
誕生からいよいよ還暦アニバーサリーを迎える英国ブランドきっての人気モノは、現代の日本においても輸入車ヒットチャートでヘビーローテーション中。もともとキュートで愛らしい個性派アイドルは新加入メンバーも実力派ということで、革新と伝統を融合させたプロデューサーの敏腕ぶりとその背景を分析してみる。
ヘリテイジが裏付けるミニの愛されキャラ
ミニに乗ったことがなくても、見ればそれとわかる人は多いはずだ。その知名度の高さは、クルマ界のアイドルと例えてもいいだろう。丸味を帯びたフォルムに丸目のヘッドライト、立ちぎみのフロントウインドー、ボディと色違いのルーフ、スパッと切り落とされたテールの左右に振り分けられたリアコンビネーションランプ、こうしたデザイン的な特徴がミニの強烈なアイデンティティとなり、愛らしいキャラクターを際立たせている。
そもそもミニのデザインは、1959年にイギリスで誕生した元祖ミニがモチーフ。天才エンジニアと称えられるアレック・イシゴニスの設計で、最小のボディサイズに最大のキャビンスペースを獲得した理想的なパッケージングを実現。横置きで搭載される直列4気筒エンジンの下にトランスミッションを組み合わせるという、イシゴニスの独創的なアイディアの成果でもある。
B38A15A 直列3気筒ガソリン

エントリーユニットの1.5L直3ターボは、最高出力102ps/最大トルク190Nm版(ワン)と136ps/220Nm版(クーパー)で、3、5ドアは6速MTか7速DCT、クラブマンとクロスオーバーは6速ATとの組み合わせ。
実に元祖ミニは、2000年まで生産が続けられた。1994年にはミニを含むローバー・グループがBMW傘下に。その関係は程なく解消されたがミニ・ブランドだけはBMWに残った。当初はローバーが、後にBMWが主導となる次期型ミニの開発がすでに進んでいたためだ。そして、2001年に新生ミニが誕生したわけだ。
その際、BMWはミニを本筋のラインアップに加えなかった。BMWとは別に、独立したブランドとしてのミニをゼロスタートさせたから。なんと、独自のマーケティングを展開し、販売ネットワークまで新規に立ち上げるという念の入れようだ。たとえば、フォルクスワーゲンがミニに先駆けて、元祖ビートル(タイプ1)がモチーフのニュービートルを’98年に投入したものの、フォルクスワーゲンからの独立まではしていない。しかも、ゴルフから派生したニュービートルとは異なり、ミニはすべてが新開発。イギリスのオックスフォードには、生産工場まで新設している。
B48A20A 直列4気筒ガソリン

ガソリン仕様2L直4ターボは、クーパーSに最高出力192ps/最大トルク280Nm版を搭載。3、5ドアは6速MTか7速DCTのFF、8速ATを組み合わせるクラブマンとクロスオーバーにはFFと4WDを用意。
かつてリポーターは、その生産工場を取材している。そこで目の当たりにしたのは、ボディの徹底した造り込みだ。高い剛性を確保するために、骨格内に隔壁まで設けていた。当然、生産効率は損なわれ車重も増してしまう。実際に、初代ミニの車重は1130kg。当時、同じようなボディサイズで同排気量の1.5Lエンジンを積む、トヨタ・ヴィッツRSが970kgだったことを考えれば160kgも重かったのだ。
B37C15A(直3ディーゼル)/B47C20A(直4ディーゼル)

3、5ドアのクーパーDは1.5L直3ディーゼルターボ(116ps/270Nm)、クーパーSDに2L直4(170ps/360Nm)を搭載。クラブマンとクロスオーバーは150ps/330Nm版(D)と190ps/400Nm版(SD)。
なぜここまでボディ剛性の確保を徹底したのかといえば、ブランドは異なっても走りではBMWクオリティを守るためだった。そのコミットメントは揺るぎなく、それこそドライビングポジションも一般的なFFコンパクトカーより厳格なBMW基準で定めている。
B38A15A-P160プラグインハイブリッド

クロスオーバー・クーパーS Eオール4は、1.5L直3過給エンジンに電気モーターとリチウムイオン電池によるPHEV。モーター走行の最高速度は120km/h、満充電時の後続可能距離は42.4km(JC08)だ。
ところが、走りのキャラクターは別モノで、見た目のイメージとも異なった。ステアリング操作に対してスパッと向きを変える、いわゆる元祖ミニの「ゴーカートフィーリング」を再現。愛らしいフォルムとは裏腹に、実はオテンバ娘だったのである。
走りのキャラは多種多彩モデル選びは嬉し悩まし
MINI COOPER 3 DOOR

