月刊イタフラ

【嶋田智之の月刊イタフラ】電動チンクエチェントを考える

とっても惹かれる新しいフィアット500だけど……

1957年に発表されたヌォーヴァ・チンクエチェントは、イタリアの人達に移動の自由と自動車で走る楽しさを与えた名車として知られています。確かにそれは事実。けれど、そもそもの開発意図の太い柱が、当時の庶民の多くが暮らしのアシにしていたスクーターよりも、便利で快適な乗り物を安く提供して乗り換えを促そうというものだった、ということは意外と忘れられがちです。つまりシティコミューターとしての側面が大きかったわけですね。そんな歴史があるからってわけでもないんですけど、「今どき航続距離320kmって短くね?」の声に、「わりと充分」なんて思っているのです。そもそも頻繁にその距離を一気に走らなきゃならない人、そんなにいる? って。

――あ。先月ここでチョロリと紹介した、まったく新しいEV版フィアット500のお話です。2007年に登場したガソリンエンジンを搭載する方の現行チンクエチェントがデビューしたとき、新しいデザインでかつての名車のイメージを作り上げた高度なデザイン技術に誰もが魅了されたわけですが、今回もまったく一緒。未来感覚を持たせながらも“どこから見てもチンクでしょ!”なスタイリングには誰もが驚かされました。インテリアの雰囲気や仕立ても同じこと。その点で、関心を持ってる人はかなり多いのです。

一方で発表されたスペックは、42kWhのリチウムイオンバッテリーを搭載し、モーターの出力は87kW(118ps)。モーターで走るクルマとしての特性を考えると、現行チンクのどのモデルよりも爽快な加速が得られそう。最高速度は150km/hでリミッターが入り、0→100km/h加速は9秒とツインエアより2秒も速く、0→50km/h加速は3.1秒をマーク。この点だけでもかなり惹かれるのも確かです。

実は電動チンク、北米専用の“ 500e(2013年)”が存在します。24kWhのリチウムイオン電池で、航続可能距離はおよそ140km。このクルマを日本に持ち込んだ方がおられるので、騒ぎが落ち着いたら訪ねてみたいな~と。

そしてWLTPサイクルで320kmという航続距離。これは考え方ひとつですが、僕は街乗りメインであれば充分だと思うのです。そして50km走れる電力を5分で、35分あれば80%まで充電できる、というのは素晴らしいと思います。ただ、それって搭載している85kWの充電システムを活かせる急速充電器がないと宝の持ち腐れなんですよぉ~。しかも接続は欧州主体のコンボ2ソケット。つまり現在の日本の充電インフラにはマッチしてないのです。
日本仕様が誕生するか日本の充電環境が追いつくか。とても魅力的ななんですけど、それまではお預け。早く来い来い! なのです。

ルボラン2020年6月号より転載

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