国内試乗

【比較試乗】「メルセデス・マイバッハ Sクラス vs ベントレー・フライングスパー」ハイエンドサルーンでも役目は表裏一体

ドライバーズカーのベントレー・フライングスパー、ショーファードリブンのメルセデス・マイバッハSクラス。その役割は正反対となる2台だが、面白いのは根底に流れる早く、確実に、そして安全に移動するという点が共通なこと。異なるのは、アウトプットの方向性という点が見えてきた。

乗ると各々のスタンスがはっきりと主張する

本来なら、この2台は同じ土俵に並べて比較するようなものではないのかもしれない。というのも共に6L・12気筒、5mオーバーのボディ、3000万円近い価格を誇るハイエンドサルーンではあるものの、その目指す方向はまったく異なっているからだ。

BENTLEY FLYING SPUR/コンチネンタルGTのエッセンスを受け継ぎ、独自のディテールを散りばめたクラフトマンシップと最新技術の融合が織りなすインテリア。ローテーションディスプレイとパノラミックガラスサンルーフは是非選びたい装備だ。

メルセデス・マイバッハSクラスがデビューしたのは、2015年のロサンゼルス&広州モーターショーでのことだ。2002年に登場したマイバッハ57/62とは違い、ベースとなったのは6代目Sクラス(W222)だ。そのロングホイールベース仕様のホイールベースをさらに20cm延長。三角窓を埋め込みリデザインされたCピラーまわりと、2018年モデルでマイナーチェンジされた縦基調のフロントグリルが外観上の特徴といえる。

BENTLEY FLYING SPUR/フライングスパーは数年ぶりにエンブレムのデザインが刷新され、格納式となったフライングBのマスコットを備える。

一方、2019年に登場したベントレー・フライングスパーは3代目で、ミュルザンヌがその歴史に幕を降ろした今となっては、ベントレーを背負う、フラッグシップの重責も担っている。

BENTLEY FLYING SPUR/パワフルなW12気筒エンジンとレスポンスのいい8速DCTとのマッチングは見事。ベントレー初採用の4WSの効果は素晴らしく、4ドアとは思えない鮮烈なハンドリングでコンチネンタル GTにも劣らないドラーバーズカーとしての世界観も感じられる。

ベントレーとマイバッハが決定的に違うのは、フライングスパーがコンチネンタルGTをベースとしたドライバーズカーであるのに対し、マイバッハはSクラスの延長にあるショーファードリブンであるということだ。

BENTLEY FLYING SPUR

それはほぼ同スペックのエンジンを搭載する今回の試乗車にも端的に現れていて、635psを発生する5945cc、W12気筒DOHCツインターボを搭載するフライングスパーが、8速DCT、4WSと走りを意識したメカニズムを擁しているのに対して、630psを発生する5980cc、V12気筒SOHCツインターボを積むマイバッハS650には、トルコンATの7Gトロニック、そしてフロントガラス上部にあるステレオマルチパーパスカメラで前方の路面の凹凸を検知し、コイルスプリングのトラベリングポイントやダンパーの減衰を最適にし、コーナリング時に車体をコーナー内側に傾けフラットライドを実現するダイナミックカーブ機能を搭載したマジックボディコントロール(MBC)が備わるなど、明らかに後席の快適性を意識した内容になっている。

BENTLEY FLYING SPUR

リアシートに座ると、十分以上の余裕と静粛性を持ちながらも、クルマとの一体感を感じさせる心地いいタイトさのあるフライングスパーと、最大43.5度までリクライニングし、オットマンまで備わるビジネスクラスのようなシートを持つマイバッハの見せる世界は対照的だ。

BENTLEY FLYING SPUR

では運転してみてもまったく別物か? というと、必ずしもそうとは言い切れない。高級車というのは、ただ艶やかで豪華であればいいわけではなく、圧倒的な性能を持ち、速く安全に目的地に辿り着く能力が必須となる。その点において、両車の向いている方向は同じと言っていい。ただ、そのアプローチが正反対なだけだ。

BENTLEY FLYING SPUR

全面的に刷新され、進化した3代目コンチネンタルGTの美点をそのまま受け継ぐフライングスパーの走りは文句なく麗しい。個人的には今世界で売られているサルーンの中でベストだと思っているが、久々に乗ってみてもその想いが変わることはなかった。

大きく重く、パワフルなW12ユニットを載せているにも関わらず、なぜか軽々しさまで感じてしまうのが、新しいフライングスパーの最大の特徴だ。

高級車の素質は一緒。違うのはそのベクトルだ

その秘訣のひとつは、ノーズが伸びてフロントミッドシップとなったことでバランスが向上したシャシーだが、そこに搭載された48Vシステムのアクティブ・アンチロールバー、3チャンバーエアサスペンション、そしてフライングスパーで初採用された4輪操舵システムが織りなす軽快でシュアなハンドリングと滑らかで安定した乗り心地は見事のひと言に尽きる。

