していたが、テストコースのように横風をまともに受けるステージで、今回のようなウェットコンディションでも挙動の乱れはなく、かなり安定して走行することができた。
3気筒のターボエンジンはルノー製で、プラットフォームはメルセデスメイドということもあり、シャシー制御では特にESP(エレクトリック・スタビリティ・コントロール)のプログラミングが実に巧みだ。その昔、初代スマートと同時期に登場した初代Aクラスは、エルクテストで横転の危険性があると指摘され、リコールを余儀なくされたが、その時にESPを標準装備にして以来、メルセデスはその制御に磨きをかけてきた。単にアンチスピン的な安定性を高めるだけでなく、横転を防ぎ、安全性を高める制御を行なっている。それがトゥインゴGTにも標準で装備されており、協業の効果はしっかりと反映されているようだ。
スイフトの高い運動性能は軽量ボディの恩恵だ
一方、スイフトはどうか。高速走行での乗り心地はとても良く、少し荒れた路面をハイスピードで通過しても、サスペンションがしなやかに動き、バネ上のボディはフラットな状態をキープし、安定感は抜群だ。この走りこそスピード域が高めのカントリー路がたくさんある欧州の道で鍛えた証なのだろう。なぜ欧州車の走りがよいのか。アルプスを抱くイタリア、フランス、スイス、オーストリアは地形的に山岳路が多く、いまだに中世時代に作られた道も現役で道幅はタイト。条件的には日本と似ているが、異なるのはスピード。カントリー路でも速度域は高く、当然卓越した運動性能が求められる。その欧州で開発、生産、販売するスイフト・スポーツは、まさにその環境に適正化されているのだ。
少し残念だったのは、ESCの制御。ダブルレーンでは進入速度が速く、タイヤの限界性能を使うことになったが、せっかくESCが備わっているのだから、速度を低下させながらタイヤに余裕を持たせるダイナミクスを実現するべきだろう。最近のダイナミクスの思想は、ドイツ車を中心にタイヤの性能をギリギリの領域まで使わないという傾向があるようだ。スズキは電子デバイスの制御を学ぶ必要がありそうである。
テストを通じて、スイフト・スポーツの基本性能の高さを実感したが、それをもたらしているのは紛れもなく、その軽量なボディの恩恵だろう。
ハイレベルな走行性能で小さくても存在感は抜群
点数的には拮抗したダイナミクスだったが、2台ともかなり個性的だった。トゥインゴGTはフロントにエンジンがないために、舵の効きはシャープで愉しい。しかも全長が短いから小回りが効く。日常性も高く毎日使えば新しい発見がありそうな走り味だ。トゥインゴには3気筒自然吸気ユニットもあるが、オススメは今回のGT。
一方、横置き4気筒というコンパクトカー定番エンジンを持つスイフト・スポーツは、欧州で鍛えたダイナミクスが突出している。イタフラ車ほどホットハッチ度は高くないが、趣味と実益を兼ね備えたコンパクトスポーツは加速性能とブレーキ性能が印象的だった。
RESULT
コンパクトだからと侮れない高性能に感服した
●ルノー・トウィンゴGT:16/20点
●スズキ・スイフト・スポーツ:15/20点