アレック・イシゴニス卿が設計したクラシック・ミニのイメージを色濃く残す3ドア。コンパクトなグリーンハウスと逞しいウエストライン、四隅にタイヤを配したデザインで安定感を表現。2018年春のフェイスリフトで前後ライトまわりの意匠を変更している。
このゴーカートフィーリングは、2代目を経て現行型となる3代目ミニにも受け継がれた。特に、元祖の直系となる3ドアはステアリングを切り込むと、“スパッ”と音を発したのかと思えるほどハンドリングがシャープなのだ。しかも、荒れた路面で大ざっぱにアクセルを踏み込むと、最近ではめずらしいステアリングの舵角が変わりかねないくらいのトルクステアが生じる。ハッキリいって乗り心地も硬めだ。
でも、こうしたハードな感触は想定内といえる。このセグメントとしてはゼイタクな高剛性ボディとリアのマルチリンクサスペンションを継続採用しているのだから、快適さ重視なセッティングも可能なはず。それをしないところが、いかにもミニらしい特徴でもある。
MINI COOPER S 5 DOOR

BMWグループ生産3世代目のF55として追加投入された5ドア。独特なアイコニックデザインと走行フィールを損なうことなく、後部ドアの追加とホイールベースおよび全長のストレッチで十分な居住空間を創出した。
しかし、ボディタイプが増えた現代のミニは、モデルによって少しばかり走りのキャラクターが違ってくる。後席に大人が座ると窮屈な思いをさせられる3ドアに対して、大人の4名乗車を可能にするべくホイールベースを延長した5ドア。ワゴン的ポジショニングのクラブマンは、ホイールベースがさらに長い。これらは、ハンドリングではゴーカートフィーリングを維持しながら、ホイールベースに比例してスタビリティが高くなり、ピッチングも抑制できる。なので快適性も向上する。
MINI CONVERTIBLE

新生ミニ初代から継続するコンバーチブルも人気モデル。現行型は1.5L直3(クーパー)と2L直4(クーパーS)のガソリン過給エンジンに7速DCTを組み合わせる。電動ソフトトップは前席上だけのスライド開閉もできる。
SUV的ポジションのミニ・クロスオーバーは、キャラクターからしてハンドリングよりもスタビリティを優先している。それでも、同セグメントのSUVモデルと比べても切れ味が心地よいハンドリングが楽しめる。しかも、クロスオーバーにだけ設定されるPHEVのクーパーSEは、走りの洗練度がイチバン高い。
MINI COOPER S CLUBMAN

ミニのエステートモデルとなる「クラブマン」は、特徴的な観音開きの「クラブドア」を現行型からスタンダードな4枚ドアに変更。使い勝手を向上させつつも、リアゲートは伝統的な左右対称の観音開きを継承している。
フロントに1.5Lの直列3気筒ターボエンジン、リアにモーターと外部電源により充電可能なバッテリーを積むので前後重量配分が最適化、ボディ自体も補強されているためだ。さらに、バッテリー容量が十分ならモーターだけでFR的な走行が可能であり、当然ながら優れた静粛性も得ている。その意味で、クロスオーバーはお嬢様キャラ担当ともいえる。
MINI COOPER S E CROSSOVER ALL4

BMWグループ共通プラットフォームで誕生した、ミニ史上初の5ドアSUVモデル。ミニのイメージを維持しながら豊かな居住スペースを実現して、ミニの好調なセールスを牽引。本格的4WDシステムの採用もトピック。
ところで、ミニのゴーカートフィーリングはハンドリングだけから実感できるわけではない。システム出力が224psに達するPHEVは、アクセルを踏み込んだときの加速がパワフル。各モデルに用意される2Lの直列4気筒ターボを積むクーパーSは、アクセル操作に対するレスポンスが超ダイレクトであり、一気に踏み込めば強烈にダッシュ。高性能版のJCWともなると、弾丸が飛び出すような加速すら楽しめる。

3ドア(211L)、5ドア(278〜941L)、クラブマン(360〜1250L)と、それぞれ荷室へのアプローチが個性豊かで、分割可倒式後席シートバックでスペースは拡大可能。クロスオーバー(450〜1390L)はリアバンパーがベンチになるクッションをボード下に格納。
その一方で、ミニ・ワンの1.5L直列3気筒ターボは実用性を優先したエコユニットだ。同エンジンの高性能版を積む3ドアと5ドアのクーパーは、刺激こそ期待できないが加速の軽快さはいかにもミニらしい。おまけにディーゼルターボも用意され、モデルにより1.5L3気筒か2L4気筒とその高性能版を搭載。経済性を優先してもいいし、圧倒的な力強さを実感することもできる。

最高出力231psと最大トルク350Nmを発揮する、ハイチューン版の2L直4ターボを搭載したJCW(ジョンクーパーワークス)を5ドアを除く全ボディタイプに設定。スポーティさを際立たせた専用の内外装も与えられる。
こうなると、もう何でもアリの状態だ。スタイリッシュな純正オプションも多彩なので、お気に入りのモデルを選ぶのもひと苦労。いや、その過程こそミニならではのエンターテイメントなのだ。

多種多様なボディとパワートレインに特別なペイントやアクセサリーを組み合わせた特別仕様車も随時リリース。ミニ誕生60周年記念モデルをはじめ、異業種ブランドとコラボしたスタイリッシュな限定仕様も魅力のひとつ。
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