MERCEDES-MAYBACH S650/メカニズムも内外のデザインや意匠も基本的にW222型Sクラスと変わらない。まるで地上を走るビジネスジェットのようで、そのハイライトはリアシート。より贅沢な4人乗りのファーストクラスパッケージも選べる。

もちろんオートマモードもいいのだが、レスポンスがよくスムーズな8速DCTとW12との相性がよく、スポーツモードと標準のベントレーモード、コンフォートモードとのメリハリも効いているので、パドルシフトで操りながら、ついついペースを上げてしまう自分に気づく。運転を飽きせないというか、しっかりと集中できるので結果として余計なストレスが少ない。まさにドライバーズカー、スポーツサルーンの理想型というべき姿に仕上がっているのだ。

MERCEDES-MAYBACH S650/マイバッハのボンネットマスコットはメルセデス・ベンツが主体。

対するマイバッハS650は、Sクラスの良さはそのままに、ひたすら静かに滑るようにゆったりと走っていく。ノーズに収まるV12気筒エンジンは2360kgの車体に対しても十分すぎるパワーを発揮するが、声高にその存在を主張することなく、終始黒子に徹している印象だ。スムーズで滑らかな7速トルコンATもそのキャラクターによくマッチしている。

MERCEDES-MAYBACH S650/6L・V12気筒エンジンが織りなす豊潤なパワーとトルクをスムーズに伝達する7Gトロニックのドライブマナーはマイバッハの美点のひとつ。乗り味はどこまでも滑らかで柔らかく、そして優しい。まさにマイバッハの信念が詰まった一級品だ。

センターコンソールのスイッチで、「スポーツ」「コンフォート」「カーブ」と3つのドライブモードを選択できるものの大きな味わいの違いはなく、MBCの旨味を活かしたコンフォート寄りなセッティングになっている。特筆すべきはカーブモードで、高速コーナーでもタイトカーブでも2.5トンの巨体をロールさせることなく、フラットな姿勢を保ち続ける見事な制御ぶりには驚いた。

MERCEDES-MAYBACH S650

また決してスポーティではないものの、ハンドリングは想像以上に素直で気持ちよく、思いのほか小回りも効くので、ショーファーは必要以上にリアシートに気を配らなくてもスムーズな運転ができるはずだ。

MERCEDES-MAYBACH S650

今回、強く印象に残ったのは、それぞれのブランドのスタイルやスタンスが、この2台に想像以上に色濃く反映されているということだ。それこそが、この両車がハイエンドサルーンを名乗る所以といえるだろう。

MERCEDES-MAYBACH S650

一口に“超高級車”とカテゴライズするのは簡単だが、このように実際に触れ、乗ってみると、それぞれのブランドのスタイルやスタンスが、想像以上に色濃く反映されていることがよくわかる。

MERCEDES-MAYBACH S650

それこそが、この両車がハイエンドサルーンを名乗るに相応しい理由といえるだろう。
そしてそこには、世のハイパースーパーカーにも劣らない世界観と魅力が確実に存在する。

【Specification】MERCEDES-MAYBACH S650
■全長×全幅×全高=5465×1915×1495mm
■ホイールベース=3365mm
■車両重量=2360kg
■エンジン種類/排気量=V12SOHC48V+ツインターボ/5980cc
■最高出力=630ps(463kw)/4800-5400rpm
■最大トルク=1000Nm(100.2kg-m)/2300-4300rpm
■トランスミッション=7速AT
■サスペンション(F:R)=4リンク:マルチリンク
■ブレーキ(F:R)=Vディスク:Vディスク
■タイヤサイズ(F:R)=245/40R20:275/35R20
■車両本体価格(税込)=29,300,000円
お問い合わせ
メルセデス・ベンツ日本 0120-190-610

【Specification】BENTLEY FLYING SPUR
■全長×全幅×全高=5325×1990×1490mm
■ホイールベース=3195mm
■車両重量=2540kg
■エンジン種類/排気量=W12DOHC48V+ツインターボ/5945cc
■ 最高出力=635ps(467kw)/6000rpm
■最大トルク=900Nm(91.8kg-m)/1350-4500rpm
■トランスミッション=8速DCT
■サスペンション(F:R)=Wウイッシュボーン:マルチリンク
■ブレーキ(F:R)=Vディスク:Vディスク
■タイヤサイズ(F:R)=265/40ZR21:305/35ZR21
■車両本体価格(税込)=27,203,000円
お問い合わせ
ベントレーモーターズジャパン 0120-97-7797

【Another Choice】ROLLS-ROYCE PHANTOM/ロールス・ロイス・ファントム

もはや自動車という概念を超えた存在
群雄割拠の下克上が続くスーパースポーツカー・シーンと違い「最高級車」の座を1世紀以上守り続けているロールス・ロイス。その最高峰であるファントムには、もはや自動車という存在を超えた神々しささえある。

フォト=神村 聖/S.Kamimura ルボラン2021年1月号より転載

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